(15)ラウラ姫
謁見の間での王との会談から五日後、シゲルたちは王都に滞在していた。
正確に言えば、一度フィロメナの家に帰ったあとに、また戻ってきたのだ。
何故そんなことをしたかといえば、単純に会談の後に王家から正式に再度の面会の依頼があったためだ。
その理由としては、会談の件についてのその後の国としての対応報告があるからという事であったが、フィロメナは別の理由があると睨んでいた。
とはいえ、世間に衝撃を与えるあれだけのことを報告したのだから、一応結果を聞く必要はある。
さすがに古代遺跡の件に関しては、投げっぱなしにするつもりはなかった。
というわけで、再び王都に戻ってきたシゲルたちは、宿を取ることなくそのまま城へ入った。
宿を取らなかったのは、今回はさほど長い話になるわけではないだろうと目論んでのことだった
ただし、それが甘かったと思わされたのは、会議室のような小部屋に通されたときのことだった。
その部屋にいるメンバーを見て、フィロメナたちが一瞬固まったのがシゲルにはわかった。
逆に、知っている者が二人ほどしかいなかったシゲルは、そのフィロメナたちの様子を見て内心で首を傾げていた。
シゲルの知っている二人は、謁見の間で見かけた王と王妃である。
シゲルは、王と話をすることになるだろうとフィロメナから言われていたので、あまり驚かずに済んでいた。
そのシゲルを置き去りにして、驚きから復活したフィロメナが、ため息をつくようにして言った。
「…………アドルフ王。これは、あまりにも気が早すぎませんか?」
そう言ったフィロメナだったが、何故か視線はアドルフにではなく、別の女性に向いていた。
王と王妃しか視界に入っていなかったシゲルは、改めてそちらの女性に視線を向けて、思わず息を飲んでしまった。
それまでの人生でお目にかかったことのないような美人なフィロメナたちと会ったときも衝撃だったが、その女性は彼女たちかそれ以上と言われてもおかしくはないほどの美貌の持ち主だったのだ。
流れる清水のような白銀色の髪は、その女性の隣に立っている王妃譲りだということがわかる。
さらにいえば、息を飲むような美しさを持つその顔は、両親であろう王と王妃の特徴をしっかりと受け継いでいた。
その優しげな顔と雰囲気から彼女の性格が穏やかであることは、すぐに察することが出来る。
あまりジッと顔を見ていては失礼だと視線を下に移してみれば、ドレスに身を包んだその体が非常に女性的であることがわかった。
はっきり言えば、山と谷がはっきりとしたそのラインは、シゲルがこれまでの人生で見てきた中で一番だと思っていたマリーナに並ぶほどだった。
シゲルの観察するような視線に気付いているはずのその女性は、それを咎めるでもなくおっとりと微笑んでいた。
その様子に気付いているアドルフ王は、にやりと笑ってからフィロメナに答えた。
「さて、早いかどうかは当人たちが決めるべきことではないか? ――まあ、それはともかく、まずは座ろうではないか」
さらりとフィロメナからの追及をかわしたアドルフ王は、そう言いながらテーブル席に座るように促した。
席に着いたシゲルたちはいつもの四人で、その対面に座った王たちも全員で四名だった。
当然ながら背後には護衛が立っているが、その数には含まれていない。
王側の四人のうちの二人は王と王妃で、他の二人のうちの一人はシゲルが注目してしまった女性、そして残りのひとりはその女性によく似た美形男子だった。
フィロメナたちの反応や王や王妃によく似ているその顔から、シゲルが初めて会う二人が王族であることはすぐにわかった。
そのシゲルを見ながら、アドルフ王がこう言ってきた。
「シゲル殿はまだ私の子たちにはあったことが無いはずだからな。紹介をしておこう」
アドルフ王はそう言いながら、シゲルにとっては初対面であるラウラ姫とカイン王子を紹介してきた。
ちなみに、ラウラが姉であり、カインはホルスタット王国の王太子だ。
つまりは、どちらも王妃であるラダの実子であり、実の姉弟ということになる。
アドルフ王からラウラとカインを紹介されたシゲルは、改めてよく似た二人を見ていた。
そんなシゲルに、アドルフ王は笑いながら言った。
「最初はラウラだけと会わせるつもりだったのだがな。噂の御仁と会えるならと、カインも無理やりに時間を合わせてきたのだ」
「おう。無理矢理にはないでしょう。ほかの兄弟たちも会いたがっていたのを、私が会うという事で無理に抑えたのですよ?」
「はっはっは。そんなこともあったな」
笑いながらそう返した王を見て、シゲルは「はあ」と返しつつ、内心で首を傾げていた。
