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(7)精霊との戯れ

 マリーナがポーションを持って神殿へ戻ったあとは、シゲルは宿屋の部屋で大人しくしていた。

 ただし、大人しくするといっても、今のシゲルにはやることはいくらでもある。

 『精霊の宿屋』は、まだまだわかっていないことも多いため、見れば見るほどいろいろなことが分かって来るのだ。

 残念なことに、新しいことを発見するたびにやりたいことが出来て来るのだが、それをするだけの余裕がない。

 それに、この先はずっと旅が続くので、ずっと『精霊の宿屋』に触りっぱなしというわけにもいかない。

 

 というわけで、シゲルはこの機会を利用して、精霊たちとたっぷり戯れることにした。

 丁度いいタイミングで探索に出していたシロとスイが帰って来たという事もある。

 箱庭管理しかできないサクラは触れることが出来ないのが寂しいが、『精霊の宿屋』を通してかまってあげることは出来るようにはなっている。

 いつかは外にも出れるようになればいいなと思いつつ、シゲルはまずサクラから触れ合った。

 

 サクラとの触れ合いが終わったあとは、残りの四体――ラグ、リグ、シロ、スイの番だ。

 彼女(彼?)らは自由に外の世界に出てくることが出来るので、シゲルも好きなように触れることが出来る。

 見ようによっては、フィギアを愛でているような図にしか見えないところが難点だが、そこは普段はそう見えないように配慮している。

 もっとも、精霊たちはそんなことをまったく気にすることなく触れてくるので、時折生暖かい目をフィロメナから向けられることはあるのだが。

 

 何故だか契約精霊たちは、シゲルと触れ合うことを気に入っているようで、隙を見つけては近付いてきて体のどこかに触れようとする。

 別にシゲルも嫌と言うわけではないので、好きにさせている。

 勿論、町中など見られて不味いときにはきちんと言いつけて、精霊たちもそれを守っている。

 今となっては、どのタイミングがいいのかしっかりと分かってきているのか、シゲルが困るようなときには、不意打ちのスキンシップ(?)を取ってくるようなことはない。

 

 

 十分に精霊たちと触れ合ったシゲルは、ついでに王都に来るまでに成長した精霊をきちんと確認することにした。

 まずはランクだが、初期精霊三体組は、中級精霊のDランクになっている。

 そして、スイが下級精霊のAランク、サクラは中級精霊のDランクだ。

 ここまでの経験でのシゲルの考察だと、各種ランクでCランク以上になると上がりにくくなっているように感じる。

 つまり、スイを除いた四体は、これから成長しにくくなるだろうと予想している。


(スイは中級になれるかどうかが山だけれど……ラグたちが既に中級になっている以上、大丈夫だよな。……まさか数に制限があるとかはないよね?)

 一瞬不安がよぎったシゲルだったが、スイが笑顔になっているのを見て、まあどっちでもいいかと思い直した。

 今のスイでも十分に役に立ってくれているので、このままランクが上がらなくても特に問題はないのだ。

(特にスイは探索に長けているみたいだし)

 普段の行動もそうだが、スキル構成を見ても、スイは特化までは行かないまでも探索中心のスキルになっている。

 特に、発見のスキルが付いているのを見つけた時は、そんなものまであるのかと驚いたほどだった。

 発見のスキルは、探索時に珍しい物を発見する率がアップするというものである。

 

 『精霊の宿屋』から外には出れないサクラは別として、他の三体の精霊は、そんなスキルは付いていない。

 付いているのは、普通(?)にありそうな採取や採掘だけだった。

 ちなみに、採取に関しては、サクラもそのうちつくのではないかとシゲルは予想している。

 何故なら以前からラグが管理している畑での薬草採取を、サクラも行っているためである。

 いずれは付いてくれるだろうと期待しながら待っているのだが、今のところはまだ結果として出ていない。

 

 さらに、ラグ、リグ、シロ、スイの四体は、戦闘時に使える魔法も覚えている。

 それぞれの属性に関する魔法しか使えないが、それは精霊らしいなという感想しかシゲルは持っていない。

 むしろ、これで複数属性の魔法を使えるようになると、何のために精霊自身が属性を持っているのか分からなくなってしまう。

 もし、複数属性を扱えるようになるとすれば、精霊の属性も複数になっているはずだというのが、シゲルの予想だった。

 契約精霊たちが複数属性になるかどうかは、今のところはっきりしないのだが、まったく可能性がゼロだとは考えていない。

 

