(17)乗り物(仮)と精霊の生態(一部)
シゲルが店(仮)で見つけた道具は、タイヤのないバイクのような乗り物だった。
タイヤの代わりに、スキーの板のような物が前後についている。
動かし方は、ほとんどバイクと一緒で、ハンドル部分を操作して前に進んだり方向転換したりすることができる。
本格的なバイクは乗ったことがないシゲルだったが、スクーターは乗ったことがあるので、ほとんど戸惑うことなく操作できた。
一番悩んだのは、どうやって動力を動かすかということだった。
それは、どうにか起動スイッチらしきものを見つけて、解決できていた。
移動手段を手に入れたシゲルは、どうしても確認したいことがあったので、町の南方向を目指していた。
残念ながらスピードメーターのような物はついていないので、速度がどれくらい出ているかはわからなかったが、間違いなく歩く速度よりは早いことはわかる。
「うーん。体感的には、時速二十キロくらいは出ているのかな?」
と、分析したものの、スクーターも多く乗ったというわけではないので、それが正しいかどうかはわからない。
とにかく、歩きよりは確実に早いことはわかっている。
さらに速度を上げることは出来そうだが、特に急いでいるというわけでもないので、そのままの早さを維持しながら道を進む。
そうして町の南端に着いたシゲルは、予想通りのものを見つけた。
「やっぱりこっちにもあったか。この分だと、西や北にもありそうかな?」
何を見つけたかといえば、この遺跡に来るための通路がある祠だ。
一応中に入って確認したが、きちんと階段も存在していた。
流石に階段の先を進むことはせず、シゲルは西や北側の確認も行った。
これで階段の先まで調査してしまえば、間違いなくフィロメナに怒られると考えたのだ。
東側通路の中は魔物が出てこなかったので、あまり心配はしなくてもいいかもしれないが、一応用心してのことだ。
とにかく、その調査を終えたシゲルは、拠点に戻ってフィロメナたちに結果を報告した。
「まさか、町の端まで移動できたのか? どうやって!?」
シゲルの報告に、東西南北に祠があるということよりも、移動手段について驚かれた。
シゲルよりも体力があって、歩く速さも早いフィロメナだからこその驚きなのかもしれないが。
フィロメナの疑問も当然だったので、シゲルはその場で乗り物(仮)を出した。
シゲルはきっちりと乗り物(仮)を収納するためのアイテム袋を確保していたのだ。
その袋は、乗り物(仮)を十分に入れることが出来る自転車用の袋のようになっていて、普段は折りたたんで持ち運ぶことができる。
まさしく、乗り物(仮)専用のアイテムボックスとなっている。
フィロメナたちは、その袋にも反応していた。
今使われているアイテムボックスは、その名前の通り、大きさの違う箱や箪笥のようなもので、せいぜいが固めのバックだった。
それが、折りたんで小さくして持ち運びできるとなると、さらに利便性が上がる。
皆が反応するのも当然だった。
折りたためることが珍しいアイテム袋はその場での説明だけで終わり、乗り物(仮)の説明をするために、シゲルたちは外に出た。
説明といっても、実際にシゲルが乗ってみせるのが一番早いのだ。
近場をくるりと回ってフィロメナたちの所に戻って来たシゲルは、なぜか三人の拍手で出迎えられた。
「――なんで拍手?」
「いや、何となく?」
そうミカエラが言うと、フィロメナやマリーナはコクリと頷いていた。
そんなやり取りのあとで、マリーナが真面目な顔になって言った。
「見た感じだと、馬よりも遅い気がするのだけれど、そういうものなのかしら?」
「いや、どうだろう? 必要がないからそこまで上げてないけれど、もっと早く動かそうと思えば出来るよ?」
これまで馬での移動を経験していないシゲルとしては、そのくらいの感想しかいう事が出来ない。
「そうなのか? だが、餌や場所を気にしなくてもいいのは、便利だな」
フィロメナの感想に、皆が頷いた。
使うのは魔力なので、補充さえ出来ていれば動かすことが出来る。
ただし、この乗り物(仮)にも弱点が無いわけではない。
「ただ、ねえ。これって、多分だけれど、悪路を走るのには向いていないよ?」