話の内容からホルスタット王国の王族が自分に会いたがっているという事は理解出来ているが、なぜ自分にという疑問が湧いているのだ。
自分が渡り人や上級精霊を従えているからということは分かっていても、それ以上のことは未だに思い浮かんでいないのである。
そんなシゲルを見ながら、フィロメナが苦虫を噛み潰したような顔になって言った。
「アドルフ王、先ほども言いましたが、少し気が早すぎませんか? シゲルが表に出てから、まだ一週間も経っていないのですよ?」
「おや、これはまた勇者らしからぬことを言うのだな。即断即決は其方の売りのひとつではなかったか?」
揶揄うようにそう言ってきたアドルフ王に、フィロメナはため息をつくことしかできない。
マリーナに至っては、諦めたように天を仰いでいた。
そんなふたりを見ながら不思議そうな顔をしているシゲルに、唯一面白そうな顔になっているミカエラが言った。
「珍しくシゲルの察しが悪いわね。それとも、異世界人だから気付きにくいのかな?」
「気付くって、どういうこと?」
そう言いながら首を傾げているシゲルに、ミカエラがますます笑いを深めた。
「あら。どういうこともこういうことも、この状況に心当たりのあることは、以前ここの宿屋で話したわよね?」
ミカエラからそう言われたシゲルは、以前王都の宿屋で話したことを思い返していた。
そのときの会話といまの状況を合わせて考えると、シゲルの脳内で一つのことが思い浮かんできた。
そして、思わずラウラとフィロメナ、マリーナの顔を交互に見た。
「えっ……。えっ!? ――ええええ!?」
しばらくして今の状況を理解できたシゲルは、思わずといった様子で、絶叫に近い叫び声を上げてしまった。
そんなシゲルを楽しそうに見ていたアドルフ王は、感心した様子で頷いていた。
「さすがは勇者パーティと言ったところか。すでに私が考えていたことは、お見通しだったか」
「王。褒めていただけるのはあり難いですが、残念ながら彼女はないだろうと予想してのことです」
相変わらずの表情でそう言ったフィロメナに、アドルフ王はどこ吹く風で返した。
「おや。そうだったのか。まだまだこちら方面に関しては、読みが悪いのか?」
「お言葉ですが、王。これはさすがに、まだどこも読んでいないのでは?」
アドルフ王の言葉に反抗するように言ったのは、苦笑しているマリーナだった。
そんなマリーナに、アドルフ王は楽しそうに笑いながら「そうかな?」とだけ返してきた。
フィロメナたちが王とそんな会話を行っている間、シゲルは呆然とした様子でラウラを見ていた。
さすがのシゲルは、この場が単に古代遺跡の扱いについての話し合いではないことについては気がついている。
とはいえ、まさか自分がラウラほどの美人とのお見合い(のようなもの)をすることになるとは全く考えていなかった。
そのため、頭の中は真っ白になっている。
ただし、シゲル自身は、このお見合いが成立するとは全く考えていなかった。
何故なら、シゲル自身はともかく、フィロメナとマリーナの様子を見る限りでは、とても受け入れられるとは思っていなかったからだ。
いくら一夫多妻が許される世界だとはいえ、その二人の反対を押し切ってまで、そしていかにラウラが美人だからといって、迎え入れるつもりはなかった。
そんなシゲルを一歩引いたところで見れていたミカエラが、再び王とフィロメナたちの会話に割り込んだ。
「会話の途中で申し訳ありませんが、あまり当人を置いてきぼりにして話を進めない方がよろしいかと思います」
ミカエラがそう言うと、フィロメナとマリーナはハッとした表情になり、王は訝し気な表情になった。
その王が何かを言うよりも先に、ミカエラがさらに続けていった。
「王。ご存知の通り、シゲルは異世界からやって来た者です。この世界、というよりもこの国の常識は通用しないと思われた方がよろしいかと」
「む。確かに、言われてみればそうだったな。これは、済まなかった」
そう言いながら何故か頭を下げてきた王を見て、シゲルは軽くパニックになっていた。
なぜ、自分が王から頭を下げられたのかもわかっていないのだ。
そんなシゲルに、ミカエラが苦笑しながら言った。
「シゲルは他人事のように感じているかも知れないけれど、貴方がこの場に来た時点で、ほぼラウラ姫との婚約は調ったと思っていいのよ?」
「……………………………………ハイ?」
シゲルにとっては寝耳に水の言葉に、たっぷり十秒は開けて、そう返すことしかできないのであった。
なぜ(ほぼ)決定事項なのかは、次話にて説明しますw