 改めて精霊たちの能力を確認したシゲルは、感心したように頷いていた。

(こうしてみると、初期精霊も随分と成長したよなあ)

 なんだかんだ言いながら、精霊たちもしっかりと成長してきている。

 それに比べて、シゲル自身はどうなのかと言われるほどだ。

 精霊たちは、既にフィロメナから主要な街道に出てくる魔物であれば、負けることはないだろうと太鼓判を押されていた。

 各国の主要な街道は、軍が定期的に魔物の排除を行っているため、よほどのことが無い限りは高ランクの魔物が出てくることはないということが前提にはあるのだが。

 

 とにかく、精霊たちが大きく成長しているのは間違いない。

 これからも、その成長は続くのだろうとシゲルは考えている。

 まあ、成長しなかったとしても、シゲルから精霊を見限るつもりは毛頭ないのだが。

 そのためにも、『精霊の宿屋』の改良を続けて、出来るだけ精霊たちにとって過ごしやすい場を用意してあげようと決意するシゲルなのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 シゲルが精霊たちの確認をしていると、フィロメナとミカエラが城から戻って来た。

「お帰り。――随分と疲れているみたいだね」

 どう見てもげんなりという表現が正しい顔をしているフィロメナとミカエラを見て、シゲルが苦笑しながらそう言った。

「ただいま。まったく。どうして貴族たちはああなのだ?」

「ただいま。あれが、習性のひとつなのよ、きっと」

 フィロメナとミカエラが、それぞれに返答の挨拶の後に、感想を述べた。

 呆れを隠せないような顔になっているが、この部屋にはシゲル以外は誰もいないので、まったく問題ない。

 もっとも、フィロメナもミカエラも、誰かがいたとしても気にすることなく、同じことを言っただろう。

 

「それはともかく、シゲルは変わったことはなかったか?」

 貴族たちのことなどさっさと忘れたいフィロメナは、部屋にいたはずのシゲルに向かってそう聞いた。

 勿論、何もなかったことを期待して聞いているのだ。

「あ~、ゴメン。実は、ちょっとしたトラブルが……」

 一瞬誤魔化すことも考えたシゲルだったが、あとのことを考えて素直に話すことにした。

 マリーナが黙ったままでいるとは考えにくいので、それなら自分から話したほうが良いと考えたのだ。

 

 自分の返答を聞いて、フィロメナが片眉をピクリと動かすのを見て、こええと思いながらシゲルは先ほど起こったことを話した。

 シゲルの話を聞き終えると、フィロメナだけではなくミカエラも眉を吊り上げていた。

「どういうことだろうかな、シゲル?」

「そうよ。私たちは、きちんと宿の中にいるようにって、言ったわよね?」

「…………ごめんなさい」

 二人揃って腰に手を当てて詰め寄って来るのを見たシゲルは、速攻で白旗を上げた。

 

 それを見たフィロメナは、大きくため息をつきながら言った。

「まあ、話を聞く限りではマリーナが十分に説教してくれたからいいが……少し迂闊すぎるぞ?」

「仰る通りです」

 ひたすら謝るシゲルだったが、何故かそこでミカエラが意味ありげな視線をフィロメナへと向けた。

 

 その視線に嫌なものを感じたフィロメナは、若干腰が引けつつミカエラを見た。

「な、なんだ?」

「いえいえ。やっぱりフィーは、シゲルには甘々だなあと思っただけ」

「なっ!? そ、そんなことはないぞ? ……ないよな?」

 そう言いながらフィロメナから視線を向けられたシゲルは、ここで同意を求められてもと思った。

 どんな答えを返したとしても、ミカエラが揶揄ってくるのは目に見えている。

 

 両手を胸の前に上げて首を左右に振ったシゲルを見て、案の定ミカエラがクスクスと笑い出した。

「誰がどう見ても甘いと思うけれど、ね? シゲルが相手じゃなかったら、マリーナのことなんか気にせず、説教していたはずよ?」

「そんなことは、ない……はず、だ」

 視線をウロウロさせながらそう答えるフィロメナは、誰がどう見ても説得力が皆無だった。

 

 そのことが自分でもわかったのだろう、フィロメナはそれ以上の反論を諦めた。

「と、とにかく! 少なくとも王都での単独行動は禁止! わかったな!」

「良くわかったよ」

 できるだけ反省している意を示すように答えたシゲルに、フィロメナは「ならばよし!」と返すのであった。

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