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精霊育成師の世界旅行 作者:早秋

第3章 水の大精霊

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(17)贈り物再び

 新たな名前をもらって上機嫌になったように見えるマニュスディーネは、シゲルに向かって言った。
「そうそう。新しい名前をもらったのだから、きちんとお礼はしないとね。ハイ」
 マニュスディーネは、そう言いながらシゲルに向かって、右手を差し出してきた。
 それにつられるように、シゲルは右手を出した。
 その手のひらの上に、マニュスディーネは親指くらいの大きさの半透明な雫のような形をした物を置いた。
「これは?」
「私たちは特に名前を付けたりはしていないけれど、人からは『精霊の雫』と呼ばれている物よ」
 マニュスディーネがそう答えると、傍で話を聞いていたミカエラが驚いたように大きく息を吸い込んだのが分かった。

 シゲルでさえ気付いたその反応に、マニュスディーネがニコリと笑いつつさらに続けた。
「詳しくはそっちのに聞いた方がいいと思うわ。それだったら、シゲルにとっても十分に役に立つと思うから」
「別に、名前を付けるくらいは何でもないのですが……」
「それは貴方が渡り人だからこそ思えることよ。まあ今は、それくらい私たちにとっては、名前を付けられることは大事なことだと思ってくれていればいいと思うわ」
 相変わらず微笑んだままそう言ったマニュスディーネに、シゲルはハアと頷くことしかできなかった。
 シゲルは、名づけが大事だということが頭の中ではわかっていても、実感としては湧いていないのだ。
 魔法という存在を、現実のものとして認識して来なかった者だからこその感覚でもある。

 いまいちよくわからないという顔をしているシゲルをそのままに、マニュスディーネはフィロメナたちを見回しながら言った。
「とにかく、ルールさえ守ってくれれば、あとは好きにしてくれていいわ。私から伝えることはそれだけよ」
 そして、マニュスディーネは、そう言って右手を振りながらその場から消えた。
 それを見送るようにしていたフィロメナたちは、その場で大きくため息をついた。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 マニュスディーネが去ってからしばらく経ったときのこと。
 ようやく現実に戻って来たらしいミカエラが、シゲルに詰め寄った。
「せ……」
「せ?」
「精霊の雫!」
「うわっ!?」
 これ以上ないほどに近付いて来たミカエラに、シゲルは思わずのけぞってしまった。

 そんなシゲルには気付いていないかのように、ミカエラは興奮したようすでさらに続ける。
「見せて! 私にも、精霊の雫触らせて! 頂戴なんて怖いことは言わないから!」
「怖い?」
 意味が分からずに首を傾げるシゲルに、マリーナが補足するように言ってきた。
「それは、水の大精霊様が、シゲルに譲られた物だからね。勝手に奪い取ったりすれば、下手をすれば大精霊からの怒りを受けたりすることもあるのよ」
「ああ、それは確かに怖いねえ」
 マニュスディーネが怒りの表情を浮かべるところを想像したシゲルは、思わずその場で身震いしてしまった。
 美人が怒っているところを想像するだけで、勘弁してほしいと思うのは、シゲルだけではないだろう。
 もっとも、ミカエラは、シゲルとは違った意味で恐れているのだが。

 それはともかくとして、別に精霊の雫を見せるくらいは構わないと考えたシゲルは、気楽にミカエラにそれを渡そうとした……のだが、
「キャッ!?」
「うわっ!?」
 精霊の雫がミカエラの手のひらに触れるか触れないかのところで、いきなりミカエラが驚きの声を上げて手をひっこめた。
 シゲルは、床に精霊の雫を落としそうになって、思わず声を上げてしまった。

 精霊の雫を受け取ろうとした右手をプラプラとさせているミカエラに、フィロメナが首を傾げながら聞いた。
「もしかしなくても、持ち主指定がされている感じか?」
「そうみたいね」
 フィロメナの疑問に、ミカエラはため息をつきながら答えた。
 どうやらマニュスディーネが渡してきた精霊の雫は、シゲルが別の人に譲ろうと思っても出来ないようになっているようであった。
 一時的に貸すこともできないようなので、かなり強い制限がかかっていると思われる。

 すぐにそのことが分かったミカエラは、残念そうな顔をしつつシゲルを見た。
「仕方ないわ。触れるのは諦めるから、見せるだけ見せて」
 触れることは出来なくても、シゲルが持っていれば、横から眺めることは出来る。
 精霊の雫を間近に見る機会などそうそう恵まれることが無いとわかっているミカエラは、それだけでも十分満足できるのであった。

