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(9)シゲルの魔法と料理

 冒険者カードができるまでは少し時間がかかるということで、シゲルとフィロメナは、一旦冒険者ギルドから出た。

 二時間後にはできているということで、それまでには戻ると受付嬢には話をしている。

 外に出て歩き始めたシゲルは、近くに誰もいないことを確認してから問いかけた。

「それで? あの魔力検査で何が分かったの?」

 案外、歩きながらの会話は、同じ方向、速度で歩いていない限りは、耳に入りにくいものなのだ。

 それに、離れた場所には聞こえないように、小さめの声で話している。

 

 フィロメナもそれがわかっているのか、すぐに答えて来た。

「一言で言ってしまえば、シゲルの魔法の素質は最高レベルだった」

「ああ、そっちか」

 まったく素質が無いのか、高いのかのどちらかだと考えていたシゲルは、驚くことなくフィロメナの言葉を受け入れた。

 

 フィロメナはそのことに驚いたようで、目をパチクリさせてからシゲルを見た。

「……驚かないのか?」

「いや、驚いてはいるけれど、何となくさっきのやり取りで想像は付いていた。それに、素質があったからといって、実戦レベルで使えるようになるかはまた別問題でしょ?」

「まあ、それはそうなんだがな」

 それでもシゲルの答えに納得がいかなかったのか、フィロメナはそう言いながら不満そうな顔をしていた。

 

 そのことに気付いたシゲルは、少し笑いながら言った。

「昨日も話したと思うけれど、自分の地元では、こういった物語がたくさん出ていてね。今みたいなパターンもたくさん書かれているんだよ」

「……何というか、そっちのほうが驚きなんだが……そんな話があふれているとは、一体どういうところ(世界)なんだ?」

 呆れたような顔でそう言ってきたフィロメナに、シゲルは曖昧な笑みを浮かべた。

 さすがに、前情報もなにもなしに、業が深い世界については話すつもりはない。

 話したところで理解できないどころか、余計な知識が付いてしまうだろう。

 

 シゲルの顔を見てどう受け取ったのかは不明だが、それ以上はフィロメナも聞いてこなかった。

 そもそもの本題から外れていたことも、理由のひとつだろう。

「それで、今後のことなんだが……」

「うん? 昼食に行くんじゃないの?」

「いや、そっちの話ではない。……わざとやっているだろう?」

 シゲルの露骨な話題転換に、フィロメナは軽く睨んた。

 

 そして、シゲルが誤魔化すように視線をずらすのを見て、フィロメナはため息をつきながら続けた。

「シゲルの魔力についての話だ。そなたの魔法に関しては、私が教えるように話をするつもりだが、それでいいか?」

「それは、こっちとしては願ったりだけれど……いいの?」

「良いもなにも、それが一番無難だからな。このまま何も決めずにギルドに戻ると、間違いなく強引に押し込んでくるぞ」

 断言するようなフィロメナの言葉に、シゲルは渋面になった。

 

 話の流れから、誰がなにを押し込んでくるのかは、考えなくてもわかる。

 シゲルとの繋がりを得るために、ギルドマスター辺りが教師役を紹介すると称して、自分の息のかかった人間をつけるという意味だ。

「うぇっ。それは面倒だなあ。自分としてはフィロメナに教えてもらえれば助かるけれど、本当にいいの?」

「うむ。常識を教えるのに加えて、魔力の扱いを教えるくらいだからな。何も問題ないさ」

「そう言ってくれるとあり難いけれど……。どうにもこっちがもらい過ぎている気がする」

「ハハ。真面目だな、シゲルは。まあ、そう思うんだったら、食事はシゲルが用意してくれるとありがたいかな?」

「それくらいは全然構わないけれど……足りている気がしないなあ」

 シゲルにしてみれば、食事を作るのは趣味の一環なので、恩返しの一部とは思えない。

 

 そう考えてのシゲルの言葉に、フィロメナは首を振りながら答えた。

「そんなことはないさ。これから昼を食べるが、そのときにも理由は分かるはずだ」

 なぜか妙な確信を持ってそう言ってきたフィロメナに、シゲルは首を傾げることしかできないのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 シゲルの今後について決めたあとは、今いる町の他愛もないことを雑談しながら次の目的地に向かった。

 お昼としては丁度いい時間になっているので、フィロメナの案内に従って、タロの町でも人気の店に入った。

 お昼からは多少外れた時間だった為、人が並んでいるというほどではなかったが、それでも店内は賑わっていた。

「なかなか賑わっている店だね」

「そうだろう? 少なくとも私は、タロの町でも一番だと思っていたからな」

 何とも微妙な表情でそう言ってきたフィロメナに、シゲルは内心で首を傾げつつ一応頷いた。

 フィロメナの微妙な言い回しが気になったシゲルだったが、何となくここでは聞かない方がいいだろうと考えた。

 

 そんなことを話しながら席に着くと、笑みを浮かべたウェイトレスが注文を取りに来た。

 シゲルがした注文は、フィロメナと同じものを頼んだ。

 フィロメナがこの店に来たならこれを食べないとと言っていたということもあるのだが、フィロメナと同じものを食べてどういう感想を持つのかを知りたかったのだ。

 今朝、自分の料理を食べたフィロメナが、なぜあれほどまで褒めてくれたのかが、それで分かると考えたのである。

 

