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精霊育成師の世界旅行 作者:早秋

第4章 風の都

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(15)風の都の調査

 風の都は、単純に見学(観光)するだけなら一日もあれば十分に見回れる程度の広さしかない。
 ただし、より詳しく調査をするとなれば、いくら時間があっても足りなくなるくらいの広さでもある。
 それゆえに、未だに護衛を伴った研究者が、限りある時間を使って研究を進めているのだ。

 シゲルたちは、最初の一日を観光気分での見回りにとどめることにした。
 理由は単純で、この場所に初めて来るシゲルの為に、いろいろと説明をしつつ案内したほうがいいと考えたためである。
 前情報なしに調査をすれば、新しい発見もあるかも知れないが、むしろ知っていて当然のことを話しておかないと、余計な手間がかかると判断したのだ。
 そのことは、遺跡に入る前から決めてあったので、現在シゲルたちは風の都をのんびりと歩き回っているのであった。

 
「これほどの山の上にたくさんの建物を作る技術力は凄いと思うけれど、これといって目立ったものもないね」
 午前中の見学を終えたシゲルは、昼食を口にしながらそう感想を漏らした。
「そうね。前史文明の遺跡としては、場所を除けば、ごくごく一般的なものしかないわ。でも、だからこそ、研究者たちはこぞってここに来るのだけれど」
 マリーナの説明に、シゲルはなるほどと頷いた。
 ごくごくありふれた遺跡だからこそ、当時の生活様式や技術力を探るためには、非常に重要な場所ともいえるのだ。

 ただし、研究者の目的には納得できたが、それゆえにシゲルたちにとっても問題となることもある。
「これだけ調査する人が入って研究が進んでいるんだったら、新しい発見をするのもなかなか骨が折れそうだね」
「そうだな。まあ、それも十分わかっていたことだ」
 シゲルに同意しつつ、フィロメナは苦笑をしながらそう答えた。
 実際、この遺跡に来る研究者は、新たな発見をするというよりも、古代遺跡の一般的な特徴を確認しに来る場合が多い。
 そういう意味では、いまのシゲルたちは珍しい存在だと言えるだろう。

 簡単に昼食を済ませて少し休憩を入れたあとは、再び遺跡の見学を続けた。
 見学といっても大きな通りをさらりと見回るだけなので、残念ながらシゲルがいても新しい発見はなかった。
 それでも、フィロメナたちの説明で、ある程度前史文明とされている遺跡のことについては理解できた。
 そして、その次の日からは、本格的にそれぞれが遺跡の調査を行い始めたのである。

 
 シゲルたちが風の都に入って調査を開始してから三日目。
 シゲルは、ある場所で立ち止まっていた。
「うーん。これって、どう見てもアレだと思うんだけれどなあ?」
 そう呟いているシゲルの目の前には、これまでさんざん見て来たあるもの(・・・・)が建っていた。
 見覚えのあるその建物は、いかにも何かありますと言っているようにしかシゲルには見えなかった。

 少しの間その場で悩んでいたシゲルだったが、一人で調査をするのは止めて、フィロメナたちを呼ぶことにした。
 いつぞやの時のように、何かを見つけるだけならいいが、勝手に巻き込まれるような事態になっては大変だと考えたのだ。

 そして、シゲルによって集められたフィロメナたちは、一様に感心した顔になっていた。
「シゲル、良く見つけたな」
「本当よ。これ、どう見ても認識疎外がかかっているわ」
 フィロメナに続いて、マリーナがそう言うと、シゲルは驚いたような顔になった。
「えっ!?」
「別に視界に映らないとかじゃないけれどね。そこにあるとわかっていても、意識の外に追い出されてしまうような仕掛けだわ」
 ミカエラが続けてそう言うと、シゲルは改めてまじまじと目の前にあるを見た。
 シゲルの目には、ぼろぼろになった建物が映っていて、そんな魔法がかかっているようには見えなかった。

 庵を見ながら首をひねっているシゲルに、フィロメナが苦笑しながら続けた。
「まあ、認識疎外といってもさほど強いものではないがな。たとえこの庵を見つけたとしても、研究者であれば、普通に通り過ごしていただろうな。まあ、そういう効果も含んでいるのだが」
 目の前にある庵にかけられている認識疎外の魔法は、単に見つけづらくするだけではなく、一度意識に上ったとしても、すぐに思考の外に出してしまうようなものもかけられている。
 要するに、シゲルのように、元から庵を特別なものではないかと認識していない限りは、すぐに忘れてしまうようになっているのだ。
 そういう意味では、たまたま最初に見つけたのがシゲルだったというだけで、フィロメナたちが先に見つけていれば、同じように気付けただろう。

