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王都の薬売り  作者: 鮎河和生
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7話

薬を審査に出した後は、お店の改装をしなければいけない。

といっても、あまりお金をかけられないので、看板やお店の中の小物とかだけど。まだ登記が終わっていないけれど支払は済んでいるので鍵をもらっている。最初は家の中の掃除から始めた。

私は箒で掃きながら天井の埃などを小さな風で落としていく。


最近ようやく日常魔法以外の魔力も使えるようになった。まだ加減が分からないので、かなり小さい威力か、かなり大きい威力かしか出せないが。その練習もミュートさんが付き合ってくれた。被害が最少で済むように結界を張ってくれたのだ。


「魔道士にでもなるの?」


とミュートさんはからかっていたけど、本当に笑えないくらい下手くそだった。それが少しは使えるようになったのだ。そんな状態で薬に魔力を入れられるかどうか分からないけれど、どんな事にも魔力を使って経験を積んでおきたかった。


「上手く出来てるね~」

「はい、少なく魔力を出すことは出来るようになりました。ただ、ミュートさんの言うように糸のように細く出すことまではできません」

「まぁ、これも経験だからね。何度も試さないと出来ないだろうね。でも少しづつ出来るようになってきてるから、きっとそれも出来るようになるよ」

「そうですね。やるしかないですね」


それから雑巾がけをしようとして水を出し過ぎてスブ濡れになったりしたが、なんとか掃除を終えた。


「これから看板見に行く?」

「はい、お昼御飯を食べたあと行きます。ついてきてくれますか?」

「うん、看板屋さんは知らないけど、入口に案内書があったから、そこで聞けばいいよ」


案内書で聞くと、近くに3件看板屋さんがあった。3件とも回ることにする。1件目へ向かおうとしてミュートさんと2人で歩いていたら、すごく背の高い男性に声をかけられた。


「あれ?ミュー?」


どうやらミュートさんの知り合いのようだ。ミュートさんは顔を顰める。


「デートの最中に声をかけるなんて無粋だな」

「ああ、ごめん。珍しいからつい」


デートじゃないよ、ミュートさん。背の高い男性を見ると、蜜色の柔らかい金髪に、それに似合う中性的な顔立ち。長いまつ毛から覗く深い海の色。すごく印象的な人だった。じっと見すぎていたのだろう。その人がこっちを向いてニコリと笑った。


「初めまして、お嬢さん。僕はミューの知り合いのマーシャルだ。よろしくね」

「カミラ、よろしくなんてしなくていいからね。カミラ?ちょっとマーシャに見とれてるわけじゃないよね?ダメだよ?」

「マーシャルさん、よろしくお願いします。ちなみに今はデート中ではありません」

「カミラ!私はデートだと思ってるのに!」


いやいや、はっきり言っとかないとね。マーシャルさんはニコニコしながら話していたけれど、ふと思いだしたようにミュートさんを見た。


「そうだ。ミューに見てほしいものがあるんだ。ちょっと来てくれないかな?」


その口調は有無を言わさない感じで、マーシャルさんの印象とミスマッチしていた。その感じた違和感を見せないように私はミュートさんに言った。


「私は1人で回りますので、マーシャルさんの用事を済ましてください」

「…でも…」

「大丈夫ですよ。地図ももらったので迷子にならないし、子供じゃないんですから自分で看板も選べますって」


私は笑ってミュートさんを安心させる。ミュートさんはしぶしぶといった感じで頷いた。


「わかったよ、カミラ。可愛いカミラを1人にさせるのは不本意なのだけどね」


ミュートさんはマーシャルさんを睨むと、マーシャルさんはビクッと肩を揺らした。


「明るいうちに帰りますから。心おきなく行ってください」

「確認しに行くからね!いなかったら探すからね!それと他の男には絶対ついていかないように。男はケダモノなんだからね!」

「はい、は~い」


めんどくさいミュートさんをシッシッと追い払う。ミュートさんは振り返りながらもマーシャルさんと歩いて行った。


「さて」


2人を見送ってから改めて地図で場所を確認する。方向音痴だから慎重に歩かないと。1件目は意外と近くだ。明るいうちに3件回らないと恐ろしいことになりそうなので、私はさっそく向かうことにした。


「ここかぁ」


…なんというか…お店に合わないくらい大きな看板がドーンとかかっている。よく落ちないな…。

中に入ると、とてもマッチョなおじさんが座っていた。


「…依頼かい?」

「えっと…看板頼むの初めてで…サンプルか何かあれば見せてもらいたいな、と…」

「ああ、なるほどな。そこらへんにあるから勝手に見な」


おじさんが顎を向けた先にたくさん看板があった。デザインだけでなく大きさも様々だ。

色々見てみたいが、大きさくらいは決めておかないと迷って訳が分からなくなりそうだ。

横の長さは2メートルくらいかな。縦の長さは…50センチくらいだろうか。

その大きさのデザインを見ていく。1点、蔦に囲われていて上品な印象の看板があった。これは薬剤師の看板のイメージに合うかも。その看板を見ていると、おじさんから声をかけられる。


「それ、気に入ったのかい?」

「はい、これがこの中で一番しっくりくるな、と思って」

「どんな店を出すんだい」

「薬屋です」

「ああ、薬剤師なんだな、アンタ。なるほど。で、店の名前はなんなんだ?」

「……え?」

「店の名前だよ。その看板の大きさに合わせた名前を紙に書いて貼ってやるよ。仕上がりのイメージがつくだろ?」

「そ、そうですね…」

「ん?どうした?」

「い、いえ…お店の名前、忘れてて…」

「ああ?!」


驚かれた。それはそうだ。ついうっかり忘れていた。お店の名前は大事だよね。しまった!!田舎ではなくても二つしかなかったから看板なんて出してなかったし。

私は急ぎ店名を考える。

『薬屋カミラ』………なんだかなぁ…。

『カミラ薬局』………名前使うのやめようかな…。

『なんちゃら薬局』……『王都薬局』……ほら、場所の名前使ったりするじゃない?

『王都の薬屋』………う~ん…普通?……『王都の薬売り』………薬売りかぁ…なかなか使わない感じがいいかな。


「えっと…仮の名前なんですが…『王都の薬売り』でお願いします」

「これまた変な名前だな。自分の名前とかつけないのかい」

「死ぬほど恥ずかしいので止めておきます」


そう言うとおじさんはニカっと笑った。


「すぐ用意するから待ってな」

「はい、あ…でもまだ買うとか決められないですけど…」

「いいよいいよ。帰って検討してくれ」

「じゃあ、遠慮なく…お願いします」


しばらくして紙に書かれたものを看板につけると、妙にしっくりきた。

おじさんにはお礼を言って、次の看板屋さんへ向かった。

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