落下の5
「あなたなんかに戦いかたを教えてもらわなくてもマスターは私が守るのです!あなたなんか不要!不要物!いや、排泄物です!」
チェイスが始まってなおハガネを挑発し続ける桜華。
「ふん、待ってろ空、今助けてやる。」
「だーかーらー、マスターは私1人いれば十分なんですぅー!!」
桜華は自動操縦のオートモードでスカイダストの間をするする通り抜け、ハガネを撒こうとする。
しかし、ハガネはいとも簡単についてくる。
「そんなもので逃げ切れると思っているのか?」
「そうですね。少し甘かったですかね。ちょーっぴり本気を見せちゃうのです。」
動力源からエネルギーが出力される音。チュイーンと高音。
「マスター、掴まっていてくださいね!!」
うん。この機体、掴まるところないけどね!
桜華はスカイダスト、ビルの窓に突っ込んだ。
Gの向きがぐるぐる変わる。スカイダストのの移り変わりを見ていたが、速すぎてほとんど動体視力で追い付けない。思わず目を閉じる。
三半規管が馬鹿になりそうな動きで落ちている。
おえっ。酔ってきた。
機体はビルを遮蔽物とし、様々な方向に抜けていく。
しかも窓ガラス以外にはあたっていない。全方位のスラスターを使った凄い精度の操縦だ。
「吐きたくなったら言ってくださいね!私が処理してあげます♥️」
「うっ…だ、大丈夫。」
しかも会話に回すリソースもあるらしい。大した人工知能だ。
僕の目では捕らえられないほどハガネとの距離が離れていく。
逃げ切った…?
「どうですか、マスター♥️私、すごくないですか??」
「いや、凄いけど…って本当にハガネさんが見えなくなっちゃった。」
桜華はものすごいドヤ顔でこっちを見てくる。本意でないが誉めてやった。
「これであのハガネという男も私の凄さがわかったでしょう。」
苦笑いしかできないんだが。
「マスター!!」
「うわぁっ!」
桜華が急に回避行動を取った。
「あの男、撃ってきた…。」
「ええ!?」
「とりあえず、あの建物の影に隠れるのです!」
僕たちは建物影に入った。その間にも何発か発砲された。
「逃げ切ったと思ったのに、場所が割れてる?すぐに追い付かれそうだよ。」
「弾道から見て正確に割れている訳では無さそうですね。あくまでも予測して撃ってきている感じなのです。」
少し嫌な空気だ。首に鎌をかけられているよう。1つのミスで詰むような、緊張感。
「こちらにマスターが乗ってる以上、攻撃はしてこないと考えていたのですが…」
「おもいっきり撃ってきてるぞ…」
「仕方ありませんね。マスターを攻撃された以上、あの男、生かしておけないのです。」
「桜華…?あまり物騒なことは…」
「…。マスターも死にたくないですよね!私、作戦があります!」
「…。」
機体は桜華との作戦会議の後、僕はビルから飛び出した。
桜華に伝えられた作戦はこうだ。
①1分半の間、僕が操縦してハガネから逃げ切る。
②その後、桜華が何とかする。
わかるか!そんな作戦、納得できるか!
あのハガネさんから僕の操縦で逃げ切るなんて…。
しかし、作戦は始まってしまった。
桜華は外部スピーカーで
「バーカ!アホー!!のろまー!」
とハガネを煽り散らしている。
「マスター!あいつ、凄い速さで追いかけて来てるのです!」
「お前のせいだよ!!」
僕はスカイダストの間を縫って逃げる。しかし、桜華のように、ジグザグに動けず、直線的な動きで落ちていく。
「見つけたぞ!絶対に捕まえてやる!生死は問わないっ!」
ハガネはまた発砲する。カンカンと機体をかすめる音がする。
僕は焦ってスピードをあげる。
スカイダストにぶつかりながら、逃げる。
しかしハガネに距離をどんどん詰められている。
「マスター!追い付かれます!もっと早く!」
「わかってるよ!クソっ!」
限界までスピードをあげる。スラスターは最大出力で噴出している。
常に機体にスカイダストが当たっている。機体は激しく揺れ、どんな体制になっているのかもわからない。
「マスター!!前!前!」
眼前に巨大なスカイダスト。
もう避けきれない距離。
「残念だったなポンコツAI。さよならだ。」
もうだめだ。僕は衝撃に備え、目をぐっと閉じた。