(14)先入観
新たに発見した遺跡は、当たり前と言うべきか完全な無人だった。
自分たち以外に動いているものがいないという光景は、やはりどこかもの悲しさを感じさせる。
もっともそう感じているのはシゲルだけで、フィロメナたちは相変わらず町の規模に驚き続けていた。
シゲルとしては、もうそろそろいつもの調子を取り戻してもいいのではと思わなくもないが、初めてこういった光景を見れば驚き続けるのも当然である。
フィロメナたちにとっても見る物すべてに新鮮さを感じているようで、折角元の調子を取り戻しても新たに驚きがあって、完全に復活するための暇がないようだった。
シゲルたちが出て来た建物は、町の端にあるようで、中央に続く道とは反対側の方向は森になっている。
その道は、森に入るところでくっきりと途切れているので、シゲルにしてみれば違和感がありまくりだった。
まるで、そこから町だけが切り取られているように見えたのだ。
「――――これってやっぱり結界で守られているとかだろうねえ」
「ああ、それはそうだろうな。でなければ、これだけ深い森のなかにあるのに、町の中に魔物が一切見当たらない説明がつかない」
「そうね。さっき見た遺跡と同じような結界だと思うわ」
森の方をにらみながら言ったフィロメナに続いて、ミカエラも頷きながらそう言った。
これだけの規模の町を、何のために維持をしているのかわからないが、既にシゲルとフィロメナは何となく誰がこんなことをしているのかは予想していた。
といっても、不用意に口にしていいのかわからないので、むやみにその名前を出すことはしなかった。
そもそもシゲルが新たに付けた名前なので、ミカエラやマリーナはどんな存在であるかはわからないだろう。
それはともかくとして、この無人の町には魔物が入って来れないことをきちんと確認したシゲルたちは、町の中央に向かって移動し始めた。
町として維持をしているのであれば、重要な施設は中央に集まっているのではないかと考えたためだ。
現に、整備された道を進むにつれて、周辺に建っている建築物も立派になっている。
「むやみに装飾されていないようだから、外側は住宅とかになるのかな?」
というのが、ミカエラの感想だった。
シゲルとしてもそれに同意見である。
どう見てもアパートのような集合住宅にしか見えない建物までしっかりと建っている。
シゲルは歩きながら色々と想像していたが、それを口にすることはしなかった。
自分が先入観で余計なことを言うことによって、フィロメナたちに変に知識を与えては駄目だろうと考えたのだ。
例え横に見える建物がアパートのように見えても、実際には別の用途で使われていたかも知れない。
異世界のしかも遥か昔に栄えた文明の遺跡なのだから、シゲルが知っている常識とは別の何かがある可能性もある。
そのため、むやみに決めつけるのは駄目だと結論づけたのである。
もっとも、フィロメナたちは、そんなシゲルの決意(?)を無駄にするかのように、次々と予想を口にしている。
「やはりこの辺は、住宅街とかなのだろうな」
「そうね。随分と大きな建物に見えるけれど、どれくらいの人が住んでいたのかしら?」
「一つの建物に一家族とか住んでいたのかな?」
そうした予想を口にするたびに、なぜかシゲルを見てくるのだが、当の本人は沈黙を保っていた。
とはいえ、流石にその様子に違和感を覚えたのか、フィロメナが首を傾げながら聞いて来た。
「なあ? なぜシゲルはさっきから黙ったままなんだ?」
「あ~、いや。自分はもう、ここが町だと意識が固まっちゃっているから、余計な情報を与えないようにしようかと」
「ああ、そういうことか」
シゲルの言葉に、フィロメナは納得したように頷いた。
だが、ミカエラは首を傾げながら聞いて来た。
「そこまで気にする必要あるかな? 誰がどう見てもここは町にしか見えないわよ?」
「そうなんだけれどね。そうだね……例えば、あそこの高めの建物にしても、自分にはある目的のために作られたものとして見えないわけだ。だけれど、実際にそういう用途で使われていたかは分からない。だから、きちんと確認するまでは決めつけるのはよくないかなと」
「うーん。それは別にシゲルでなくとも、私たちも同じだと思うけれどね」
