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精霊育成師の世界旅行 作者:早秋

第4章 風の都

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(17)引き出し捜査

 エアリアルが言うところの「作業部屋」は、二十畳くらいの広さになっている。
 部屋に入るなりすぐに大精霊と対面することになったシゲルは、何があるかはほとんど見ていなかった。
 そこで、改めて部屋の中を見回してみれば、様々なものが置かれていることが確認できる。
 ほとんどが魔道具だということが分かるが、埃らしきものがないことで、きちんとこの部屋の中が管理されているというとはすぐに分かった。
 フィロメナたちは、それらの魔道具がどんなものなのかを確認していた。
 そして、シゲルは部屋の片隅に置かれている机に近付いて行った。
 もし本当にこの部屋がタケルの作業部屋であるならば、日本語で書かれたものがあるかも知れないと考えたためだ。
 そうしたものが見つかったとしても、読めるのはシゲルしかいないので、適材適所ということである。

 机の上には何も置かれていなかったので、シゲルは脇に置かれていたワゴン(のようなもの)の一番上の引き出しに手を伸ばした。
「うわっ。これはすごいや」
「どうしたんだ?」
 中に入っている物を見て思わず声を上げてしまったシゲルに、フィロメナがそう言いながら近付いてきた。
 勿論、フィロメナだけではなく、ミカエラやマリーナも注目している。

 フィロメナは、シゲルが手に取って見ている紙を覗き込んだ。
「全く読めないが……字面はあの日記に似ているな」
「うん。まあ、同じ人が書いているからね」
 シゲルは、既にその書面はタケルが書いたものだと考えていた。
 書かれている文字が日本語だからというだけではなく、文字の癖などもそっくりなのだ。

 勿論、シゲルが驚いたのは、引き出しの中に入っている書類(?)の数々が、日本語で書かれていたからではない。
「それよりも、ここにある書類のほとんどは、魔道具に関するものみたいだね」
「なにっ!?」
 シゲルの言葉に、フィロメナが当然のように食いついて来た。
 例の日記から、タケルが魔道具を作っていたことはわかっている。
 その本人が書いたという書類が実際に残っていたとなれば、フィロメナから見ればお宝とほとんど変わらない。

 フィロメナが慌てて、それでいながら乱暴に扱わないようにそっと他の書類を取り出した。
 だが、残念ながらすべてが日本語で書かれているため、フィロメナには読むことが出来なかった。
「うむ……。真剣にシゲルからこの文字を学ぶべきか……」
 真剣な表情になって考え込むフィロメナを見ながら、シゲルは苦笑した。
 日記の翻訳作業をしているときに、一度フィロメナたちは日本語を学ぼうとしたことがあったのだが、途中で断念したという経緯がある。
 それでも諦めきれないのは、やはり過去の魔道具職人(?)の遺した書面を、他人が翻訳するまで待ちきれないといったところだろう。

 残念そうな顔で引き出しの中に入っている紙をめくっていくフィロメナだったが、別に完全に読むのを諦めたわけではない。
 中には、文字だけではなく図で説明をしているものもあるので、そこから何とか意図を読み取ろうと頑張ったりしていた。
 それを見ていたシゲルは、苦笑しながらフィロメナに言った。
「魔道具に関するものと、そうじゃないものが混じっているみたいだから、一度きちんと整理して分けてみるね」
「そうか。それは助かる」
 フィロメナからそう返答が来たが、すでに書面に集中しているようで、ほとんど上の空の状態だった。
 シゲルも、フィロメナがそういう状態になることは何度も見ているので、それ以上は特になにも言わなかった。

 
 ワゴンの一番目の引き出しに入っている書面は、メモ書き程度のものが多く入っていたようで、ほとんどがバラバラの紙に書かれていた。
 そうしたものをまとめたシゲルは、続いて二段目の引き出しを開けてみた。
 すると今度は、ファイル(のようなもの)にまとめられている書面が入っていた。
「うーん。こっちは魔道具関連だけじゃなく、魔法関連とか……かな?」
 そのシゲルの呟きに、今度はミカエラとマリーナが反応した。

 先ほどのフィロメナと同じように、ミカエラとマリーナはシゲルの手元を覗き込んできた。
「うわっ、ちょっと待って」
 フィロメナの場合は一人だったので少し横にずれれば何とか接触を避けることが出来たので驚かずに済んだが、今度は両側から覗きこまれたので、思わずのけぞってしまった。
 それでも何とかファイルを落とさずに済んだのは、貴重な書類だということが頭の片隅に残っていたためだ。
「なによー、美女二人に近付かれているんだから、少しは喜びなさいよ」
 自分で美女と言ってしまうミカエラはどうかと思ったが、事実は事実なので反論しづらい。
 そもそもミカエラは、そんな言葉を言うようなタイプではなく、シゲルをからかうために言っていることは明白だった。