 

 シゲルとフィロメナが頼んだ料理は、黒パンとスープ、それとオーク肉だ。

 内容的には、今朝の朝食とほとんど変わらず、オーク肉がついただけだ。

 何故かシゲルの一挙手一投足に注目しているフィロメナには気付いていたが、まずは食べてみないことには始まらない。

 こうした店でも黒パンなのは、そもそも白パンが無いのか、一般には出回っていないということだ。

 シゲルはまずはスープから口にした。

 そして、今度はオークの肉を食べてみる。


 それぞれを一口ずつ食べ終えたシゲルに、フィロメナが聞いていた。

「どうだ?」

「うん。やっぱり人気な店だけあって美味しいと思うよ」

「そうだろう?」

 シゲルの無難な言葉に、フィロメナが満足気な顔になって頷いた。

 こんな所で、出された物の評価を偉そうに話すつもりは、シゲルにもフィロメナにもないのだ。

 

 人目が多くある店内では、話せることにも限りがある。

 このあとは、町の様子など、食事とは関係のない無難な話に終始していた。

 ただし、どこに行ってもフィロメナに注目が集まるのは仕方のないことのようで、食事をしている間もシゲルはそこかしこから視線を感じていた。

 できればただの自意識過剰かと思いたかったが、残念ながら一部毒のある視線が混じっていたことは、間違いようがなかった。

 こればっかりは、別にフィロメナがたとえ勇者でなかったとしても同じなんだろうなぁと、シゲルは料理を口に運びながら割とどうでもいいことを考えるのであった。

 

 

 フィロメナが二人分の食事代を払って店を出ると、すぐにシゲルに聞いて来た。

「それで? 本当の所はどうだった?」

 その勢いに苦笑しながら、シゲルは少し考えてから答えた。

「うーん。普通に美味しかったと思うよ? でも、自分には少し味が濃かったかな?」

 これが、シゲルが店の中では言えなかったことだった。

 ちなみに、スープはしっかりと肉や野菜の出汁も取れていたし、オーク肉も変な味付けにこだわっているという事はなく、シンプルに塩を振っていた。

 ただし、シゲルにとっては、どちらも毎食食べたいかと言われれば、丁重にお断りしてしまうような味付けだったのである。

 

「味が濃い……確かにそうかもしれないが、それだけか?」

「さあ? 自分は料理人というわけじゃないからね。さすがにこれ以上はわからないよ」

「むう。そうか。確かに、たまに食べる分には、とても美味しく感じるのは、私も同じだが……」

 シゲルの答えに、フィロメナは不満そうな顔で唇を尖らせた。

「せっかくシゲルの料理の秘密を知ることができると思ったのだが、な」

 さらに続けてそう言ったフィロメナに、シゲルは思わず噴き出した。

「いや、ほんとにそんな大した秘密はないから。それに、多分だけれど、そもそもあの店の味付けはわざとだと思うよ?」

「うん? どういうことだ?」

 シゲルの言葉に、フィロメナは首を傾げて不思議そうな視線を向けて来た。

 

 その視線を受けて、シゲルはさらに説明を加えた。

「この町って、たしか魔の森に近いから、冒険者が多いんだよね?」

「ああ」

「だから、それを狙って敢えて味付けを濃くしているんだと思うよ。最初から狙ってやったのか、お客を入れているうちに自然とそうなったのかはわからないけれど」

 シゲルがそう言うと、フィロメナは意味が分からないという様子で、頭上に「?」マークを浮かべていた。

 

 それに気付いたシゲルは、どう説明したものかと少しだけ悩んでから、更に続ける。

「冒険者って肉体労働の上に、遠征なんかしたらまともな食事を得るのも難しいよね?」

 確認するように聞いて来たシゲルに、フィロメナは小さく頷いた。

「ああ、それはそうだな」

「だから、町に戻ってきたときには、ガッツリ食べたと思えるように、味の濃いものを求める…………んだと思うんだよね」

 最後の方は自信なさげになっていたが、それがシゲルが考えた味が濃くなっている理由だった。

「今のところひとつの店しか知らないから断言はできないけれど、どうかな?」

「いや、確かに、どちらかといえば味が濃い店のほうが多い気がするな」

「ああ、やっぱり」

 フィロメナの言葉に、シゲルはホッとした様子で頷いた。

 偉そうに解説したのは良いが、間違っていたら恥ずかしくて穴を掘りたくなってしまう性格なのだ。

 

「まあ、そういうわけだから、自分の料理が特別ってことはないと思うよ。タブン」

「むう」

 シゲルの出した結論に、フィロメナは不満げな声を出した。

 だが、すぐに笑顔になって言った。

「まあ、いいか。とりあえずしばらくはシゲルの作った料理を食べられそうだしな」

 そう結論を出したフィロメナに、シゲルは苦笑を返すことしかできないのであった。

別にシゲルの料理が、とびぬけて美味しいというわけではありません。

フィロメナがおいしく感じているのは、ちょうど味付けが好みに合ったからです。

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