マリーナが言っていることも決して間違いっているわけではない。
ただ、シゲルとしては、異世界から来ているということもあって、余計に慎重になっているだけである。
それに、町の中央に近付くにつれて、その判断が正しかったと思えるような建物も出て来た。
何の用途に使われるのかが分からない建物が現れて来たのだ。
その建物は、外壁にはしっかりとした装飾が施されているのに、シゲルは見たことがないような造りをしている。
「あれって、やっぱり宗教的な施設か何かかな?」
「うん? いや、あれは魔力の補充をするために作られている建物だな。以前に別の遺跡で似たようなものを見たことがある。もっと規模は小さかったが」
フィロメナの答えを聞いたシゲルは、安堵のため息をついていた。
やはり魔法的な施設もあるとなると、シゲルの知っている町にある物とは違った役割の建物も多くありそうだった。
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町の中央に向かっていたシゲルたちだったが、あるところまで進むと特徴的な場所に出ることになった。
それは、シゲルの目には、どう見ても人の手が入って管理されている公園のように見えた。
そうシゲルの予想とは少し外れたことを、ミカエラが口にした。
「これは、庭かしら?」
「そうだな。人の手……は入っているはずがないか。ただ、自然にできたものとは考えにくい」
そもそも芝が生えていて、しかもしっかりと刈りそろえられてのだから自然物であると考えるのは不自然すぎる。
とはいえ、無人であるはずの町で、誰が手入れをしているのかが疑問ではある。
どう見てもその庭(?)が町の中央にあたりそうだったので、シゲルたちは調査のためにさらに進もうとした。
だが、マリーナが芝になっている場所に踏み込もうとしたところで、突然壁か何かにあたったかのうように歩みを止めた。
「これは……物理的にも侵入を防ぐための結界があるわね」
「なるほどな。それだけこの場所が重要な場所というわけか」
ペタペタと見えない壁を探る仕草を見せたミカエラに、フィロメナは納得した顔で頷いている。
「だったら、ちょうどいいからここらで夕食にしましょう。そろそろいい時間よ?」
マリーナがそう提案すると、皆が賛成して手近な建物を調べ始めた。
折角使える建物が存在しているので、昨夜と同じようにそこで寝泊まるすることにしたのである。
いつものようにシゲルが夕食を用意して、フィロメナたちが片づけをしているときのこと。
シゲルはふと何かに呼ばれた気がして、建物の外に出た。
するとはっきりと声が聞こえて来た。
その声が誰のものであるかは、すぐにわかった。
それを確認したシゲルは、建物の中に戻ってフィロメナたちに話をすることにした。
「――というわけで、呼ばれているみたいだけれど、どうする?」
「それは勿論行くしかないだろう。まあ、無視をしたからといって、何かがあるとは思えないがな」
フィロメナはあっさりとそう言ったが、ミカエラとマリーナはそれどころではないようだった。
「ちょっと待ちなさい! だ、大精霊って!?」
特にミカエラの動揺は大きく、取り乱しているといっていいほどに混乱していた。
マリーナは、呆れた様子で額を押さえている。
その二人に苦笑いを向けながらフィロメナが言った。
「事実なのだから仕方あるまい。まあ、そう言いたくなる気持ちはよくわかるが」
そう言った後になぜかシゲルを見て来たフィロメナに、当の本人は肩を竦めてみせた。
「別に狙ってやっているわけじゃないけれどね」
「当たり前だ。そんなことが出来たら、シゲルは稀代の精霊使いということになる」
過去から現在に至るまで、大精霊を自由に呼び出すことができた精霊使いはいないとされているのだ。
混乱したままのミカエラは放っておいて、シゲルとフィロメナは早速とばかりに動き出した。
ここで下手に時間を掛けると、夜になってしまう。
ミカエラが復活するまで待っている時間的余裕はないのだ。
もっともそのミカエラは、シゲルたちが外に向かって動き始めたのを見て、慌てて着いて来ていた。
いかにエルフといえども大精霊と直に対面する機会などそうそうないので、そのチャンスを逃すわけにはいかないと、ミカエラも必死なのであった。




