三十路を超えて呪いが解けた皇女殿下は、男の子達を愛で(弄び)たい 〜悪役令嬢? いいえ、チートな逆ハーレム極悪皇女殿下ですよ〜
三十路を超えて呪いが解けた皇女殿下は、男の子達を愛で(弄び)たい 〜悪役令嬢? いいえ、チートな逆ハーレム極悪皇女殿下ですよ〜
遡ること今から20年前。
私は12歳の誕生日に、皇女として華々しく夜会デビューを果たす予定だった。
だが、警備の隙をつき王城に侵入した魔法使いの1人によって、私は呪いをかけられる事となる。
両親はあらゆる手を尽くし私の呪いを解こうとしたが、誰一人として私の呪い解くことは叶わなかった。
残された呪いを解く方法は2つ。
1つは、呪いをかけた本人を捕まえて、私にかけた呪いを解呪させるという基本的な方法だ。
しかし、呪いをかけた魔法使いはどこかへと逃げ延び、現在も見つかっていない。
そうなると残る手は1つ。
術者である本人が死ぬ事で、私にかけられた呪いが解かれるのを待つしかない。
私は、もう何年もその日を待ち続けている。
◇
静粛が漂う暗闇の中で、時を刻む秒針の音だけが響く。
夜を照らす月の光は雲に隠され、星屑の瞬きすらもこの部屋には落ちてこない。
真夜中に目が覚めた私は、ベッドから体を起こす。
「今日は体が軽いな」
異形の姿へと変化させられ、言葉をしゃべる事すらも叶わなかった私は、20年の間、ずっとこの部屋に閉じこもっている。
まぁ、前世でも閉じ込められていた私にとっては慣れている事だ。
忌み子として私を監禁していた前世の家族はどうでもいいが、私の呪いを解くために奔走し、時間があれば言葉が通じずとも会いに来てくれる今世の家族の事は、とても愛おしく思っている。
「風の音か?」
ふと音のする方に目を向けると、外界へと続く扉が半開きになっている事に気がつく。
おそらく侍女が鍵を閉め忘れたのだろう。
「この時間なら誰も居ないし、少し外の庭に出てみるかな」
呪いをかけられてからの20年間、私はそんな事を考えることもなかった。
この時、私は自らに起きた違和感に気がつくべきであったのだと思う。
言葉を喋れぬはずの私が、声を発しているという事に。
「あの頃と同じか」
20年ぶりに見た庭は、昔と変わらぬ美しさを保っていた。
母さまのおかげだろうか。
私が何時外に出てもいいように、ずっと手入れしていたのだと思う。
懐かしさに惹かれた私は、久方ぶりの庭園を徘徊する。
「思わず童心に還ってしまったな、さて、誰かに見られても困るし、そろそろ戻るか」
神の悪戯か、雲の隙間から漏れ出た月の輝きが庭を照らしていく。
「しまったーー
油断した、そう思った時にはすでに遅かった。
まるで鏡のように均一に張られた水面に、私の姿が惜しげも無く晒し出される。
「きゃっ」
歳不相応な少女の様な声を出し、私はその場にしゃがみ込んでしまう。
しかし、その時に発した自らの声に私は漸く違和感を感じる。
その正体を暴くために、私は勇気を出して瞼をゆっくりと開けていく。
目の前には煌めく銀糸の髪がしな垂れ、視線を動かすと艶かしい白磁の指先が夜に映える。
私は震える指先と感情を抑えつけ、もう一度水面へと顔を近づけた。
「ふふ、ははっ」
揺らぎのない水面に映り込んだ人の姿を見て、思わず笑みをこぼれる。
水面に落とされた蒼き夜空に散りばめられた宝石たちよりも、一際輝く私の深紅の瞳が火を灯す。
私は、水面を鏡に見立て、自らの全身を隈なくチェックしていく。
前回までの記憶が12歳だったせいか、やはり多少なりとも違和感を感じる。
幼少期より肉体は大きく変化しており、花開く前の少女の面影は消え去り、妙齢の女性の肢体がやけに生々しい。
「くふっ、ふはは、あの魔法使いめ! 終ぞ絶えたか!!」
恐らく私に呪いをかけた魔法使いの寿命が尽きたか、なんらかの要因で命を落としたのであろう。
私が、この時をどれだけ待ちわびていた事か、自らの感情が抑圧できず口角がヒクつく。
“ガサッ、ガサガサッ”
草木の擦れる様な音に反応した私は、腰に左手を当て後ろに振り返る。
「誰だ!」
「うわっ!」
急に振り返ったからだろうか。
私の姿を見た少年は、地べたに転がり尻餅をつく。
年齢にして16歳前後といったところか。
ガウンの下の寝間着に、金糸で縫われた刺繍が見える。
光沢のある上等なシルクの寝間着からは、それなりの身分にある者だと予測できた。
恐らく、どこかの貴族子弟が道にでも迷ったのだろう。
私は彼に歩み寄り手を伸ばす。
「少年、すまなかったな、ほら、手を取れ」
