落下の7
謎の機体に捕らえられた僕と桜華は監禁されていた。
手足の感覚もなく、頭も、ベルトで固定されているので視界も限定されている。
桜華とは別々の部屋に監禁されたようで、お互いに連絡を取り合える手段はない。桜華は解体すると言われていた。大丈夫だろうか?とても心配だ。
僕が監禁されているのは何だろう、天井とその周辺を見る限り、民家の倉庫のような殺風景な部屋だ。防音等の設備もなく、外の音が聞こえてくる。
「姉様!お父さん、回収しました。」
「そうか。ありがとな。アオ。まさかオヤジがあそこまでやられるなんてな。」
「はい、姉様。私、びっくりしました。今まで一度もこんなことありませんでしたから。」
外で話しているのはシュロ、アオギリという二人の女の子だ。姉妹らしい。顔を見たことが無いが、今までの口調から言って、シュロという人のほうが僕達を拘束したのだろう。
それにしても、ハガネさん、生きていたんだ。良かった。僕にはもう合わせる顔なんて無いけど。
ドンドンとドアが乱暴に叩かれる。
「おい!オヤジが話したいそうだ!入るぞ!!」
ああ、だから合わせる顔が無いって。
しかし、シュロに続けてハガネさんは部屋に入ってきてしまう。気まずい。
「!!?…これは??」
「いや、私も驚いたよ。まさかオヤジをやった操縦者が手足のないダルマなんてさ。」
…。今なんて?手足のない??
「おい、空。お前何で手や足がない?」
「えっ!そんな?ありますよね?確かに手や足の感覚は無いですけど…」
「はぁ、もういい。おい、シュロ、見せてやれ。」
「いいのか?オヤジ。」
ハガネは無言だ。シュロはばつの悪い顔をして僕のベルトを外し、上体を起こした。
衝撃だった。今まで感覚がないと思っていた手足はそもそもそこには無かった。
「嘘だ…嘘だ嘘だ!」
「おい!落ち着け空!」
「嘘だ!嘘だ嘘だ嘘だ!そんな!」
呼吸が苦しい。吸っても吸っても息が浅い。それでも叫び続けた。叫ばずにはいられなかった。僕はそのまま気を失った。
「気が付いたか?」
「ハガネさん…」
気がつくと辺りは暗くなっていた。
それなりの時間、気を失っていたようだ。
枕元にハガネさんが立っていた。
「お前の五体が満足だったら一発ぶん殴ってやろうと思ったんだけどな。」
「すいません…。」
「まあ、いい。本題に入るぞ。」
「本題?」
「ああ、お前の身体の事だ。」
ハガネは語りだした。
「生命維持ポッド…お前の乗っていた【s001】に救助された人間はまず、身体機能を回復、もしくは補完するための施設に向かうはずなんだ。普通の機体だったらまず、そう行動する。どういうことかわかるか?」
「つまり、桜華が意図的に僕の治療を行わなかった?」
「正解だ。今回の災害で地表が無くなり、世界が落下をはじめてからほとんどの人間が五体満足じゃいられなかった。しかし、このポッドを作った連中どもだろうな。それを見越して人体にくっつける機械義手や義足も開発していた。俺の左足もほら。」
ハガネはズボンをめくる。左足の膝関節から下は黒い機械で出来ていた。チタン骨格にガワは炭素繊維プラスチック、それに人工筋肉がびっしり詰まってるそうだ。ワンオフ品と言っていた。
「ナノマシン経由で脳信号を拾って稼働する。もとの足と何らかわりないどころかパワフルで俺は好きだな。」
「はぁ。」
「それでだな、まずはお前の両手足を治しにいこうと思う。どうだ?」
「でも、僕は…」
そう、僕はハガネさんを裏切った。あげく機体を破壊して、大空に落とした。
「気にするな。どうせあのクソAIがやったことだろう。それに俺はお前に生き方を教えてやると言った筈だ。男に二言はない。」
衝撃だった。敵として戦った僕を、もっともハガネさんはそう思ってなかったのだろうけど、それでももう一度手を差しのべてくれるなんて。
「おいおい、泣くなよ?手足がくっついたら泣くほど辛い訓練が待ってるんだぞ?」
「すみません、ハガネさん…。ありがとう。」
ハガネさんはにっと笑って親指をぐっと立てた。
「治療施設には明日の早朝、出発する。それまではゆっくり休むんだな。」
そのまま踵を返し、部屋を出ていこうとするハガネ。
「あの、ハガネさん!」
「なんだ?」
「桜華は…。」
ハガネさんは背を向けたままなにも言わず、そのまま行ってしまった。