 そして、ミカエラから様々な注文を受けつつ、いろいろな角度から精霊の雫を見せるはめになったシゲルは、疲れたかのように肩を落とした。
「ハア……ここまでとは」
「ご苦労様だな。シゲル」
 苦笑しながらそう言ってきたフィロメナに、シゲルは力なく返事をした。
 ちなみに、シゲルをこんな状態にした当の本人(ミカエラ)は、機嫌よさそうに両手を頬に当てながら、精霊の雫を見ることができた感慨に浸っている。
 シゲルの状態は、ミカエラの目には映っていない。

「ところでだな、シゲル」
 唐突に話を変えるようにそう言ってきたフィロメナの顔を見て、シゲルは嫌な予感に襲われた。
「え、えーと、何かな?」
「うむ。――私にもそれを見せてほしいのだが……」
 それ、と言いながら精霊の雫を指してきたフィロメナに、シゲルは頬を引き攣らせることしかできなかった。
 ついでに言えば、視界の隅っこで、マリーナが期待するような視線を向けてくることにもシゲルは気がついていた。

 結局、フィロメナとマリーナのお願いを断ることなど出来るはずもなく、シゲルはその後も精霊の雫鑑賞会に付き合うこととなった。
 その様は、女性が宝石を選んでいるときのようで、シゲルにとってはとてもとても疲れるひと時となったのである。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 疲れ果てているシゲルとは対照的に、満足気な表情を浮かべているフィロメナたちは、今夜の宿を探すべく遺跡の中を元気よく歩いていた。
「それにしてもこの町は素晴らしいな」
 周囲を見回しながら感嘆のため息つくように言ったフィロメナに、ミカエラとマリーナは同意するように頷いた。
「本当に。こんな光景、実際に見ることが出来るなんて、思ってもいなかったわ」
「そうよね。これだけでもシゲルには感謝しなくちゃね」
 そう思うんだったらもう少し遠慮してほしかったと傍で話を聞いていたシゲルは思ったが、勿論それを口にすることはしない。
 それを口にしたが最後、三者から撃を喰らうことになるのは、想像しなくてもわかる。
 シゲルは、自らあるとわかっている地雷に突っ込む趣味は持っていない。

 そんなフィロメナたちの会話を聞き流しながら、シゲルは精霊の雫を『精霊の宿屋』へと取り込んでいた。
 危ないと思いつつ歩きながら作業していたのは、また見せてと要求されたらたまらないと考えたからである。
「――あ、やっぱりか」
 精霊の雫を取り込んだ『精霊の宿屋』の画面を見ていたシゲルは、予想通りの結果に思わずそう声を上げていた。
 以前、精霊樹の枝を取り込んだときと同じように、メッセージが出て来たのだ。

 ただし、現在の『精霊の宿屋』には、精霊の雫が使える場所は無いようで、その旨も書かれていた。
 旅の間に箱庭を広げることは出来ていたのだが、水場になりそうなところは用意していない。
 精霊の雫は、大きめの池程度の広さの水場が必要なのだ。
 幸いにして、あとから精霊の雫を取り込むことは可能なようで、精霊力が貯まり次第水場を用意することにした。

 興味津々な様子で見て来たフィロメナたちに、シゲルは精霊の雫を取り込んだ『精霊の宿屋』について話をした。
「ふーん。やっぱりというか、大精霊たちは、シゲルが持っている『精霊の宿屋』のことをきちんとわかっていて、物を渡しているみたいね?」
「そうだろうか? どちらかといえば、精霊が使える物がすべて役に立つと考えるべきではないか?」
 ミカエルの意見に疑問を挟む形で、フィロメナがそう意見をしてきた。
 どちらもありそうなことだけに、この場で結論を出すことはできそうにない。

 ただし、シゲルとしては、どちらも正しいのではと考えていた。
 二柱の大精霊たちが、『精霊の宿屋』(シゲル?)にとって役に立つ物を渡してきていることは間違いがない。
 もしお礼というのであれば、価値が見合うかどうかはともかくとして、精霊石を渡してきたっていいはずだ。
 そうではなく、きっちりと使える(・・・)ものを渡してきているのは、『精霊の宿屋』のことをわかった上で選んでいるとしか思えない。
 といっても、精霊が使える物で、『精霊の宿屋』では役に立たない物があるかどうかまではシゲルは知らないので、それが間違いかどうかまでは判断が出来ないのだが。

 とにかく、どちらの大精霊もシゲルにとって役に立つ物をくれているのは間違いない。
 それはただの偶然ではないと、シゲルはこれまでの会話からもそう考えているのであった。
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