13話
投稿できて良かった!
お待たせしてすみません!
朝、気持よく起きる。こんなに爽やかに朝を起きるのは久しぶりだ。日本にいた頃には全くなかったことだったので、少し幸せを感じながら伸びをした。さて、今日は薬草を植えるために土をしっかり耕さないといけない。今日も気持ち良く疲れそうな感じがする。和音の身体では二日遅れで来ていた筋肉痛も、カミラの身体なら次の日には来ているかもしれない。まだ始めてもないのに私はウキウキしていた。
クワなどの作業に必要な道具は元々この家にあったので、それを使ってみる。試しに少し使ってみたが、ちょっと錆びているけど大丈夫そうだ。使えるとなれば早速作業に入る。ひたすら耕して、耕した後は畝を作っていく。かなりの重労働だった。今日は気持ちよく疲れるというよりグッタリになりそうだ。
お昼になったので、シャワーを浴びて汗を流し一番近い食堂へ向かった。手がぷるぷるして、とてもじゃないけど料理できそうにない。夕方も食堂にお世話になるだろう。からからと音を立てて食堂に入ると、すらりとした背の高い迫力のある女性が私を見た。
「カミラちゃん!いらっしゃい!」
大股で私に近付き、豪快に抱きしめられる。びっくりなスキンシップは苦手だが、彼女、マーサさんは良い人だ。お店が無事手に入ったとき、ご近所さんに挨拶回りに行った。その時も同じように豪快に抱きしめられたのだ。
「んも~いつも寂れたオヤジばっかり相手にしてるから、カミラちゃんが来てくれて嬉しいわ!」
さらにギュッと抱きしめられ苦しくなる。マーサさんは騎士をしていたそうで、力がとても強かった。
「おいおい、カミラちゃんを殺す気か?苦しそうにしてるだろうが」
そう言って厨房から大きな熊のような男が出てくる。彼はマーサの旦那さんのジョシュアさんだ。大きな手に包丁を持っている姿は正直言って怖い。
「ああ、ごめんごめん。嬉しくてついね」
「いえ。あ、ランチまだ頼めますか?」
「ええ、大丈夫よ~!あんた!カミラちゃん特製ランチ、よろしく」
奥から「あいよ!」と声がする。そんなランチ、いつ売りに出たんですか?初耳なんですが。まだ数回しかお世話になっていないが、誰も知り合いがいないのでそんな親しさが少し嬉しい。私は空いている席に座る。お昼を過ぎてしまったので、私の他に人は数人しかいなかった。
謎の特製ランチは親子丼っぽいものだった。どうやらジョシュアさんの気分で内容は変わるらしい。それを頬張りながら自分で貼ったチラシをみる。…見てくれる人はいるんだろうか。マーサさんがそれに気付いてニコリと笑った。
「意外と見てる人いるわよ。まぁランクBの薬剤師がこんな辺鄙な場所に店構えることも少ないからね。きっと人気が出るよ」
「ありがとうございます。…でも…ランクBならどんな場所にお店出すんですか?」
「そうだねぇ、最初は他のお店で働いてランクを上げていくみたいだよ。その間にお金も貯めてね…みんなEランクからなかなか上がらないらしいから、ランクBまでまで上げてお店を出す頃にはメイン通りに出せるくらい貯まってるそうよ。だから主にメイン通りにあるわね」
そうなのか…珍しいことなんだな。人気が出るのはありがたいことだけど、目立ちたくはないなぁ。
私はモグモグ食べながら、トラブルが起きないように対応を考えとかないとと思った。料理が美味しくてうまく考えられなかったけれど。
「ごちそうさまでした。多分夕方も来ます!」
「ありがたいね~!とっておきの料理を出してやるよ!またね~」
私は食堂を笑顔で出て家に戻る。また再び畑仕事だ。裏に回るとそこには人がいた。私に気づいて振り返ったその人物はこの間のキラキラした青年だった。
「あのぉ…どうされました?」
まだ開店していないことは知っているはずなのに、なんで来たのだろう?不思議に思って声をかけた。すると彼はニコリと爽やかに笑って答えた。
「薬草を植えると話していたので気になってしまって…。あ、昨日は名前も名乗らずに失礼しました。私はアルドと言います」
「アルドさん…。私はカミラです。よろしくお願いします」
「知ってますよ。広告に名前、書かれていましたから」
そうでした。ちょっと恥ずかしくなる。それを誤魔化すように私は作業に取り掛かる。あとは薬草を植えていくだけだったので、買っていた小さいスコップを持って作業していると、アルドさんは興味深そうにのぞいてきた。あまりしみじみ見られても困るので顔を上げて声をかけようとしたとたん、アルドさんの姿が消えた。
遠くで、ドオォォォンと音がした。もしかして王都のあの大きな塀に何かがぶつかった音じゃないだろうか。呆気にとられていると、すぐそばで声がした。
「やれやれ…まるで躾のなっていない犬だな。やぁ和音。開店準備は順調のようだね」
「え~…今のもしかしてミュートさんがしたんですか?というかアルドさんは無事なんでしょうか…」
「大丈夫、大丈夫。アルドは私の弟だから、あのくらいならケロッとしてるよ」
似ていると思ったら兄弟だったのか。妙に納得してしまう。
「無事…ならいいんです」
「全く。和音は私のものなのに横からちょっかいかけるなんて、あいつをもう一度教育し直しする必要があるな」
「いえ、貴方のものではありません。兄弟で教育し直されてください」
それにしても兄弟であんなに外見が変わるもんだろうか?魔族のことはさっぱり分からないけれど、羽根が生えてる魔族もいるくらいだから、違くても兄弟なのかもしれない。その事を聞こうとした私にミュートさんは近づいていきなりキスをした。
「んぅ!ん…!」
口の中に何かが入り込む。それを無理やり飲み込まされた。戻そうにも喉にするりと溶けてしまっていた。
「いきなり何するんですか!」
「あ~何を入れたかって?う~ん…薬、かな?」
かな?って!可愛い顔したって許されるもんじゃない!
しかし私の抗議も虚しく、ミュートさんはしっかり薬草を植えるのを手伝い、何を口に入れたのか教えてくれることはなかった。
読んでくださってありがとうございました。