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王都の薬売り  作者: 鮎河和生
16/18

15話

「ミュートさん!」


 1年ぶりに見る姿は何も変わらなかった。驚いて思わず大きな声がでる。ミュートさんはまるで昨日まで普通に来ていたかのようにニコリと笑って言った。


「おはよう、和音。招待状、もらったよね?」


 招待状なんて、普通庶民が貰わないから、きっとあの招待状のことを言っているんだろうけど…。あ、ミュートさん魔族だったわ。ミュートさんにも届いたんだろうか?


「おはようございます、ミュートさん。はい、一応貰いましたが…」

「…捨てちゃった?」


 …なんで分かるのかな…。まあ結婚しないってミュートさんにも宣言してたし、行かないことは分かってるだろうけど。


「はい、燃やしました」

「うん、そう思って持ってきた」

「…は?」

「招待状」

「…いえいえ、いりません」

「ここに来たのも、和音をエスコートしようと思って。他の奴に先を越されるわけにはいかないでしょ?」


 話が通じない…。


「いえ、行きません」

「ダメ。僕と行くんだよ」


 このパーティは強制だったのか…。いや、そんなことはないはず。


「行きません。参加しません。興味ありません」

「和音はきっとドレスなんて用意してないだろうと思って、僕が用意したんだ。それを着てほしいな」


 どうしよう。久しぶりに話すとなんかズレてる感じがすっごく居心地が悪い。


「ミュートさん、行きませんよ」

「…和音。今薬の研究、進んでないでしょ?」

「はい…なんで知って…」

「今日集まる人の中に打開策を持ってる人がいるかもよ?」

「え?」

「今日招待された人の中には、もちろん王宮に勤めている人たちもいてね。特に研究職についている人や魔導士や魔術師の人たちなんか出会いがなくて、結構な人数が参加してるんだって。私の知り合いも参加するみたいでね。紹介できるよ。魔力の事は専門家に聞いてみたら何か打開策が見つかるかもよ?」


 一年ぶりに会ったにしては私の近況をよく知ってるミュートさんに背筋が寒くなったが、私の知識だけではこれ以上無理なのも分かっていた。こんな時でない限り、いつも王宮に勤めている人と話は出来ないだろう。


 私は悩んで、結局そのパーティへ行くことになったのだった。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「はぁ~すごい人ですね」

「そうだね。でもザッと見てみたけど、魔族の方が多いかなぁ」


 王宮の一番広い会場だという場所には、たくさんの人たちで溢れていた。まだ開催時間まで時間があるので、それぞれ知り合いと話をしているようだ。しっかりとドレスアップしている人もいれば、普段着だよね?というような服装で来ている人もいる。ミュートさん曰く、魔族は魔力の相性で決めるので外見は全く関係ないらしい。


 私はミュートさんのエスコートを必死に断ったけれど、結局回避できずミュートさんと一緒に入場していた。…目立つんだよね。そっと入場してさっと帰りたいのに。近くに知り合いはいないみたいだけど、見られたら恥ずかしくて死ねる。見た目は10代でも中身は40代だからね。


「魔族の人たちって様々なんですね。ミュートさんのように完全な人型ってあまりいませんね」

「人型って…。私は半分人間だからね。そうでなくても、力のある魔族は人型になれるよ。大抵の魔族は見た目は気にしないから羽だしてたりとか耳出してたりとかするね」

「…耳はアリです…」

「…私も耳つけようか?」

「ミュートさんは角じゃないんですか?」

「え~堅そうなのって嫌じゃない?」

「そうですね。寝るとき邪魔じゃないかなって正直思います」

「でしょ?だから必要ないよ」

「…そうですか」


 魔族といえば角って思ってたけど、つけるなら動物の耳よね。ミュートさんをじっと見て想像してみる。角の方が似合いそうだけど、動物の耳をつけるなら狼の耳がいいな、などとのほほんと考えていると、ミュートさんから手を引っ張られる。


「どうしました?」

「魔導士の知り合いがいたんだ。その人も魔力が強くてね。紹介しよう」


 ミュートさんはきちんと約束を叶えてくれるようだ。ドキドキしながら大人しく引っ張られる。


「ラニ。君も来てたんだね」


 ミュートさんに声をかけられた女性は、くるりとこちらを向いた。くるんとした赤毛の髪がふわりと舞う。大きくて深い緑色の目は、ミュートさんを捉えると、とたんに顔を顰めた。迫力美人のラニさんは低い声で返事をした。


「あいにく私もお年頃なんでね」

「お年頃というには実際には…わぁ待って!紹介したい人がいたから話しかけたんだよ!」


 ラニさんの手から何かが発せられそうになるが、ミュートさんが私を慌てて紹介する。


「カミラだよ。この美人なお姉さんはラニ。次期筆頭魔導士と言われているんだ」

「カミラです。こんな席ですみません。お見合いとは全く関係ないことなんですが…」


 私の方を見たラニさんはじっと私の顔を見た。私は話すのを止めて思わず見返す。


「…お互い見つめ合っちゃって、どうしたの?」


 ミュートさんに声をかけられて、ラニさんはそちらへ向くと戸惑ったような顔になった。


「カミラさんは…魔力が不安定ね。なんだろ、精神に影響されるような不安定さじゃないわ」

「あ、さすがラニには分かるんだね。そうなんだよ、彼女、体と違う魂が入ってて、魔力が混ざってないんだよ」

「「はぁ?!」」


 私とラニさんは驚きの声をあげた。

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