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落下の3


10分前、僕と男は供給所を出発した。男の話を詳しく聞かせてもらうつもりだった。しかし、僕達は男の言う面倒な奴らに襲撃されていた。


他人の機体を見て初めて知ったことなのだが、僕ら人間をのせているこの生命維持装置のほとんどが黒い棺桶のような形をしているそうだ。


男の黒い棺桶と僕の黒い棺桶、敵の黒い棺桶が空中でチェイスする。


「おい!早くしろ!こっちだ!」

「うわぁ!」


男の棺桶から伸びたアームが僕を(僕の機械を)ぐいと引き寄せる。追跡者の機体から放たれたミサイルがギリギリで僕の横を通過した。続け様に銃弾を放たれる。休む暇もなく攻撃されていた。


「一旦スカイダストの影に隠れるぞ。そこのビルだ。急げ!」


情けない悲鳴をあげながら必死に男の後ろをついていく。目的のビルまで何度も迂回する。追跡者の視界から外れ、身を隠すことができた。

ビルの中に入った機体は自動でペグで固定された。

ここに隠れるまで小径の弾丸が何発か被弾したし、ギリギリでかわした障害物に機体を擦ったりもした。

機体はもうぼろぼろだ。

果たして逃げ切れるのだろうか。

ここで終わりなのではないだろうか?

ついつい最悪を想像してしまう。


「安心しろ。俺がついてる。ここで少し待っていろ。絶対に動くんじゃないぞ。いいな?」


男は落ち着いた声で言う。ほんの少し冷静さを取り戻す。ミサイルの爆破音や銃声は未だ鳴り響いている。恐怖心は消えないし、今にもわめき散らして逃げ出したい気持ちだった。しかし今、生き延びる最善の方法はここでじっとしていることだろう。


黒い棺桶の前面が開く。中から男が出てくる。服装は身体のラインがわかるインナー。巨体は鍛え上げられており、筋肉が隆々としている。黒ベースのボディには赤のラインが光っている。身体に取り付けられた機械と機械の合間を縫うような毛細な模様が血管を彷彿させる。


男は四肢の動きを確かめるように軽く身体を動かすと棺桶からライフル銃を取り出しさっさとどこかへ行ってしまった。


「マスター、マスター。」


今まで沈黙していた女の子の声だ。


「桜華!どうして今まで出てこなかった?変な奴に襲撃されて大変なんだ。」

「知っているのです。でも私、あの男の人とお話したくなかったのです。私がお話するのはマスターだけなのです。」


何度か通話の合間を縫って呼び掛けたが何も反応が無かったのがこんな理由だったとは…。


「できればあの男といる間は私に話しかけないでほしいのです。あっ、マスターが嫌いになったとかそういうわけではないんですよ!?本当ですからね!?できればずーっとマスターとお話していたいんですけれども、あの男とは一秒だって口を交わしたくないのです。それにそれに…」

「わかったよ。ただ本当にヤバい時はちゃんと出て来て助けてくれよ?お前だけが頼りなんだから。」

「そうですね。任せてくださいなのです!あっ!でもでもあの変な奴らにミサイルぶちこまれて木っ端微塵になって、永遠に二人は一緒♥️みたいなのも素敵かなぁ♥️」

「縁起でもないよ!!」


本当に、縁起でもない。時々怖いんだよなぁ。



男はビルの中をかけていた。

身体中から噴出される姿勢制御用のスラスターが自動でバランスをとってくれるため、落下中の不安定な足場でもスムーズに移動できる。

窓際から外を確認する。その後も敵に見つからず、なおかつ敵の位置を把握できる位置をキープしながら移動する。

吹き抜けを、エレベーターを、エスカレーターを豪快に移動し、機敏な動きで上の階へ向かう。

「はぁっ!!」

最上階、重い扉を壊し外へ出た時既に男はは攻撃に有利なポジション。つまり敵の真上にいた。

建物と相手の機体の大きさが根本的に違うため、落下速度に差が出る。さらに男は巨大な建物内を有利な位置へと移動し続けたため、数分の間に位置関係は逆転した。


「死人にはちゃんと死んでもらわないとな。」


男は屋上から飛び降りる。

敵との距離は500メートル。


【codeー推量増進】

スーツの赤いラインが心臓から背中のブースターに向かって光輝き流れていく。

重力とブースターの推量が男を加速させる。

500メートルもの距離が一瞬で縮んでいく。

敵は全く気がつかない。


「コンタクト!」


相手の機体に着地する。ゴォン!と鈍い金属音が響いた。衝撃で乱回転する。

着地と同時に膝からペグが射出され男の身体を固定する。

遠心力をもろともせず、高速回転の中でライフル銃を棺桶に向ける。


「安らかに眠ってくれ。哀れな傀儡さんよ。」


大空に銃声が一度だけ響く。勝負は一瞬だった。


男は近くのスカイダストに飛び移り棺桶を見守る。銃は向けたままだ。

ベンダブラックだった機体は白に変わる。男は銃を降ろした。


「保護対象者が死亡しました。本機体は運転を停止します。」


そのアナウンスを最後に白い棺桶は意思を失ったように果てしない空に落ちていった。



「よお、生きてるか?俺が助けたんだ、もちろん生きてるよな。はっはっは。」


銃声が聴こえて数分後、男が戻ってきた。

僕はこの戦いのなか、震えて待っていることしかできなかった。

それはとても情けなくて、とても悔しいことだった。


「どうした?怖かったか?」

「はい。正直怖かったです。」

「命のやり取りなんか普通に生きてたら経験しないからな。正常な感覚だ。それに、恐怖に耐えきれなくて飛び出してそのまま殺されちまうやつもいる。じっとしていれただけ上出来じゃないか。」

「でも…僕は…」

「戦いたかった?」


男の問に僕は結局最後まで答えられなかった。


「はっはっは。誰でも最初はそんなものさ。ただこの空で生きていくには戦わなくてはいけない。仕方のないことだ。」

更に男は続けた。

「この世界で生き残る意志があるなら教えてやる。戦いかたを。どうだ?」


俺は、俺は…こんな世界でも生きていたいと思った。


「教えてください。戦いかたを。」



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