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王都の薬売り  作者: 鮎河和生
4/18

3話

ようやく王都へ出かける準備ができた。


それまでにリックとも話したり、今のお店を閉めて王都へ移転することもお客さん達へ話すことができた。

みんな惜しんでくれたけど、元々村の人間ではなかったカミラに対して反対することはなかった。

村の薬剤師さんにもお客さんのリストと薬の調合のメモを渡した。

これからはその薬剤師さんの方へみんなも買いに行くだろう。

私になって少ししか関わってはいなかったけど、ちょっと寂しい。

その間に私は18歳になった。

これで王都での契約も1人で出来るようになる。

カミラの人生でも和音の人生でも、こうやって故郷を飛び出して1人で暮らしたことはなかったから、緊張もするけれど期待も大きくなる。

朝早く私は一週間分の荷物を持って家の鍵をかけた。


「待ちくたびれたよ。こっち、こっち!」


…声のする方へ行きたくはないが、仕方なくそちらへ向かう。

ここでのやらなければならないことを終える間、しつこく「ま~だ~?」と急かされた人物だ。

おかげであまりない思い出に浸る間もなかった。

そのミュートさんは何故か家の裏にいた。


「…おはようございます」

「不服そうだけど、約束は守ってくれるんだよね?」

「もちろんです。他のお願いよりマシですから」

「え~一番素敵なお願いだと思うんだけど」


(…なんだろ…。「結婚して」と言ってすぐOKが貰えると思ってるイケメン臭に鼻を摘みたくなる)


「その冷やかな顔止めて。地味に傷つくから」


心は読めないけれど顔色は窺えるらしいミュートさんにコッソリ溜息をつく。


「はいはい。なんでこんな所にいるんですか?」

「ちょっとその態度が気になるけど、それはまた後で。なんでここにいるかというと、王都近くまで飛ぼうと思って」

「…飛ぶ?」

「うん。転移魔法でね」


さすが魔族様なだけある。正直この見目麗しい魔族様を列車にどう乗せようか考えていたのだ。ただでさえ黒髪で目立つのにこんなに奇麗な顔じゃ注目されまくって、王都までの数時間の列車の旅がひたすら苦痛になりかねなかった。


「あ、それともう一つ」


そういうとミュートさんは私の顔に手を翳した。


「その目は目立つからね」

「…鏡がないので見れないんですが、何をされたんですか?」

「目を緑色の方に統一した。金色の目の方が人攫いには人気だから、緑の方にしたよ。ああ、あとでこの魔法は教えるよ。王都で暮らすようになると危険も増すから、その目は隠しておいた方がいいだろうからね」

「ありがとうございます」


見慣れていてスッカリ忘れていたが、私はオッドアイだった。村の人も何も言わないので見慣れているんだろう。確かに思い出してみると、オッドアイの人は私以外見たことがない。


「さあ、しっかり私に捕まって」


ミュートさんはここを掴むようにと、ちょいちょいと自分のローブを引っ張った。

素直にローブを掴むと、いきなり景色がゆがんだ。


(気分の悪いときにエレベーターに乗ると、時々こんな気持ち悪さになるわ)


吐き気を抑えながら周りの景色を見ると、もうそこは家の裏ではなかった。私たちの真横に数十メートルはある塀があって、他の人から私たちが見えないような場所に移動していた。


「転移魔法って使える人あまりいないからね。注目されると面倒だし、ちょっと入口からずらしてみたよ」


なんでここ?と疑問に思った私の顔を見て、ミュートさんが答えてくれた。

ミュートさんは私がボケっとしている間に、さっと自分の目の色を変える。私と同じ緑色だ。


「赤い目、変えちゃうんですね」

「まぁ魔族は普通人里に下りないからね。それに同じ髪に同じ目だから兄妹に思われて、一緒に動きやすいでしょ?」


魔族って珍しい動物か何かだったのか。ミュートさんは人の形をしているけれど、本当は違うのかもしれない。希望としてはケモミミ好きなので、この綺麗な顔に狼のような耳をつけて尻尾も…やばい。想像したら可愛すぎて悶えそう!


「…なんだかよからぬ想像をしていることだけは分かるな…」

「あ、いえいえ。ミュートさんってこの姿が本当の姿なのかなと疑問に」

「それ以上の何かを想像していたでしょ。でも私はこのままだよ。人間の血が混じっているからね。所謂、半魔ってやつ。姿は魔法で変えられるけど、本来の姿はこれだけだな」

「…あ~残念です」

「…この顔好きって言ったくせに」

「!!!!」


ああああ!また思い出してしまった。最初にミュートさんに会った時に何もかも喋ってしまったとき、ミュートさんの顔は好みかっていう質問があった。私は「めっちゃ好みです」と答えていたのだ。

思い出して再び起こった羞恥心に悶絶しそうになる。


「思い出させないでくださいよ!ああああ!恥ずかしすぎる!」

「そんな所も可愛いなぁ。やっぱりお嫁に…」

「遠慮します」

「…断るの早いよ〜」


まともに相手にしていては身が持たない。ミュートさんを無視して私は入口に向かう。


朝早い時間だからか、王都への入口に人は少ない。入口にいる騎士の人達は眠そうに手形をチェックしていた。

すぐに私とミュートさんの番になり、ミュートさんが手形を渡すと、騎士の人は驚いた表情をしてミュートさんだけでなく私も通してくれた。


「私の手形、確認しなくて良かったんですかね?」


私は大人しくミュートさんの後ろにくっついていたが、そんなに存在が薄かっただろうか。


「いや、私の連れだからその人物は保証されるってことかな」

「そんないい加減な…私が悪者だったらどうするんでしょうか?」

「和音が悪女?…刺激的でそれもいいね」


変な想像をさせてしまったらしい。ミュートさんは嬉しそうに言った。そんな彼を再び無視して私は初めての王都を見る。辺りにはお店が並んでいて、こんな早朝でも数件空いていた。


「朝ごはん、食べたいな」


まだ薬剤師ギルドも空いてないだろう。まずは腹を満たしておきたかった。ミュートさんは慣れた感じで開いているお店の中の一つに入る。


「ここが一番のオススメかな」


そういいながらミュートさんは座ってメニュー表をくれた。私も向かいに座りながら受け取る。

朝なので簡単な料理を頼むとすぐに持ってきてくれた。


「ホントだ。美味しいです」

「でしょ?ここは私の知っているお店だけど、ずっといることになるんだから2人で色んなお店に入って美味しいところ見つけようね」

「…同意しかねます」

「なんでさ!」


なんで2人で…。嫌な予感しかしないじゃないか。

相変わらずのやり取りをしながらお店の中を見る。朝早いせいかお客さんは私たちを含めて2組しかいなかったが、程よい広さの店内で窓が明るくて光がたくさん入って居心地が良い。


(私のお店もこんな風に居心地の良いお店にしたいな)


入ってみて良かった。こういうのはとても参考になる。

たとえ薬のお店でも、何度でも来たいと思わせたい。

美味しい朝ごはんを食べた後、薬剤師ギルドまでの道をゆっくりと歩く。

ぼちぼち道沿いのお店が開き始めている。ギルドももう開いているはずだ。

王城の門に一番近い場所に薬剤師ギルドはあった。中を覗くと人がちらほらいる。

和音は少し緊張しながらギルドに入っていった。



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