Algida
かくして事件は終わった。
エディを取り戻した一行は、急速に範囲を縮めていく霧の外側を目指した。もはや霧には人を内部に留めるだけの力もなく、容易に脱出できた。
そこからは眠る心臓による復興作業だ。しかしそれには他区住民であるアルジダもエディも関係ない。簡単な検査を済まし霧の影響が残っていないことを確認すると、その翌日には一区への帰路を許された。
「それじゃあ行くとするよ。世話になったな」
アルジダとエディは仮設本部の建物の外へ出る。久しぶりにしっかりと見た外の景色は、茜色に染まった空だった。たった数日のことなのに酷く懐かしく感じてしまう。
「それしてもエディ君に何もなくてよかった。核というからには、そのまま異能が発現するんじゃないかと思ったけど、そんなことはなさそうだね」
「うーん。霧に操られていたせいか、僕は何も覚えてないんですよね」
見送りにきたミンストレルの言葉にエディは首を傾げて誤魔化す。だが彼の顔が赤くなっていることから、覚えていることは明らかだ。全てが本人の意思でないにせよ、言ったことややったことは記憶してしまっているのだろう。
アルジダが外を見回すとミント以外の人間も見送りに来ていた。クラップ、スズナ、蜜。三人ともあの街で知り合い、事件解決に協力してくれた人たちだ。
「そういえばレディやカワード、ランベルトの姿が見えないが……」
「あー。あいつらなら後始末がまだ残ってるとか言って、霧の中に戻っちまったよ」
クラップは頭を掻きながら申し訳なそうに言った。
出来ることなら彼らにも挨拶ぐらいはしたかったが、いないのなら仕方ない。あとで誰かに礼を言っておいてもらおう。
別れ際に見送りに来てくれた彼らが言葉をかけてくれる。
足を引っ張ってしまい申し訳なかったとスズナは謝った。そんなことは気にしていないと言うと、近いうちにお詫びに新鮮な野菜を届けてくれるらしい。
今度は自分の店にも来てほしいとミントは言う。聞けばニュナスもよく来ているらしく、チェックする必要がありそうだ。
その宵越しで良い酒を奢ろうと蜜は言ってくれた。コンコルディアの外で生きてきた彼の話を聞くのも面白いかもしれない。
街の案内なら任しとけとクラップは胸を張った。今回は負の面ばかり見せてしまったが、もっと三区は楽しいこともあるんだと自慢げに語っている。
それぞれへの感謝と挨拶を済まし、ふたりは貧民街に背を向けて歩き出した。
「あの、アルジダさん。今回のことなんですが……」
「別に気にしてない。エディが今回やったことは私の為だったんだろう。それでもまだ何か罪悪感があるのなら、明日からもっと鍛錬に励むことだ。剣もそうだが、精神もな」
「……はいっ!」
ふと誰かに呼ばれた気がして、アルジダは貧民街の方を振り返る。ぼんやりとしていたが、ニヒツと子供たちらしき人影が手を振っていた。
そんなわけがないと、まばたきをすると、もう彼女たちの姿はどこにもなかった。
霧の後遺症か、それとも単なる目の錯覚か。どちらにしてももう思い残すことはなくなった。
「一緒に帰ろう、エディ。私たちのいるべき場所へ」
夕陽に照らし出されて伸びる、手と手を繋いだふたつの影。
それはまるで本当の家族のようだった。




