落下の6
眼前に迫った巨大なスカイダスト。
もうだめだと目をつぶる。
大きな横揺れ。ものすごいGが身体にかかった。
しかし、予想していた衝撃よりとても弱い。
「よく頑張りましたね!マスター!ここからは私が操縦します。」
【codeーオートモード】
桜華の操縦に切り替わった機体は
横一直線に火花を散らし、巨大なスカイダストの上を滑るようにかわした。
「死んだかと思った…」
「私がいるのですよ?死ぬわけないのです。」
桜華はにんまりと笑っている。凄いドヤ顔だ。
そして、凶悪な笑みに変わった。
「マスター。少し揺れます。我慢してくださいね。さあ、後は一瞬ですよ?」
スラスターを勢いよく吹き出し、小さめのスカイダストに 体当たりした。
スカイダストは他のスカイダストにぶつかり、また軌道を変えていく。
「さあ、決着はつきました。後はただ落下するだけなのです。」
先によけたスカイダストの影からハガネの機体が追跡してくる。
「避けたことは誉めてやろう!しかし、そう何度も偶然は続かないぞ?次はないと思え。」
「偶然ではないのです。そんなこともわからないなんて、さすがゴリラですね!腕利きの自警団が聞いて呆れるのです!!」
「なっ…!!」
桜華はニヤニヤ挑発し続ける。ハガネは顔が真っ赤だ。頭の血管が切れるほどビキビキに血管を浮かして般若のような表情をしている。
「クソぉ!死ねぇーい!!」
ハガネが発砲する。フルオートの連射。しかし、どこからか流れてきたスカイダストが遮蔽物となり、一発も当たらない。
「ふふ♥️頭に血がのぼった時点であなたの敗けですよ?」
桜華の独り言。いや、僕に言ったのかな?とにかく凄く楽しそうだ。
「マスター、見ててくださいね。あの左上のスカイダストの影から11秒後にあいつの機体が出てくるのです。攻撃はー…ミサイルですかね?いきますよ?3、2、1…」
「喰らえ!特大だ!!」
ハガネは桜華の予想したポイントから出てきた。そしてこちらも予想通りミサイルを放つ。
刹那、ハガネの目の前に再びスカイダストが飛び出す。ミサイルはハガネを巻き込み爆発した。
「桜華、何をしたんだ…?」
「マスターに操縦して頂いていた1分半の間に確認したスカイダストの位置と先ほどまでのあの男の戦闘データからちょーっぴり難しい計算をしているのです。」
その後もハガネの攻撃は桜華に予想され続け、その度、ことごとくスカイダストに妨害された。
「何だ、急に攻撃が通らなく…」
「うふふ♥️楽しいのです。ね、マスターもそう思うでしょ?」
「う…。」
「マスター?どうして肯定してくれないのです?あの男はあろうことかマスターに銃口を向け…いや、直に銃弾を飛ばして殺そうとしたのですよ?」
「でも、傀儡に教われたときは助けてくれた…」
「そんなこと!!関係ないのです!!気にくわない!気にくわないのです!」
急に大声を出す桜華。殺気だっている。しまった。肯定してやるべきだった…。
「私が!マスターをあの男から守ろうとしてるのに!!どうしてマスターはあの男に同情するのです!?」
「違っ…、桜華、違うんだ…。」
「何も違わないのです!マスターは私より、あの男のほうが大切なのですね??」
外部スピーカーで嫉妬を垂れ流す桜華。こうなると手がつけられない。
また影からハガネの機体。今度はものすごいスピードだ。
「桜華!後ろ!!」
「うるさい!計算済みなのです!」
やはりスカイダストが跳んでくる。
ハガネに一直線。それも一撃では終わらず、二発、三発、四発と続けざまに機体に襲いかかった。
「な、なぜ…隙まみれだった筈…。」
「演技なのです。ね、マスター♥️」
ハガネの機体の動力ユニットが爆発した。
「ぐっ…!!!クソが!!」
この演技の直前にナノマシン経由の通信で、「今から桜華、ちょっぴり怒ったふりするのですが、びっくりしないでくださいね?」と言われていたが、僕は本気で怒ったと思っていたぞ?
「もう機体も動かない筈です。とっとと仲間でも呼んでおうちに帰るんですね。」
ハガネは何も喋らなかった。
「あら?死んでしまったのですか?」
こいつ、まだ煽るのか…。
「勝利を決めた瞬間ってのが一番油断するものだ!」
ハガネは壊れた機体から降り、バトルスーツですぐ真上まで迫っていた。
桜華は余裕そうな顔。鼻歌まで歌っている。
「その言葉、そっくりそのままお返しするのです。」
「あり得ない!ノーマル機体でその反応速度!」
「その行動、予想済ですから。」
今日一番のいい笑顔。
スラスターを一吹き、くるりと小さく回転し、ハガネをやり過ごした。
勝負を決めるため、特攻を決めたハガネは機体に戻れず、遥か彼方に落ちていった。
「ふぅ、私の勝ち?ですかね!!」
「お疲れ、桜華。ありがとう。」
「マスター♥️愛してるのです!」
正直な話、ハガネさんには悪いことをしたと思う。
そもそもハガネさんは本気で僕を殺そうとしたのだろうか?その事が気がかりだった。
彼も生還できることを祈ろう。
しかし、生き残ったという安堵感は本物だった。
それが油断だった。
「そういうわけでもないんだなぁ…これが!」
「なっ!!」
一瞬だった。未確認の機体にワイヤーで絡めとられた。
物理的に拘束されればノーマル機体に出来ることはない。
「離すのです!」
「誰が離すか。大人しくしとけ!」
声の主はけらけら笑いながら続ける
「勝利を決めた瞬間が一番油断するってうちのオヤジに言われなかったかい?まあ、いい。これから私達についてきてもらう。生きて帰れるかはお前達次第だぜ?」
【code-視覚制限】
【code-AIアシスト解除】
どうやらコマンド権も奪われたらしい。目の前が真っ暗になり、桜華も姿を消してしまった。打つ手なし。万事休すだ。これからどこに連れていかれるのだろうか。