 フィロメナたちの説明を聞いたうえで、改めて庵を見たシゲルは、確かに認識疎外の魔法がかかっていることがわかった。
 馬車での移動の最中に、フィロメナたちからいろいろと教わっているので、成長しているのだ。
「……なるほど。確かにある、かな?」
 微妙に疑問形になっているところは、ご愛敬である。
 まったく気付けないよりは、遥かにましだ。

 
 そんなシゲルに笑いつつ、フィロメナたちは庵の調査を開始した。
 これほどまでにあからさまに隠されている庵に、何もないとは考えていない。
 そして、その予想通り、調査を開始してから一時間も経たずに、崩れかかっている庵の中で、あるものを見つけた。

 見つけたのは、ある意味当然と言うべきか、シゲルの護衛をしていたリグだった。
「シゲル、これこれ」
「ん? 何か見つけたの?」
 シゲルの腕をつつきながらある方向を指したリグに、シゲルはそう聞き返した。
「見つけたというか、中々フィロメナたちも見つけられないみたいだから、そろそろ教えようかと……」
 なんとリグは、庵に入ってすぐにそれを見つけていたのだが、シゲルたちの邪魔をしないように黙っていたのだ。
 だが、流石に時間がかかりすぎだと判断して、教えることにしたのだ。

 リグが指しているものをそっと指先で確認したシゲルは、確かにそこに五センチ大で区切られたプレートのようなものがあるのが分かった。
 そして、それを見ていたフィロメナたちは、少しだけ愕然とした表情になっていた。
「以前の庵でわかっていたはずなのに、なぜ見つけられないのか……」
 今にも膝を突きそうなフィロメナに、ミカエラが苦笑しながら応じた。
「私たちにとっては馴染みのないモノだからねえ。見逃してしまうのは、仕方ない……と言えないところがつらいところよね」
 リグがいなければ、ずっと見つけられなかっただろうという確信が、フィロメナたちの中にはあった。
 単純な仕掛けといえるのだが、それを見つけられないというのは、遺跡を調査するプロを自任している者としては、へこんでしまうのはさすがに仕方ないだろう。

 こうなることが分かっていたので、リグもしばらく黙っていたのだが、いつまでもシゲルに秘密にしておくということもできなかった。
 というわけで、ある程度の時間を見てから報告をしたというわけだ。
「あ~、リグ。教えてくれたこと自体はあり難いんだから、そんな顔をする必要はないから」
 慎み深いラグに対して、元気印のリグという印象を受けているシゲルだが、だからといってそういった気遣いが出来ないとは考えていない。
 今もフィロメナたちを見ながら気まずそうな顔をしているのだから、それは一目瞭然だ。

 シゲルとの付き合いが長いからなのか、精霊たちは人の思いに敏感なところがあったりする。
 普通であれば、人の機微など全く気にしないというのが精霊に対する常識なのだが、リグたちを見ていればそんなものは精霊たちのごく一面でしかないことがよくわかる。
 フィロメナたちもこれまでの付き合いで、それはよく理解していた。
「そういうことだ。むしろ見つけてくれて助かった」
「そうよ。そんなことでいちいち気にする必要はないわ。時間を無駄にするよりも、遥かにましだからね」
 フィロメナに続いて、ミカエラがそう言うと、リグはその顔にパッと笑顔を浮かべた。

 それを見て、シゲルは内心でホッとしながらフィロメナたちを見た。
「それじゃあ、そろそろ触れてみるけれど、準備はいいかな?」
 今までの経験上、プレートの触れれば何かが起こるという予想は出来る。
 これで何も起きなければ恥ずかしい思いをすることになるが、リグの様子を見る限りではそれはないとシゲルは確信していた。
 もっとも、何も起こらなかったとしても、フィロメナたちがシゲルを責めるようなことはしないだろうが。

 
 フィロメナたちが頷くのを確認したシゲルは、そっとプレートに触れてみた。
 すると、他の場所でも見たのと同じように、庵の中央に地下へと向かう梯子が姿を現したのであった。
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