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王都の薬売り  作者: 鮎河和生
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9話

カタログを見ていく。最初の方は移動距離が短いものだった。不安になりながらめくっていく。


「かなり移動距離があるんですね」


受付でそのまま見ていたので、受付の人が話しかけてきた。


「ええ、そうなんです」


私がそう答えると、受付の人が地図を持ってきて広げて私に見せる。


「どこらへんですか?」

「えっと……。あ、ここです」


私は村の森の方を刺すと、カタログをめくってあるところで止める。


「ではここらへんですね。ご自分の魔力の属性はお分かりですか?」

「多分、だいたいの属性を使えるはずですが、はっきりと測ったことはありません」

「すぐに分かりますが、測られます?」

「はい、お願いします」


練習でも不自由したことはないので、あまり考えたことなかったけどいい機会だよね。カミラは魔力を抑えられていたから、測ることをしなかったみたいだし。

受付の人は箱を持ってきた。その中に両手を差し込むだけで分かるらしい。言われたように差し込むと、数分後に箱が光った。


「はい。お終いです。あ~すごいですね!火・風・土・水・光の属性を持っています。この測定機では属性しか分かりませんが、複数の属性を持っている人は魔力も強い傾向にあるようですから、一度教会に行って測られたらいいですよ」

「そうですね。ありがとうございます。ではここらへんの魔符のほとんどが使えるんですね」

「はい、オススメはこの魔符です」


私は受付の人が指した魔符を見る。他の魔符よりも複雑そうな魔方陣が描かれていた。そして他よりも高い。


「他より高いですね」

「ええ、かなり精度の良い魔符を作られる方で、その方の魔符は全て高く設定されています。でも故障も今のところありませんし、魔符が作動しなかったこともありません」


作成者の名前を見る。クリュード、と書かれていた。何か頼むことがあるかもしれない。そう思って私はその名前を記憶した。


「では、このクリュードさんの魔符をください」

「はい。ありがとうございます!」


この転移の魔符は2枚セットだ。転移先にも置かないといけない。一度戻らないと。ミュートさんによると、私が住んでいたあの森は薬草の宝庫なんだそうだ。購入した家である程度の薬草は育てられるけれど、特殊な薬草を薬剤師や冒険者ギルド頼りにしてしまうのでは、利益も少なくいつ納品になるかも分からない。なのでせめて今まで作れていた薬品は提供できるようにしておいては?と言われたのだ。けれど列車で半日もかかる距離を簡単には移動できない。そこで魔符が必要となったのだ。

私は店舗の2階へ上がり、魔符の一つをリビングの壁に貼りつける。魔符によっては魔方陣のように床に貼り付けないといけないものもあるが、このクリュードさんの魔符はその必要がなく場所を選ばない。魔符は傷がつかない限り永久的に使える。床よりも壁の方が傷つきにくいだろう。結果的に安く済みそうだ。


そうこうしているうちに家具が届く。2階へ案内し設置してもらっている内に夕方になった。寝具もベッドにセットしないといけないけれど、疲れたので明日にすることにした。明日の朝宿をでる。荷物は少ないけれどまとめないと。


宿に戻ってもミュートさんは来ていなかった。珍しいなと思いつつ、1人で食事をする。久しぶりの一人の食事はちょっと寂しい気がした。部屋に戻って荷物をまとめていると、ドアが叩かれミュートさんが入ってきた。部屋の様子に登記が終わったことが分かったのか、ニコリと微笑んだ。


「明日から新しい家だね。何かお祝いをしたいのだけど、何がいい?なんでもいいよ」

「いえ、ミュートさんには色々ついてきてもらって助かりました。私が逆にお礼がしたいです」

「えー。もっと甘えていいんだよ?私から離れられないようにしたいのに」

「……心底嫌なので遠慮します」


時々、ミュートさんは私に嫌われたいんじゃないかと思ってしまう。私がため息をつくと、クスッと笑う声が聞こえた。


「…からかってますね?」

「だって和音、可愛いんだもの」


40代のおばさんに向かって可愛いってなんなの?外見は確かに10代だけど。性格が可愛くないことは分かってるわ。


「ここ出ちゃうと明日からご飯一緒にできないね。まぁ今日もバタバタしててご飯出来なかったけど。…ねぇ明日から家の方に食べに行っていい?」

「ダメです」

「断るの早い!まぁ徐々に私に慣れてくれたらいいよ」


…慣れるの怖いんですけど。

ホント、ミュートさん何がしたいんだろ。

私なんて、と思ってしまう心を振り払う。


ミュートさんは、また明日の朝ここに来ると言って帰っていった。



次の日の朝、食堂の方へ行くとミュートさんがご飯を食べていた。同じテーブルに座って私も朝食を取る。


「今日は一日和音に付き合えるよ」

「今日はお店に出す薬作りになりますから、ミュートさん暇ですよ」

「そっかぁ…ならお祝いの何かを買いに行こうかな」

「…ご自由に」


私は宿を出て、ミュートさんと分かれた。反対方向へ向かった彼を振り返り見ると、もう姿が見えなかった。

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