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アビスミスト  作者: Ten10
Side:Ladybird
23/37

Side:L ⑥



 偽蜜とスズナの襲撃から逃れることに成功したレディたちは目的の地、蟲屋へとたどり着いていた。

 早速異能の感染原である病気の特効薬を服用し、堕ちる危険性を回避。体力が回復するまで休憩することにした。


「これでよし」


 蟲屋2階にあるレディバードの私室。レディはそこのベッドで横になるカワードの腕の傷を治療し終えると、ほっと一息をついた。


「……ごめん、カワード。キミが庇ってくれなければきっとボクは殺されてた。それにニヒツも呼んでくれなかったら、そこでもボクは死んでた」


 レディは顔を伏せながら、申し訳なさそうに謝る。

 偽蜜の一撃は精確だった。もしカワードが傍観していたらレディは真っ二つだったであろう。

 しかも斬られて下水に落ちた彼女は先に蟲屋に向かい、救援を店内にいたニヒツに頼んだのだ。自身だって大けがを負っているのにもかかわらず、残されたふたりのことを考えて行動してくれた。二回も命を救ってくれた彼女には頭が上がらない。


「僕はレディを助けにきた。最初に、そう言った。だから、レディが無事で良かった」


 慰めるかのようなカワードの笑顔に、レディはただ頷くことしか出来なかった。

 不甲斐ない自分が情けなかった。焦って、苛立って、捕まって。レディの行動は仲間を危険に晒しただけだった。こんなんじゃ昔の自分から少しも成長できてない。

 やがてカワードは鎮痛剤が効いてきたのか、安らかな寝息を立てながら眠りに落ちた。


「失礼するのだよ」


 部屋の扉をノックしてニヒツが入ってくる。


「蜜の様子はどう?」

「しばらくは安静だな。解熱剤を打ったとはいえ、よくもあの状態で動いたものだよ。堕ちる堕ちない以前に病気の症状だけで倒れてもおかしくない。留守番ぐらいは出来るだろうが、今は外へ行けないな」


 1階で蜜の看病をしていたニヒツがそう言う。

 この街で出会った時から蜜はだいぶ無理をしているようだった。その状態で霧の化け物たちや自分の偽者と戦ったのだ。いくら蜜が強くても、身体には異常をきたしていても何もおかしくない。

 それに眠っているカワードを守ってくれる人が欲しかったからちょうどいい。


「それで、ニヒツ。どうしてオマエがここにいる。あの事件からずっとアルジダの中にいたのか」

「いいや。ワガハイは霧が記憶をいじくった影響で蘇ったものでしかないのだよ。いわゆる具現化というものに近い」

「じゃあなんで今のオマエはアルジダじゃなくニヒツなんだ。アルジダは何をしている」

「端的に言えばアルジダは堕ちたのだよ。だから自ら人格を眠らせて、ワガハイに身体の主導権を任せた」


 堕ちてしまえば昏倒か凶暴化の二択は避けられない。どちらにしても身体が完全に支配されてしまう。それならばと思ったアルジダは一か八かでニヒツに賭けたのだろう。

 そしてニヒツがレディを探していた理由も大体察しがついた。恐らくニヒツたちは異能が病気に起因することに気付いていた。だから治す薬を持っているかもしれないレディが必要だったのだ。


「だけどアルジダが治ってしまったらニヒツは消えてしまうんじゃないか。オマエはそれでいいのか」

「ワガハイは既に主人と役目を失った身。未練などないが、治ってもまだ消えない気がするのだよ」


 ニヒツは霧の影響で蘇ったと言っていた。ならば異能の感染が解けてしまえば消えるのが道理なはず。それなのに何故消えないと自信をもって言えるのだろうか。


「病原菌を駆除することでなくなるは自身への侵食のみとワガハイは考えている。幻聴、幻覚、堕ちるといった弊害はなくなるが、具現化自体は消えないのだよ。これは霧が記憶を読み取って生み出してるだけだからな」


 自分の中の感染させられた異能は消えても、異能本体はまだ消えてない。例え感染させられなくとも恐怖を具現化させるのには何ら支障がないということになる。まだ危険がなくなったわけではなさそうだ。

 完全に事件を解決するには、始まりの発現者、()となっている人物を倒さねばならない。


「ランベルトたちと合流しないと。一緒にいたはずのスズナが堕ちていた以上、アイツらも無事じゃないかもしれないけど……」


 それでも合流しなければならない。彼らに頼んでいた霧濃度観測装置がなくては、事件を解決するのは難しい。


「ワガハイも同行しよう。ちょうどワガハイも探さないといけない子がいるからな」

「探さなきゃいけない子? 誰なんだ」

「明星のララという子だよ。レディは見ていないか」


 ニヒツの質問にレディは不思議そうに首を振った。

 ララといえば二週間前から行方知らずになっている少女だ。もう堕ちたものとばかり思っていたが、ニヒツの口調からしてまだ元気らしい。

 それにしてもどうして今彼女を探さなければいけないのか。子供だから助けなくてはいけないという情ではなく、ニヒツにはニヒツなりの思惑がある様子に見える。


「ワガハイの見立てではあの少女が事件の鍵になるのだよ。……ん? なにか銃声が聞こえなかったか」


 気になることを口走ったニヒツだが、その訳を説明するよりも前に窓に近づいて外を見る。霧だらけで見えない中、それでもニヒツは目を凝らす。

 確かにレディにも破裂音、爆発音らしき音が聞こえた。堕ちた住人が錯乱して発砲でもしたとも思えるが、気になるといえば気になる。


「行ってみよう。どっちにしたってボクらは外へ出る必要がある」


 レディは早速椅子から立ち上がると、ニヒツもそれに続いた。



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