「どういうこと?」
意味が分からずに首を傾げたミカエラに、シゲルはさらに説明を続けた。
「走ってみないとわからないけれど、なんとか獣道を進むのがやっとという感じじゃないかな? まあ、丈の低い草原くらいだったら何とかなるかも知れないけれど」
「なるほどな。確かに、馬よりは安定感がなさそうだ」
フィロメナが、乗り物(仮)を触りながら頷いた。
シゲルが乗り物(仮)をどこで手に入れたのか、詳細を説明したあとは、他の面々の調査結果を話すことになった。
フィロメナは適当に入った建物にあった魔道具について、マリーナは神殿や教会らしき建物についての話がされた。
そんな中で、シゲルにとってはミカエラの報告が気になった。
「どうやってこれだけの遺跡が劣化せずに維持されているのか気になったのだけれど、どうやら精霊たちが綺麗になるように維持しているみたいね」
「えっ!? 精霊ってそんなことまでするの?」
流石に驚いてそう聞いたシゲルに、ミカエラは少し呆れたような視線を向けた。
「そんなわけがないでしょう? どう考えても大精霊さまが、精霊たちに指示を出して、この遺跡を維持しているのよ」
その説明に、シゲルは納得の顔になった。
そのシゲルの顔を見て、フィロメナが笑いながら頷いた。
「まあ、大精霊の本拠地と考えれば、納得できるかな。だが、なんのために維持をしているのかはわからないが」
これだけの広さの町を維持するには、膨大な労力がかかるはずだ。
それだけの力を使って、大精霊がこの町を維持している理由は、確かに気になる。
「シゲルが聞いたら教えてくれるかしら?」
「いやー、どうかなあ」
なぜか流し目のような視線をマリーナから向けられたシゲルだったが、それをあっさりと無視をして首を傾げた。
昨日の話を思い返してみても、必要以上のことは教えてくれないだろうとシゲルは考えている。
ただ、シゲルにとっては、メリヤージュがなぜこの町を維持しているのかよりも、別に気になることがあった。
それが何かといえば、大精霊であるメリヤージュが精霊を使って、この町を維持しているということ、そのものだ。
『精霊の宿屋』は、一体の精霊によって維持されている。
もしかしたら、精霊のランクが上がれば、同じようなことが出来るかも知れないと考えたのである。
今は小さな小屋しかないが、いずれはこの町のように、建物をいくつも配置できるかも知れない。
もっとも、その建物に住む住人たちがいないので、そんな町を作る意味があるのかどうかは疑問なのだが。
とにかく、精霊が町の管理ができるとわかっただけでも、シゲルにとっては収穫だった。
そこまで考えたシゲルは、ふと疑問が湧いて来た。
「いくら大精霊の指示があるといっても、働いている精霊たちは、嫌々やっているのかな?」
「ところが、そうでもないみたいなのよね。これは私も驚いたのだけれど」
ミカエラがそう答えると、シゲルだけではなく、フィロメナやマリーナまで驚いたような顔になっていた。
精霊は自然に宿るものであって、人工物には寄り付きがたいというのは、この世界の共通の考えだった。
それが、ある意味否定されたのだから、驚くのも当然だった。
驚いている三人を見ながらミカエラは肩を竦めながら続けた。
「たまたま精霊たちが働いているところを見れたのだけれど、結構喜びながら働いていたわよ? ……大精霊からの指示だからかも知れないけれど」
エルフであるミカエラは、シゲルが見知っている姿形がある精霊だけではなく、形を保っていない小さな精霊も感じ取ることが出来る。
彼(彼女?)らの感情まではっきりと分かるわけではないが、進んで動いているかどうかは見て取れる。
その行動が、大精霊のためになるからなのか、単に建物を綺麗にすることに喜んでいるのかは、読み取ることは出来なかった。
それでも、精霊たちが進んでこの遺跡を維持しているというのは、十分に驚くべきことなのだ。
精霊たちの驚くべき生態(?)についてわかったところで、今回の報告会は終わった。
その後はシゲルがいつものように夕食を用意して、この日は就寝となるのであった。
乗り物(仮)の名前どうしましょう……。




