(19)今後の予定
戦利品の確認を終えたあとは、自然と今後の話になった。
「それで、フィーとシゲルはこれからどうするの? どうせ、他の遺跡を捜しに行くのでしょう?」
どうするのかと聞いておきながら、すぐに遺跡探しに行くと決めつけてきたミカエラに、シゲルとフィロメナは同時に顔を見合わせた。
「どういう意味だ?」
「ああ、ごめん。言い方が悪かったわね。二人は、一緒に探しに行くのかってこと。……まあ、フィーの様子を見る限りでは聞くまでもないと思うけれど、ね」
そう言いながら意味ありげな視線を向けてくるミカエラに、フィロメナはさっと顔を赤くした。
そういう反応が、揶揄われる原因になっているのだが、わかっていても止められないようだ。
下手に言葉にすると、ますます突っ込まれるので、フィロメナはそのまま黙ってしまった。
フィロメナの答えを聞くまでもなく、今後の予定が決まってしまったシゲルは、代わりに頷きながらミカエラに答えた。
「まあ、そうなるだろうね。遺跡を見る以外にも、目的ができたし」
メリヤージュが遺跡を管理していたことと、彼女が話していた内容を合わせれば、他の遺跡も大精霊かそれに近い存在が管理している可能性はある。
そう考えれば、『精霊の宿屋』のためにも、遺跡探しはとても重要だろうというのが、シゲルの答えだった。
「やっぱり、そうなるわよね。それで、マリーナはどうする?」
当然自分に話が回ってくるだろうと予想していたマリーナは、驚くことなく答えた。
「私も付いて行くわよ。……二人のお邪魔にならなければ、だけれどね」
「じゃ、邪魔になど思うはずがないだろう!」
「……だ、そうです」
相変わらず墓穴を掘っているフィロメナに追随するように、シゲルが肩を竦めながらミカエラとマリーナを見た。
シゲルとフィロメナの反応に、ミカエラはクスリと笑った。
「そう。それなら私も一緒に行こうかな? それよりも、私はともかく、マリーナは本当に大丈夫なの?」
マリーナは、魔王討伐の旅を終えた後、教会に所属をしながらいろいろな活動をしていた。
その活動に支障はないのかと、ミカエラは心配したのだ。
だが、そんなミカエラの心配をよそに、マリーナは平然と答えた。
「いいのよ。どうせ教会の活動といっても、私が入って箔をつけるためのものですからね。それくらいなら、遺跡探索していたほうがはるかに楽しいわよ」
マリーナの言い分に、他の皆が渋い顔になった。
権威付けが必要なのは、国も宗教も変わらないが、あからさますぎる状況に呆れたのだ。
赤くなっていた顔から復活したフィロメナが、マリーナを心配そうな顔で見ながら聞いた。
「それならいいのだが、本当に大丈夫なのか?」
マリーナの名前を利用しているのであれば、ますます自由な行動など認めないのではとフィロメナが考えるのも当然だ。
そんなフィロメナに対して、マリーナが頷きながら答えた。
「大丈夫よ。今回は大義名分もあるから」
マリーナはそう言いながら、先ほど披露した戦利品を指し示した。
その仕草を見て、ほかの三人が納得の表情になった。
今回の遺跡でマリーナがなぜ書物を選んだのかといえば、勿論自分自身の知的好奇心もあったのだが、それ以上に教会と交渉するためだったのだ。
今後も今回のような貴重品を手に入れることが出来るかも知れないと言えば、頭の固い上の人間も説得できると考えたのである。
ただし、マリーナがその説明をするためには、魔の森で見つけた遺跡のこともある程度は話さなければならない。
それがマリーナにとっては、心苦しい点でもあった。
申し訳なさそうな顔をしているマリーナを見て、そんな思いをしっかりと見抜いたフィロメナが、笑顔を浮かべながら言った。
「遺跡のことが他にばれることは、気にするな。マリーナであれば、余計なことは話さないだろうし、何よりも、あそこまでたどり着けるとは思えない」
シゲルたちも二つの通路を越えて行かなければ、あの遺跡には着けなかった。
通路を使わずに、普通に歩いて向かった場合、間違いなく結界に阻まれて入ることが出来なかった。
もっとも、シゲルがいればすんなり通れたかもしれないが、それはまた別の話だ。
少なくともメリヤージュに気に入られなければ、結界を通ることは出来ないはずである。
そもそも、魔の森は人を迷わす森として有名で、まともに森の中を歩いて中央に着けるはずがない。
フィロメナの言葉に頷いたミカエラは、同調するように続けた。
「そうね。問題はどの程度を話すかどうかだけれど……もう決めているのでしょう?」
