10話
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少しセリフを修正しています。
和音と分かれた後、俺は王城へ向かう。そこに俺の家があった。
門番はもう俺の顔を覚えているので、無言で通してくれる。ふらふらと俺の家の方へ向かおうとすると、走って声をかけてくる奴がいた。
「ミュー!」
俺はその声を聞いて仕方なく振り返る。俺を『ミュー』と呼べるのは限られているからだ。
「デレク。どうした」
「最近王都をウロウロしてるって聞いて。また去って行っちゃう前に会いたかったんだ」
「まだ問題が解決してないからもう少しここにいるぞ。なんだ。大人になったと思ったが、まだまだ子供なんだな」
「あと3年すれば大人になるんだぞ!あ!エミリーから聞いたけど、伴侶が見つかったって!」
「ああ、そうだよ。今必死に口説いてるとこ」
「攫って行っちゃえばいいのに」
「それは紳士としてどうかな。私はロマンチストだからね。相思相愛がいいんだ」
「ふーん…僕もその子みたいな~。兄さんは見たんでしょ?」
「あいつ、いつも王都をふらふらしてるのか?声をかけられて驚いたぞ」
「ふらふらするのは血じゃない?ミューも父さんもふらふらしてたって聞いたよ」
俺が歩き出すと、デレクも横についてくる。
どんどんと奥に入っていき、王族の私室のある宮殿を通り過ぎてもまだついてきたので用事のあるところまでついてくる気だろう。ようやく自分の小さな屋敷につくと勝手に扉を開く。
入り口の階段前に一つ大きな机が置いてあり、そこにアブーが座っていた。顔を上げて俺を見たが、また机の上の書類に目を戻した。
「ようやくお帰りですか。しかも変な豆まで連れて」
「僕は豆じゃないぞ!相変わらず失礼な奴だな、アブーは。その羽根毟り取っちゃうよ!」
「その前に豆の全身の毛が生えてこないように呪いをかけますよ」
アブーは背中の黒い羽を開いて言った。デレクは「それって頭の毛も?!」とビビっている。
「…報告を聞こうか」
「はい。やはり増えていますね。この国は魔王様が目を光らせていますので少ないですが、それでもこのひと月で30件に上っています。隣の国ではその3倍です。トランザース国とは何の協定もありませんので、下位の者も手を出しやすいのでしょう。何人も囲っている者もいるようです」
「下位といっても人型だけじゃないのか?」
「いえ、そうとは限らないようですね。まぁそのような事ができるもの、には限るのでしょうが」
「……まずいな。今人の国の心証を悪くするわけにはいかないんだが」
「ああ、花嫁がいたんですね。早く連れて来てくださいよ」
「それが、そうもいかなそうだ」
「どういうことです?」
「相思相愛を目指してるからだよね」
「あ~うん、それもあるけど、それだけじゃないんだ」
俺はデレクに少し笑って言った。アブーは相変わらず書類を見ている。
「何かあるんですか?」
「う~ん…えっとね。彼女は二重になってるんだ」
「…は?」
「二重だよ。話を聞くと、体と魂は別の人間なんだ。魂のいた世界は魔力はなくて使ったことはないらしい。体の持ち主はありあまる魔力を抑えられず死んでしまったようだ」
「…それはおかしいですね。ありあまる魔力があったなら、魔王様が気づかないはずがありません」
「うん、そうなんだよね。私が気づかないはずがないのに、私が気づいたのは今の魂が来てからだった。しかもその魂はあふれる魔力をきちんと制御している。通常あれだけの魔力があれば精神に異常をきたしてしまうはずだが、それが今まで全く見られなかったんだ」
「二重の不安定な状態にも関わらず魔力は暴走していないんですね」
「そうなんだよ。なんか奇妙じゃない?」
「そうですね。調べたくなりますが、触らせてくれないんでしょ?」
「魅了もせずに触ったら変態でしょ?まぁ私の魅了も効かないから、アブーのも無理だろうねぇ」
「嫌われてはいないんでしょ?でしたらそれは後回しで。こちらの件をどうにかしてください」
そう言って、アブーは書類をひらりと俺に見せた。どうも人間からの嘆願書のようだ。内容はすべて同じ。若い娘が消えたので探してほしい、もしくは攫われた、という内容だろう。俺は溜息をついた。
デレクに聞かせる内容ではないため、ごねるデレクを宥めて帰す。
「確実なんだろ?アレ」
「ええ。魔族同士の交配より、人との交配の方がより強い魔力を持って生まれます。魔族も進化していますからね。血の繋がる次世代はより強くと願い、無理やり攫ってきているようです。人との交配許可はかなり上位の者に限られていますから元々不満があったんでしょう。」
「私の例があるから予想以上に下位の者にも知られたんだな。私は歴代の魔王の中でも魔力が強いからね」
「下克上でも狙っているんでしょうかね」
「まぁそれが魔族のルールだから」
アブーは行方不明者のリストを作っていたようだ。最後の一枚を書き終えると、ようやく顔を上げた。
「これが一覧です。森の中にいるといいんですが」
「…容赦しなくていい。今王家とは花嫁を迎える交渉中だ。邪魔をする奴は始末しろ」
「さすが魔王様。…それは人側もでしょうか?」
「許可はもらっている」
「かしこまりました。楽しい狩りができそうです」
「狩りが終わったら一度森に戻る」
俺はアブーに指示して眠ることにした。