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王都の薬売り  作者: 鮎河和生
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プロローグ

初小説。初投稿。

ぼちぼち、亀のごとく更新していきます。

誤字、編集しました!

大きなスーツケース一つ。


私の財産はこれだけだ。


今は誰もいないこの家とは20年以上の付き合いだった。

それだけ長い間でも私の物はスーツケース一つだけ。

そっと苦笑いする。


夫は…元夫は今は出かけている。


2階の一番日当たりの良い部屋に入ると、きちんと整理されている机が一番に見えた。

1人息子の部屋だ。

昨年就職し、一年間お金を貯めて最近家を出て行った。

そっと机を撫で、この部屋に別れを告げる。


息子には夫に離婚を切り出すよりも先に話をしていた。

「母さんの好きなように生きなよ」

そう言って反対どころか励ましてくれた息子には感謝しかない。


私にはもう、この家になんの未練もないのだ。


ふと、車庫に車が入ってくる音がする。

夫が帰ってきたのだろう。


私は会わないように少し急いで階段を降り、玄関から出た。

玄関に鍵をかけ、ドアの郵便受けに鍵を入れる。


さあ、新しい人生の始まりだ。

決意を新たに、私はくるりと玄関に背を向けた。




すると、そこはいつもと違う景色だった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


家に生垣がある。


それは見慣れたレンガの塀ではなく、まさに生垣だ。


どうしたら良いか分からず、ただ突っ立ていた和音は、最初声をかけられている事に気付かなかった。


「カミラ、カミラ!」

ようやく声に気付いて、声のした方を向くと、安堵したような顔の若い男の子が立っていた。


「カミラ、どうしたのさ。ボーッとして」

そう言いながら近づいてくるその子の様子に、『カミラ』が私のことだと知る。

「えっと…」

私はその子のことを全く知らないので、どう返事して良いか悩んだ。

忘れているのではなく、知らないと確信を持って言える。

何故なら、近づいてくるその子はあきらかに日本人ではなかった。

金色の混じった茶髪に黄色の強いアンバーの目をしていて、肌の色は白く顔立ちは欧州のもの。

ハーフの子の知り合いはいるけれど、そんな容姿ではなかったのだ。

「いきなり雷に打たれたみたいに硬直したからビックリしたよ。大丈夫?」

心配そうに私の顔色を見ながら話しかけてくる。

すると生垣の方から大きな声がした。

「リック!もう時間がないよ!」

同じ年の男の子が馬車から声を発したのだ。

初めて馬車がいたのだと気付く。

「待って!大丈夫なら俺行くよ、カミラ」

そう声をかけてリックは慌てて馬車の方へ戻った。

まだ呆然としていた私は、何も答えることなく馬車を見送った。


馬車が見えなくなって、ようやく私は周囲を見渡す。

生垣の外は木がたくさんあって、他に家はない。

どうやら森の中に私の家が一軒だけであるようだ。

その家を見ると、意外にも2階建てだった。

(可愛いログハウスね)

家の周りをゆっくり歩いて見て回ると、1階には大きな窓が左右に一つずつある。

窓枠にはガラスが入っていたが、不透明で中は見えなかった。

着ていた外套に鍵があったので、ドアに差し込んでみるとカチャリと開く。

思いの外、スッと開いたドアから一番に見えたのは、カウンターだった。そして独特な匂いが中からしてきた。

嫌な匂いではなかったので、体に害はないだろうと勝手に決めつけた。

中へ一歩踏み入れると、とたんに部屋の中が明るくなる。

驚いて硬直してしまった。

誰かほかに人がいると思ったのだ。

でなければ、勝手に明かりがつくはずはない。

まだそんなに時間は経っていないが、ここが『電気』という文化がありそうな様子では全くなかったからだ。

しかしやはり誰の気配もない。

ここで立ち尽くしてたままではラチがあかないので、カウンターへ近づいた。

そしてカウンターの奥の棚に乾燥したハーブなどが見えた。

よく見ようとカウンターへ入ると、カウンターの下にも何か置いてあった。

小さい箱が十数個置いていて名前が書いてある。

明らかに知らない文字だったが、何故か頭に入ってきて理解できる。

カウンターには引き出しもついていて、中を探ってみる。

引出しの一つに手帳を見つけ、中を確認すると、名前がタグつけされており、

それぞれの人物に合わせた薬の調合率が書かれていた。

ようやくそこでここが漢方のようなものを売っていることに気付く。

(と、いうことは『カミラ』は薬剤師って感じなのかな?)

もう一つ手帳を見つけるが、それはカレンダーになっていて、

いつに誰が調合した薬をいくつ取りに来るかが書かれていた。

和音よりも几帳面な性格をしていることも分かる。

(私はいつもどんぶり勘定なんて言われていたものね)

そう思いながらふと手帳をめくる手を見る。

とても40代後半の手には見えない。

随分と若い手だった。

髪の毛を掴んで見ると、キレイな黒髪だった。

和音の髪の色ではない。

和音は白髪交じりのハリのない茶色い髪だった。

気になるのは今の自分の容姿だ。

鏡がないかと部屋を見てみるが、カウンダー以外には扉が2枚しかない。

扉を開けてみると、1つはトイレでもう1つはリビングになっていた。

リビングは、一人で住むには十分な広さのキッチンと、4人掛けの木のテーブルと椅子。

それに食器棚と2階に上がる階段だけだった。

必要なものしかない部屋には目的の鏡はない。

2階に期待して上がると、寝室が二部屋と洗面所に風呂場があった。

洗面所だけに鏡があった。

覗くと、かなり若い女の子が写っていた。

まだ10代後半の姿をしている。

しかもかなり美人だ!

思わずガッツポーズをしてしまう。

しかし一番は目だろう。金と緑という不思議な目だった。

(オッドアイって言ったっけ?)

さっきの男の子二人は普通に同じ目の色をしていたので、きっと珍しいだろう。

それでこんな森の中に住んでいるんだろうか?と考えて小さめの寝室へ向かう。

その部屋がこの子の部屋であることは明確だった。

シングルのベッドに女の子らしい可愛い装飾。

自分の10代の頃と比べてもかなり女の子らしい作りになっていた。

(この子なら似合うわね)

そう思いながら大きめの寝室へ向かう。

この部屋は不思議な空間になっていた。

なんというか時を感じないのだ。

ほこりもないし綺麗に整えられている部屋だが、ここで誰かが寝ているという感じがしない。

かといって、客間ではなさそうだ。

そう、夫婦の寝室という感じだ。

簡単に見てまわって、この女の子が1人で住んでいることを知る。

元々は両親もいたのだろう。

それが今はいないようだ。

一番に思いつくのは最悪なこと。すでに両親が亡くなっているかもしれないということ。

いつから1人なのだろうか。

私には全く『カミラ』だった時の記憶はない。

この子がどういう気持ちで過ごしていたのかを知る由もなかった。

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