落下の10
メモ10
「やっと出ていったか。まあ、空くん一人じゃなにもできまい。親父とアオギリもいるしな。」
シュロは床のハッチを閉じる。
そしてその部屋の奥、手のひらを隠しパネルにかざし、秘密の部屋へと続く扉を開いた。
「問題はこっちなんだよなぁ。なぁ?桜華さんよ?」
動力の落とされた傷まみれの黒い棺。
その中で桜華は死んだように眠る。
「さて、お目覚めだ。」
シュロは機体のスタートスイッチを押し、桜華を覚醒させた。
桜華の3dモデルが機体とシュロの間に投影される。
「なっ!ここはどこなのです?マスター!?マスター!?」
「おはよう。桜華さん。」
「お前は…!!ハガネという男の仲間ですね!!マスターを帰せなのです!!」
シュロを見るなり血相を変えて食って掛かる桜華。対照的にシュロは口元をにやつかせている。
「おっと、抵抗しても無駄だ。推力系統のパーツは破棄させてもらったよ。マニピュレータもな。つまり今のお前はダルマだ。御主人様とお揃いだな。」
「みたんですね?マスターの姿を…」
「ああ見たよ。」
「その、マスターの…モノもみたのですか…?」
「ふん。」
「耳、真っ赤ですよ。」
「なっ!?と、とにかくだ、なぜ空くんには手足がなかったんだ。説明してもらう。」
「お前ごときが気安くマスターの名前を呼ぶな!!!」
「なっ!なんだ急に!!?」
突然激昂し、大声を出す桜華にシュロが怯む。
「マスターを私から奪って、あなた達はどうしたいんですか!?」
「う…。」
今度は泣き出す。小さな子供のようにぽろぽろ涙をこぼす。情緒が不安定なAIを前にして、シュロはどう相手をしたらいいかわからなくなってしまった。
「あっ、あの、桜華ちゃん??泣かないで?お姉ちゃんと少しお話しよ?」
「…。」
シュロは涙を流す桜華を見て情に流された。
感情がいっぱいいっぱいのこの泣き顔を幼い頃の妹と重ねてしまった。
懇篤な態度をとってしまったことを後悔した。
(私としたことが…。こんな会話プログラムに表情がついただけの機械仕掛けの子供だましになんて無駄なことを。)
「ぐすん。少し…だけなら…。」
「え、いいのか…。」
「はい…。でも少しだけですよ。あなたは敵なのです。それとマスターを帰して欲しいのです…。」
意外と素直だ。
乱暴に扱うよりは丁寧にした方が良いかもしれない。
相手も人…いや、人ではないが、人に似た思考ができるのかもしれない。この娘への対応は最低限、人道的であるべきかもしれない。
桜華は小さい声で希望を伝えてくる。しかし、桜華が空や自分たちにとって脅威にならないと判断できなければ空と会わせるわけにはいかない。
「ごめんね…桜華ちゃん。それはあなたの返答次第なんだ。」
「すいません。気を使わせてしまって。桜華はいつもの話し方で大丈夫なのです。」
このAI、こんな気の使い方も出来るのか。
「こほん。そうか。ではそうさせてもらう。」
尋問の始まりだ。
「まず一つ目。どうして空くんに手足がなかった?搭乗者の身体的損傷の回復はお前達の義務の筈だが?」
「…。マスターが居なくならないように…自由に動ける手足を与えなかった。それが怖かったのです。私だけのマスターですから…。」
「だからといって、義務を果たさなくていい理由には…」
「あなたにはわからないのです。」
「しかし安心した。虐待等の心配はなさそうだ。」
桜華はむっとした顔で私を睨んだ。
「もうひとつの質問だ。これはそうだな…仮定の話なんだが、もし空くんに手足をつけるって言ったらどうする?」
「どんな手段を行使しても止めさせます。」
「私達に危害を加えてでも?」
「当たり前なのです!!」
「そうか。わかった。もう結構だ。」
シュロは興味を無くしたように踵を返す。
「なっ!まさか!?マスターは今どこへ!?」
キッとシュロを睨む桜華。
バチバチと桜華の機体を繋いでいる配線類がショートする。
「ふん。やはり危険因子のAIだ。」
シュロは振り返らない。予想していたといわんばかりの落ち着いた動きで桜華の電力ユニットに近づく。
「絶対に許さな…!!」
ガチャンと電源を落とす。桜華はその場でシャットダウンし、意識を閉ざした。
「親父に報告しなきゃな…。」
少しばつの悪そうな顔でシュロは部屋を出た。




