落下の4
まさか、戦う事になるなんて思ってもいなかった。男の言う生き延びる術ってのも生活の知恵くらいに考えていた。
しかし、襲撃を生き延びた僕に芽生えたのは生き延びたいという感情だった。
日常が突然なくなってしまったことも、傀儡に命を脅かされたことも、僕が死ななければならない理由にはなならいと思った。
僕は男に戦いかたを教えてもらうことにした。
男は満足したようににっと笑う。
そして自己紹介をはじめる。
「そうだ。自己紹介もまだだったな。俺はハガネ。ハガネと読んでくれ。」
「久留です。久留空。えっと…宜しくお願いします?」
「空か。よし。宜しくな。」
ハガネは話を続けた。
「俺はこの空で人々の安全を守っている組織に属している。組織といってもボランティアの集まりみたいなもんだがな。人数も少ないけれど、みんな腕利きだ。」
「はぁ。」
「そしてお前にもこの組織に入ってもらう事にした。いいな?空?」
「はいっ!?えっと…あの?」
「お前が戦いを学びたいと言ったんだ。拒否権はないぞ?俺のもとで働きながら学んでもらう。」
「はいっ。」
「ふっ。いい返事だ。それじゃあまず、機体から降りてくれ。安全も確保してある。なにも恐れることはない。」
機体から降りることを指示されたがこの機体から一度も降りたことがない。そもそも降りる機会もなかった。
「えっと…どうすれば…?」
「機体から出たことが無いのか?」
「はい…。」
ハガネは怪訝な顔をしている。怒らせたかな?
「まあいい。codeからget offだ。」
codeって自分から呼び出せたんだ。いつも桜華が勝手に呼び出してくれるから知らなかった。
「えっとー、code get off」
【codeーget off】
「エラーが発生しました。実行できません。」
エラーが出た。機体から出られない。何度も繰り返したが、何度やってもエラーばかりだった。
「おかしいな?待ってろ、外から開ける。」
開閉用のレバーに手をかける。
「何でこんなに厳重に保護されているんだ…?」
「あの?何の話を?」
「いや、s001型のロックなら簡単に解除できる筈なんだ。ハッキングのパターンを登録しているからな。だが開かん。心当たりはないか?」
心当たり?桜華だろうか?いや、あいつはちょっとおかしいが、標準搭載のナビゲーションシステムの筈だし…
「すいません。わかりません…。」
「そうか…仕方ないな。一度ディーラーに見てもらった方がいいかもな。」
「ディーラー?」
「ああ。生命維持装置を作った会社だ。様々なパーツや整備工場なんかがある。俺の機体は社外パーツだが…まぁこの話は後でいいな。とりあえず、そこに向かいお前の機体の不具合を直そう。そうしたら外にも出られる筈だ。」
「お願いします。僕も、外に出たいです。」
「それじゃあまたついてこい。いいな?」
「はい!」
ハガネは機体に乗り込もうと僕の機体から離れる。
その瞬間だった。
【codeー離陸】
「離陸します。」
「!!?」
アンカーが抜け、スラスターが吹き出す。機体は窓ガラスをぶち破りビルから飛び出した。
「おい!空!!待てーー!!」
ハガネが叫んでいる。しかし機体を止める術が…桜華なら止められるかも!!
「桜華!桜華!!」
「はいマスター!」
待ってました!と言わんばかりの返事の桜華。
「機体を止めてくれ!ハガネさんのところに合流したい!」
「ダメでなのです!嫌でなのです!断固拒否なのです!!」
ものすごい拒否。
「なんで!?」
「マスターは私のものなのです!あんな変な男の言いなりのマスターは嫌なのです!それに、マスターの裸は私だけのものです!誰にも見せません。」
俺、全裸でこの機体に乗ってるんだ…。
「ハガネさんは僕らを助けてくれたんだぞ!それに…」
「少し黙っているのです!愛の危機なのです!!」
どうすれば、どうすれば…!そうだ!自分で機体を操作できれば!
「code マニュアルモード!」
【codeーマニュ】
【エラーが発生しました。】
「ぶっぶー!受理できませーん!なのです!!」
「なっ!桜華!いい加減にしろ!」
さすがに頭にきた。大声で怒鳴る。
機体全体がビリビリするほどの大声。
ぐすん…ひっくひっく。
「ほぁ?」
目の前で、桜華は地面に突っ伏してじたばたしながら泣いている。
「ひどいです…マスタぁ~。」
大粒の涙がぼろぼろと落ちる。
なんだこの感情?胸に弓矢が貫通したような…罪悪感??
「えっ?あっ、あの…ごめん!ごめんて!」
「マスター、怒ってない?」
「怒ってない、怒ってないよ!!」
ああ。完全に情に流された。失策。
「良かった。私、マスターに嫌われたら生きる希望を失って、スカイダストにぶつかって自爆するつもりだったのです♥️」
そうだった。こういうやつだった…。
ビルから飛び立った数分後、ハガネから通信が入る。
「聞かせてもらったぞ。桜華さん?空は解放してもらう。」
会話を傍受されていた。
「盗み聞きとは趣味が悪いのです。マスターと私の愛を邪魔するのなら殺しますよ?」
「ちょっ!桜華??言い過ぎ!」
「牽制の言葉としては丁度よいかと。」
「ふん。ザコAIごときが。待ってろ空!今助ける。」
「待って、ハガネさん!こいつ悪いやつじゃないんです!!」
「人間を連れ去り、監禁し、おまけに三原則を破るようなAIがか?」
…確かに。
「もう、やるしかありませんよ、マスター。やらなきゃ死にます。」
「僕も!?」
「当たり前です。死ぬときは一緒なのです♥️」
この馬鹿AIのせいでハガネさんと戦うはめになってしまった。