5話
不動産屋に入ると、ギルドからの紹介と言うとすぐに対応してくれた。
急ぎでお店が欲しいというと、希望を聞いて条件に合うものがあれば今日にでも案内してくれるらしい。
「なるほど。できれば住居付きがよろしいんですね」
細かく私と打ち合わせしてくれているのは、ギルド担当のロイドさん。
「はい、予算内であれば、ですが…。それとお聞きしたいのですが、王城から遠いと売上が少なかったりしますか?」
「いえ、むしろ王都の入口付近の方が売上は高めだと思います。定期的に購入される薬はやはりポーションとかの回復薬になりますから、冒険者が出る前に買い出ししますからね。王城に近い方が使う機会は少ないでしょうね」
「となると、入口付近の方がお店の値段は高めなんですね」
「そうですね。店舗となるとそうなります。王城に近い所はほとんど住居ですから」
そうだよね。王城に勤める人の方が家が近い方がいいもんね。
「まぁ最初は王城と入口の中間に店を構えて、売上が伸びてきたら入口に移転する人もいますが、カミラさんは購入希望ですから、できるだけ入口付近の方がいいでしょうね」
「そうですね。どこか良いところありますか?」
ロイドさんは大きなファイルを何個か出して色々探してくれる。
ミュートさんは初めて来たのだろうか、興味深そうにそれを眺めていた。
「…ミュートさん、王都に用事、あるんじゃないんですか?」
「うん、あるんだけど今日じゃなくてもいいから。『カミラ』を1人にさせるわけないでしょ。今日は最後まで付き合うよ」
紳士だ。なんだかこそばゆい気持ちになる。
有難いし嬉しいんだけど素直に喜べないのはなんでだろ。
ちょっと顔がピクピクしていると、ロイドさんが物件を見つけたようで嬉しそうに顔を上げた。
「今日、ご案内できるもので3件あります。後1件はまだ入っていますが、今月で立ち退きます」
「では見られる3件を今日見せてください。良いものがあれば今日決めたいと思います。決められないときはもう1件も後日見せてもらっていいですか?」
「はい、そうしましょう。ではご案内しますので少しお待ちください」
しばらくすると、ロイドさんが資料を持って出てきた。
「ここからは少し遠いですが、歩きますね」
ロイドさんが案内してくれた1件目は、不動産屋さんより30分ほど歩いたところにあった。
大通りより一つ奥の通りに入ったところで、少し人通りが少なく暗い場所だった。
「少し暗いですね」
私は正直な感想を言った。一つ通りを入っただけなのに随分と印象が変わってしまうものだ。
ロイドさんが入口のドアを開ける。中はきちんと掃除されているのか、カビの臭いなどはしなかった。
1階はこじんまりしたカウンターが一つあるだけだった。1階全体で10畳ほどの広さだろう。カミラの家のような作りのようで、奥に休憩室があり、休憩室から2階に続く階段を上ると2階は住居になっていた。まぁ1人で済むので住居の部屋の大きさは良かったのだか、ちょっとお店の部分が狭い。もう少し広めが良かった。
このお店でどれくらいの値段なのだろう。
「ここは少し日当たりが悪いですね。密集しているところなので。それでも通りを一つ入っただけなので、人気の物件でもあります。ここは賃貸としても貸していて、どちらでも選べます。ほとんどの人が賃貸を選びますね」
「それは値段が高いからですか?」
「そうですね。ここは購入しようとすると750万カイルはします」
…ちょっと思ったより高いかな。購入予算は1000万カイルだから、予算内ではあるんだけど少しお店がしっくりこない。ロイドさんから間取り図をもらったが、ここは購入は考えられないな。
細かい所を色々確認して次の物件へ。今度は入口付近ではあるけれど、大通りより二つ入ったところにあった。入口付近には主に食堂などが多く喧騒が聞こえてくるけれど、ここまで入ると少し静かだ。しかもさっきより一つ一つの建物が大きく明るかった。ここは期待できるかもしれない。そう考えながらロイドさんの後について中に入る。
先程の倍、20畳ほどの広さがあった。カウンターは一つ。他に商品棚が二つあって、たくさん商品を並べられるようになっている。奥には調合室があった。ちょっとこれは嬉しい。今まではリビングかカウンターで薬を作っていたのだ。とにかく片付けるのが面倒だった。調合室があればある程度ほったらかしでも大丈夫になる。…お客さんが見てないところでは、少しすぼらでいたいよね。
2階は完全に住居になっていて、1LDKになっていた。2階の窓からよく日が当たっている。
「広いし明るくていいですね。お店の方も使いやすそうですし。ここはいくらになるんでしょうか?」
ロイドさんは間取り図をくれながら答えた。
「ここは1200万カイルです。ちょっと予算より高いですが、一番お勧めの店舗です」
う~ん悩みどころだ。確かに先ほどより良い。この位のオーバーなら手が出ないこともない。
「私もここは良いと思うよ。2階の部屋も2人一緒に住めそうなくらいはあるし」
「…住ませませんよ」
「けち~」
やはりミュートさんもここは良いようだ。最後の1件も見てから、ここが一番良かったらキープしておきたい。
ロイドさんは3件目を案内してくれる。でもかなり入口から離れているようだ。王城からも入口からもちょっと遠い場所に3件目はあった。
見た目から一番広い物件であることが分かる。なぜならここには庭があるからだ。
以前使っていた人が庭に薬に必要な薬草を育てていたらしい。店舗も2件目と同じく20畳あった。
ただこちらは調合室に休憩室があった。誰か雇っていたのかな?お店は少し狭くなっているが、そんなに多くの薬を売るわけではないので、このくらいの広さでも十分だった。
2階も1LDKだったが部屋が一番広く取られている。休みの日に多くの時間を過ごす部屋が広いのは嬉しかった。ただ、立地が遠いのが最大のネックだった。
「…ここはいくらになりますか?」
「ここはちょっと王都の中でも外れになりますから、この広さで550万カイルです」
!!!安い!!!
うわ~欲しい!庭があれば仕入を安く済ますこともできる。薬草以外にも花を植えて華やかにして癒しにもなるし、一番自分に合っている気がした。
「…ここが良さそうだね。確かに立地は気になるけど、買い手は一度気に入った薬が出来ると通うから、宣伝しだいだと思うよ」
「そうですね。悩んで保留して他の人に購入されたくないし、ここに決めます!」
「大丈夫ですか?ここはあまり人気のある物件ではありませんから、数日悩んでみても大丈夫ですよ」
そう言ってロイドさんは即決しようとする私に確認したが、私はここ以外にない気がした。
「いえ、ここ買います!」
私は家を手に入れた。