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精霊育成師の世界旅行 作者:早秋

第3章 水の大精霊

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(19)日記の内容

 日記の始まりは、元の持ち主であるアビーが、この世界に移動してから数カ月後から始まっていた。
 最初は、アビーがどんな状況でこの世界に来て、そして定住していったのかが箇条書きで書かれていた。
 アビーが世界を転移して来た状況は、シゲルとほとんど変わらず、気付いたら彷徨いこんでいたようだ。
 そこから、どうにか日銭を稼ぎつつ生活をして行き、転機が訪れたのは、当時あった宗教の聖職者と神殿についての話をしたときだったらしい。
 元の世界で建築士だったアビーは、各地にある教会や神殿の造りもある程度知っていた。
 そのため、話の流れでちょっとした設計図的なものを書いて見せたらしい。
 それが話し相手に驚かれて、トントン拍子に新しい神殿を造ることに繋がった。
 そして、それが認められたアビーは、以降この世界でも建築士として活躍していくことになる。

 順風満帆かに見えたアビーの異世界生活は、それから数年で終わりを迎えることになる。
 その才能に目を付けた貴族が、アビーを独占しようとしたことをきっかけに、国を巻き込む大騒動に発展した。
 それを嫌ったアビーは、信頼のできる数人の仲間と共に、逃亡生活を送ることになった。
 そして、ようやく落ち着く先として見つけられたのが、水の精霊と協力して造ったこの水の町というわけだ。

 最初は自分と仲間の分の建物しかなかった水の町だが、次々に移住者を受け入れて行った結果、町と呼べるような規模になっていた。
 その頃になると、当然のように権力者に目を付けられることになるが、いかんせん水の中にある町なので、容易に手を出す事ができない。
 基本的に町の産業とよべるものは、湖底で採れるものだったので、生活に困るようなことはなかった。
 幸いなことに、転移という手段がこの世界にはあったので、通商を破壊するということが出来なかったのだ。
 その結果、水の町は周辺では並ぶものがないくらいの発展を遂げることとなった。

 町の発展の終盤のころになって、同じ世界からの転移者であるタケルとも出会えた。
 世界を旅していたタケルは、水の町の噂を聞いて、物見遊山で街の見学に来たのだ。
 そこで、例の『白い家』を見つけたタケルが、もしかしてと思ってアビーを尋ねたのである。
 アビーが敢えて自分の住む屋敷をそれにしていたのは、こうした効果を狙ってのことだったが、それが見事に当たったというわけだ。

 タケルと出会ったときには既に町長も引退していたアビーは、のんびりと余生を過ごしていた。
 そのため、時間に縛られることなく、タケルと一緒の時を過ごした。
 ちなみに、二人が恋仲にあったということではない。
 それでもやはり、元の世界という共通の話題があるために、話ははずんだ。
 特にアビーは、長い間こちらの世界で過ごしていたために、元の世界の記憶を思い出すこともなくなっていた。
 そんな状況でタケルとであったので、長い間封印していた思いがあふれ出ることになったのだ。

 子供を作ることが無かったアビーは、その財産のすべてをタケルに譲ることになった。
 その財産をチェックしていたタケルは、アビーの亡くなったあとで、この日記を見つけることになる。
 そして、彼女の想いが理解できたタケルは、いつか来るかもしれない日本人のために、日記を翻訳する作業を始めたのである。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 大雑把ではあるが、一通り日記に目を通し終えたシゲルは、大きくため息をついた。
「どうやら読み終わったようだな」
 ずっと集中して日記を読んでいたシゲルに、フィロメナが興味深そうな視線を向けてそう言ってきた。
 日記の文字が読めなかったフィロメナは、書斎にある色々な本に目を通していた。
 そちらは古代語で書かれていたので、なんとかフィロメナでも理解することが出来ていたのだ。

 久しぶりに日本語の文字を大量に(?)目にしたシゲルは、少しの間、妙な心地よさに身をゆだねていた。
 そして、落ち着きを取り戻してからシゲルは、ようやくフィロメナの言葉に反応した。
「まだまだ完全には読んでいないけれどね。でも、この町の成り立ちはわかったよ」
 あっさりとそう言ったシゲルに、フィロメナは顔色を変えた。
「何っ!? それは大事ではないか!」
「あ~、うん。そうかもね」
 正直、今のシゲルにとっては、水の町の事よりもアビーの生き方に意識が向いていた。
 予想はしていたが、やはり元の世界に戻れそうな情報はまったく書かれていなかったのだ。
 ある意味、この日記のお陰で、最後のあがきも断ち切られたといってもいいだろう。