「勿論よ。そうね、魔の森で遺跡が見つかったことと、その遺跡が大精霊に管理されていることくらいかしら。この遺物は、大精霊の許可をもらって持ってきたことにすれば、なおいいかしらね」
聞かれる事がわかっていたのか、マリーナはスラスラとあらかじめ決めていたことを話した。
マリーナが所属しているフツ教は、精霊も神の一柱と考えられているので、不用意に大精霊がいる場所には近づかないだろうという考えもある。
欲に駆られた者が狙ってくることもあり得るが、それはまた別の問題で、マリーナには関係がない。
シゲルたちもマリーナが話したことくらいであれば、一般に話が出回っても問題がないと考えている。
それに、魔の森で新たな遺跡を見つけたこと自体は、もともと話をするつもりであった。
それでなければ、新しく手に入れた魔道具の説明が出来ないのだ。
特に乗り物(仮)は、大手を振って乗り回すつもりはないが、何かの拍子で見つかるかもしれない。
そのときの為の言い訳が必要なのだ。
もっとも、一般に話をするときは、遺跡から見つけたというだけで、それ以外の余計な情報を話すつもりはない。
そうした意識の統一が図られたところで、マリーナが思い出したかのように付け加えた。
「そういうことだから、申し訳ないけれど、遺跡を捜しに行く前に、一度は王都によらないといけないわ」
「ああ、それは当然だろうな。……できれば近付きたくなかったが」
フィロメナが王都に顔を出せば、様々な方面から面倒が近寄って来る可能性が高い。
それを蹴散らすのは問題ないのだが、いちいち対応するのが面倒なのだ。
顔をしかめているフィロメナに、マリーナが気遣わしげな視線を向けた。
「私だけが王都に報告に行って、フィーたちはここで待ってもらっていてもいいわよ?」
「いや、それは二度手間だろう。どうせ王都には寄らなければならないからな」
フィロメナの頭には、次に向かうべき場所が既に浮かんでいる。
そこまでは、王都を避けていくルートもあるにはあるが、街道の整備状況などを考えれば、素直に王都を目指したほうが良い。
首を振って答えたフィロメナに、マリーナが頷き返した。
「そう。それならいいのだけれど、ね」
「…………なんだ?」
何やら含みを持たせて言ってきたマリーナに、フィロメナが訝し気な表情を向けた。
「大したことではないからいいのよ」
「いや。そう言われると逆に気になるではないか。良いから話せ」
「そう? それなら話すけれど。素直にシゲルと一緒に王都を見て回りたいと言えばいいのになあ、と思っただけよ」
「なあっ!?」
マリーナからの口撃に、フィロメナは激しく反応した。
その反応が、ますます揶揄われる原因になるのになあ、とシゲルは考えていたが、賢明にもそれを口にすることはなかったのである。
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話の内容が女子トークに移っていったので、シゲルは逃げるようにして自室に戻った。
シゲルは、女子の会話にずっと混ざっていることが出来るようなトークスキルは持っていない。
それに、落ち着いたところで『精霊の宿屋』について考えたかったので、ちょうど良かったというのもある。
遺跡とその周辺を精霊たちに探索させた結果、多くの設置物を得ることができた。
それに伴って、箱庭の拡張条件が出てきていた。
これまた以前と同じように多くの精霊力が必要になるが、今の収入だとさほど苦労することはなさそうだった。
それでも、ある程度は精霊石を貯めなければならないので、余り好き勝手に精霊力を使えなくなってしまった。
「必要経費なんだけれど……相変わらずカツカツなのは、どうにかならないかね?」
そう呟いてみたが、手探り状態で管理をしているので、どうしようもない。
もしかしたら、ずっとこの調子で続くのかもしれないが、それはそれで振り返ってみれば楽しくもあるのだろうと思うことにした。
とりあえず、最低限に維持に使う以外は新しい物の設置もやめて、今は精霊力を貯めることに決めた。
箱庭の広さが広がれば、その分だけ精霊も多く来るようになる……はずである。
今の環境でも精霊たちは来ているので、無収入になることはない。
そう考えれば、一時的に作業を止めることくらいは、大したことではないと考えるシゲルなのであった。
現在の箱庭(『精霊の宿屋』)の広さは、一般的な学校のグラウンドの四倍程度です。
※ただし、今回の話で出ていた拡張を行った場合です。