 自ら地雷を踏むつもりがないシゲルは、ミカエラの言葉をスルーして、ファイルをパラパラとめくり始めた。
「うん。やっぱりそうみたいだ。……でも、魔道具と違って、こっちは図解みたいなものはないよ?」
「それは残念ね」
 シゲルの説明に、マリーナが小さくため息をついた。
 文字だけになると、とてもではないが内容を理解するのは不可能だ。
 それでも何かないかと、ミカエラとマリーナは、シゲルが分類し終えた二段目の引き出しに入っていたファイルを確認し始めるのであった。

 
 そしてワゴン最後の引き出しである三段目には、小さめの道具類が入っていた。
「あー、これは魔道具の現物……? いや、どっちかというと道具類かな?」
 シゲルには使用用途が分からないものばかりだったが、中にははさみのような物が入っていたのでそう判断した。
 これには、フィロメナたち全員が反応した。
「何だと!?」
「随分な貴重品じゃないの!」
「待ってね、シゲル。もっと慎重に扱って」
 結構乱雑に積み上げられていたので、少し雑に扱ってしまっていたが、ミカエラとマリーナの言葉にシゲルは慌てて慎重に扱うようにした。
 言われてみて初めて気付いたシゲルだったが、確かに魔道具作りの最盛期を迎えていた文明が使っていた道具は、貴重品だと考えてもおかしくはない。
 特に、魔道具を作っている者からすれば、お宝以外の何物でもないだろう。

 マリーナが慌てて用意したシートの上に、シゲルは一つ一つ道具類を出していった。
 ちなみに、この作業を他の三人がしていないのは、書類や道具が入っているワゴンに触れないからである。
 最初にそのことに気付いたフィロメナが、恐らく風の大精霊がそうしているのだろうと推論を言い、ミカエラがその通りだと結論付けていた。
 実際はどうなのかは不明だが、少なくとも三人が触れないのは確かである。
 そのため、シゲルがえっちらおっちらと、ワゴンの中から道具類をすべて出す必要があったのである。

 
 ワゴン自体はさほど大きなものではなかったので、道具の運び出し作業はすぐに終わった。
 それよりも、空になった三段目の引き出しを見たシゲルは、一つ気になることがあった。
「……なんだこれ? 上げ底になっているのかな?」
 外側から見た引き出しの大きさと中を見たときに差を感じたシゲルは、底を触ってみた。
 だが、やはりそれだけでは、上げ底になっているかは分からなかった。

 シゲルの呟きに興味を示したのか、道具類を確認していたミカエラが近付いてきて引き出しを覗き込んだ。
「魔法がかかっているようには見えないけれど……大精霊の魔法と混じっていて分からなくなっている可能性もあるわね」
「うーん、そうなると自分にはお手上げになってしまうんだけれど……」
 これまでの間に、だいぶ魔法の腕を上げているシゲルといえども、大精霊がかけたと思われる魔法には手が出せない。
 というよりも、シゲルだけではなく、ミカエラもそれは同じだった。
「だとしたらおかしいわよね。最初から無理なものを、あんな言い方でヒントを出すかな?」
 先ほどの風の大精霊との会話を思い出しながらミカエラがそう聞いて来た。

 最初から無理だとわかっている場所にヒントがあるのなら、わざわざあの場で言い出したりするはずがない。
 苦労することを見越して、揶揄うために敢えてそういう言い方をしたとも考えられなくはないが、少なくともミカエラは風の大精霊はそんなことはしていないと確信していた。
 それは、これまでのシゲルに対する大精霊たちの態度からの判断である。

 何度か引き出しの底を触っていたシゲルは、もしかしてとふとあることを思い出した。
 そして、一番下の引き出しを止まるところまで出したシゲルは、それを少しだけ持ち上げてみた。
「あっ、やっぱりか。これをこうして……」
 引き出しがスッと軽く上がるのを感じたシゲルは、その状態のまま再び引っ張り出した。
 すると、今度は何の抵抗もなく引き出しが出て来た。
 最終的には、引き出し全部がワゴンから離れることになった。
 それは、日本のワゴンでもよく作られていた仕掛けだった。
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