少年は目の下を紅く染め、チラチラと此方を見つつも視線を地面に落とす。
ふむ、近くで見るとかなりの美少年だ。
まるで、お伽話から現れた様な亜麻色の髪色に、ブルーの瞳は朝陽が照らす汚れなき海のように輝く。
少年と男の狭間にある特有の儚さが、よりファンタジーさを醸し出しているのだろう。
「みえ...」
唇を震わせた少年は、言葉を絞り出す。
「ミエ? 私はミエという名前の女子ではないぞ?」
流石の私も、見知らぬ女に間違われるのは不機嫌だと、怪訝な表情を見せる。
「み...見えてますから! 色々と!!」
彼は寝間着の上に羽織っていたガウンを脱ぎ、私に向かって差し出す。
「ん?...ああ、そういう事か」
異形の姿に変えられていた私は、この20年間、普段から何も着ていなかった。
それ故に、呪いが解けた事で元の体に戻ったはいいが、実はここに来るまでの間、ずっと全裸でうろついていたという事である。
どっからどう見ても、ただの痴女だ。
「すまないな少年、見苦しいものを見せた」
別に見られたからと言って減るものでもないし、どうという事はない。
少年から手渡されたガウンを着るが、私の方が身長が大きく胸囲があるために収まりが悪い気がする。
個人的な意見だが、此方の方がより危険な気がするのだが気のせいだろうか。
「い、いえ! そんな事ないです!! むしろ嬉しかっ...私が見たどの女性よりも綺麗でした! ...じゃなくて、すいません...その、ちゃんと忘れますから」
しどろもどろになりながら謝罪する少年の声は、羞恥心からか徐々にトーンダウンする。
なるほど、私を女として意識しているから少年は赤面したのだな。
少年のその感情の波がとても愛おしかった。
「君のような若者にそう言ってもらえると嬉しいよ」
私は少年の手を掴んで引き上げると、勢いが余ったのか胸の谷間に顔を埋める。
やはり、この身体に慣れてないのか力加減が微妙だ。
「おっと、すまない」
私が少年の体を離すと、その顔は先ほどよりも更に頬を茹で上げ、目を渦巻いていた。
少年とはいえ殿方に欲情されるなど、前世も含めても私にとっては初めての事である。
目覚めた嗜虐心に思わず舌なめずりし、そっと彼の耳もとで囁く。
「今日は機嫌がいい、見た物は忘れなくていいし...別に、使ってくれてもいいのだぞ?」
少年には衝撃が強すぎたのか、今にも泡を吹いて倒れそうだ。
私は彼の耳に優しく息を吹きかける。
「うっ...」
意識を引き返した少年を見て、私は微笑む。
「今日はもう遅い、部屋に帰りたまえ、帰り方は分かるかな?」
少年はぶんぶんと首を縦に振る。
「それと、ガウンは侍女に命じて明日君の部屋に届けるから、名前を聞いてもいいかな?」
「僕...俺の名前はルーファスって言います、あの、あ...貴女の名前を伺っても...?」
こうやって人に名を問われるのは幾年ぶりだろうか。
思わず感傷に浸ってしまいそうになる。
「私の名はリリィヴァイス、親しい者からはリリィと呼ばれておる」
ルーファスは私の名を何度も反芻しているようだった。
「リリィ...リリィさん、俺、明日もここにきます、その時でいいんで返してくれませんか? 俺はまた、貴女に会いたいのです」
家族や友人とは違う、真っ直ぐと向けられる好意的な感情が擽ったい。
赤面しながらも私を直視するルーファスの瞳が愛おしくて、思わず私は手を伸ばす。
「ふむ、いいだろう、では、明日の夜、同じ時間帯にここで」
彼の頬を指先でなぞり、乱れた髪をとかす。
私に触れられると思って見なかったのか、ルーファスは緊張で固まっているようだ。
流石にこれ以上弄ぶのはかわいそうかと、最後に親指で目の下についた草を払いのける。
私の手が離れたことで、ルーファスの緊張の糸も少し解けたようだ。
「はい! では、また明日! おやすみなさい、リリィさん」
もう限界だったのか、ルーファスは言い逃げのような形でその場を走り去ろうとする。
我慢すべきだと思ったが、こういう反応をされると可愛くて仕方がない。
私は悪戯っぽく音域を上げ、少女のような声を出す。
「おやすみ、ルーくん」
ルー君は足がもつれ、その場に転がっていく。
起き上がったルー君の顔は、せっかく綺麗にしてあげたのに、髪を乱し、頬には泥をつけている。
私はしてやったりと微笑みを返し、その場を後にした。
これが後の極悪皇女リリィヴァイスと聖太子ルーファスの出会いである。
読んでくださり、ありがとうございます。
お陰様で日間短編ランキングに掲載されました。
お礼に連載化してちょこっと続き書いてみます。