 そんなシゲルの様子を見て、何か思うところがあったのか、フィロメナはそれ以上を聞いてくることはなかった。
「とにかく、そろそろいい時間になる。ここでの調査は一旦終えて、拠点に戻ることにしよう」
「ああ、もうそんな時間になっていたのか」
 窓から外を見れば、まだ日は高いが、すぐに日が沈んでしまうような時間になっていた。
 すでにこちらでの生活習慣が身に付いているシゲルとしても、日が暮れてからの夕食は避けたいと思うようになっていた。

 
 少し急ぎ目で拠点に戻ったシゲルとフィロメナだったが、そのときには既に、マリーナの手によって火が起こされていた。
「ああ、やはり少し遅くなったか。すまないな」
「いいのよ。その顔を見る限りは、良い物でも見つけたのよね?」
 確信した様子でそう聞いて来たマリーナに、フィロメナはコクリと頷いた。
「見つけたのは私ではなく、シゲルだがな。まあ、それは後でゆっくり聞けばいいだろう。今は夕食の準備だ」
 そう言いながら自分を見てくるフィロメナに、シゲルは苦笑しながら頷いた。

 そして、やはり夕食の話題の中心は、シゲルが見つけた日記の話になった。
「――というわけで、この町を興したのは、自分と同じ世界から来た別の国の人みたいだね」
「なんとまあ」
 シゲルの話に、フィロメナが感嘆するような声を上げて、さらに続けた。
「予想は出来ていたが、やはり渡り人の影響があったか」
「そうね」
 フィロメナの言葉に、マリーナが同意するように頷いた。

「やっぱりこの遺跡自体が、突出して異質に見えるからね。渡り人の影響があったと言われた方が、納得できるわね」
 ミカエラがそう感想を漏らすと、シゲルは首を左右に振った。
「ところがそうでもないみたいだよ?」
「どういうことよ?」
「日記の持ち主――アビーっていうんだけれど、彼女がしたのは、あくまでも設計だけ。建物を造る素材やら魔法は、元からこの世界にあった物を使ったみたいだね。勿論、応用とかはしているみたいだけれど」
 シゲルの説明に、他の三人は深く唸った。
 その説明が正しければ、いきなりこのような遺跡が、渡り人という特異な存在によって湧いて出たわけではなく、元からその兆しはあったといえる。
 アビーは、それを加速しただけだとも考えられるだろう。

 それに、まだ説明はしていなかったが、少なくともアビーが関わっていたのは、この水の町だけだ。
 既に魔の森で見つけているあの遺跡には、立ち寄った形跡すらない。
 となれば、他の誰かがあの町を作ったということになり、アビー一人の功績で納めてしまうのは、無理がある。
 さらにいえば、日記でもたびたび登場してくる魔道具の数々は、当然ながらアビーが作り出した物ではない。
 それよりも、日記内で他の渡り人の存在を示唆していることのほうが、シゲルにとっては重要だった。

 シゲルのその話を聞いた三人は、唸るような声を上げた。
「予想は出来ていたが……」
「ええ。その日記が本物がどうかは置いておくとして、それが本当だとすれば、どれくらい前から渡り人が来ていたのかというのも問題ね」
 フィロメナの言葉を引き継ぐように、マリーナが真剣な顔になって頷いた。
 この世界に渡り人が来ていたという記録はあるが、どれほど昔から来ていたのかということを示す証拠になるようなものは見つかっていない。
 シゲルが見つけたその日記は、それを補完するのに十分な物になりえる。

 ちなみに、マリーナは日記が本物かどうかを疑うような発言をしたが、実際には作り物だとは思っていない。
 水の大精霊(マニュスディーネ)が管理しているからというのもあるが、そもそも自分たちが読めずに、シゲルだけが読める文字で書いてあるというのもその根拠となっていた。
 シゲルは拠点に両方の日記を持ってきていたが、ミカエラとマリーナのどちらも読むことが出来なかった。
 フィロメナたちは、この世界にあるすべての文字を知っているというわけではないが、それでもピンポイントにシゲルだけが知っている文字で書いてあるなんてことは、本物の渡り人でないと出来ないことである。

 
 シゲルが見つけた日記は、フィロメナたちにとっても重要なことが書かれていることが分かった。
 ただし、読むことが出来るのがシゲルだけになるので、それをこちらの言葉で書き直していくだけでもかなりの時間がかかる。
 町の調査をしている間に、写しを取ることなど出来るはずもない。
 物が物だけに、持ち出してもいいのかをマニュスディーネにきちんと確認しようと決める一同なのであった。
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