落下の8
僕とハガネさん、ハガネさんの娘の二人いるうちの妹のほう、アオさんとの3人で僕の手足を付けに医療施設に向かうことになった。
姉のシュロさんは、この拠点の警備でお留守番だ。
朝方迎えに来てくれたアオさんに車椅子に乗せられ、移動していた。
年下の女の子に介抱されるのは凄く恥ずかしかったが、アオさんはとてもいい香りがした。
「狭い室内ですが、こっちのほうが動きやすいかと思いまして…」
「うん、助かるよ。ありがとう。」
「ひゃっ!?は、はい!喜んでもらえて私も嬉しいです!」
「あの、アオさんは…」
「あっ、自己紹介がまだでしたね。アオギリと言います。16歳です!」
アオって名前じゃなかったんだ。
「うん。宜しく。アオギリさん。」
「アオちゃん!アオちゃんと呼んでください。」
「わかったよ。宜しく。アオちゃん。」
「空さんはおいくつなんですか?」
「僕?二十歳だよ。」
「お姉ちゃんと一緒です!」
「お姉ちゃん?」
「はい!シュロお姉ちゃんです!」
「いや、それは知ってる。だけど昨日は姉様って…。」
「あっ、聞こえていたんですね…。」
アオちゃんは下をむいてしまった。
「ごっ、ごめん!悪いこと聞いた。」
「いえ、いいんです。私が…」
「おう、ようやく来たか。」
「お父さん!」「ハガネさん!」
話の途中で目的の部屋に到着した。
ハガネさんが扉を開けて出てくる。
アオちゃんの話を最後まで聞けずじまいになってしまった。
「快適だったか?」
「はい。とても。アオちゃ…アオギリさんのお陰です。」
「そうか、そりゃ良かった。がはは!」
ハガネさんはまぁ入ってくれと部屋に僕たちを招き入れる。
少し準備があるといい、部屋の奥の機械の方へ歩いていった。
ハガネさんが背を向けた瞬間、アオちゃんが僕の耳もとで囁く。
ってか近い!近い!!吐息が聞こえる距離だよ!
「二人のときは、アオちゃんって呼んでくださいね!」
「ごくり…。」
こんなところ、桜華にみられてたら僕死んでただろうなぁ…。
「おーい!こっちだ。」
「あっ、お父さん呼んでますよ!いきましょう。」
アオちゃんは何事もなかったかのように歩きだす。
ハガネさんが呼んだ方には見覚えのある黒い機体があった。
「桜華!?」
「いいや、違う。お前の乗っていたものと同じ【s001】型だが別の機体だ。お前にはこの機体で医療施設に向かってもらう。俺のお古だがな。」
機体から引きずり出されるときに見た程度の記憶だが、よくよくみれば僕が乗っていたものより綺麗だ。
僕の機体は、桜華は一体どこへ行ったのだろうか?
聞いても教えてくれないのだろうけど。
「それじゃあ空、機体に乗り込む前にお前の手足をくっつけに行くための計画を話す。よく聞けよ?」
ハガネさんの指の動きにあわせて空間に地図が表示される。
地図は3次元的に表現されていて、重要な施設が光点として表示されている。簡易的にだが高低差と距離がわかる仕組みだ。
「まずはこのルートを通ってここの簡易補給施設に向かう。現在地がこの赤い点で、この補給施設が緑の点で表示されている所だな。」
「この地図に表示されている施設は、落下せず、同じ座標に留まり続けているんです。」
「じゃあこれらの施設を目印に移動する感じなんだ。」
「はい!ご名答です空さん!落下し続ける私達は、こういった施設を目印に移動します。そのためのナビゲーションシステムも機体には搭載されているんです。」
「なるほど…知らなかった。」
「お前らいいか?続けるぞ?ここの補給所で燃料を補給したあと真っ直ぐに医療施設に向かう。途中、傀儡との戦闘が起こるかもしれないが俺達がなんとかする。安心してくれ。ま、こんなところだな。計画って言っても大したことないだろ?お前は俺達についてくるだけでいい。」
「もっとこう、長距離を長期間でって感じだと思ってました。」
「今回だと3日もあれば帰ってこられますね。空さんの手足がちゃんとくっつくか次第ですけど。」
「怖いこと言うなぁ…。」
「まあ、細かい事は移動しながら話そう。取り敢えず乗ってくれ。」
アオちゃんが機体まで連れていってくれた。
桜華意外の機体に乗るのは少し怖い気がするなぁ。