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(15)発見の報

 シゲルたちから精霊喰いの情報を得たザナンド王国の国軍は、さっそくその情報をもとに行動を初めていた。

 具体的には、過去に出現した精霊喰いの情報を調べたり、聞いた位置情報の場所に向かって本当に精霊喰いがいるのかを確認するための部隊を差し向けたりした。

 そして、現地の騎士団が精霊喰いの情報を得てから数日後、実際に山の中に入って探索をしていた部隊が、ついに目標となるものを見つけていた。

「あれが、目標の精霊喰い……とやらか」

 そう呟いた隊長を初めとして、実際に精霊喰いを目にした者などほとんどいない。

 それでも、普通に闊歩している魔物とはまた違った雰囲気を漂わせている生物(?)に、部隊の皆が生理的な嫌悪感のようなものを感じていた。

「随分と大きいですな」

「そうだな。大体十メートルくらいはあるか。――だが、何故あれほどの大きさがあるものを見つけられなかったんだ?」

 精霊喰いを発見した場所は、これまで騎士団の偵察隊が何度か探索を行っていた場所である。

 それにも関わらず、一度も今目の前にいる精霊喰いを見つけたという報告はされていなかった。

 

 今現在は、目の前で多足類のような姿形をした精霊喰い(仮)が、蠢いているのがはっきりと見えている。

 これほどはっきりと見えている生き物が、何度も見逃されてきたというのは考えにくい。

「さあ? 姿を隠すような魔法が使われていたのか、あるいは精霊喰い特有の特技があるのか。――ここで断定するのは不可能でしょう」

「確かに、それもそうか」

 この場にいる部隊は、あくまでも探索を目的として組まれているので、精霊喰いに特段詳しいというわけではない。

 今回見つけた精霊喰い(仮)が本当に精霊喰いなのかも含めて、最終的に特定するのはさらに上の判断に任せることになる。

 

 じっと目標を見つめたままの隊長に、さらに別の部下が話しかけてきた。

「とりあえず目標らしきものは見つけましたが、どうしますか? 一当てしてみます?」

 そう問われた隊長は、たっぷり十五秒ほど考えてから首を左右に振った。

「いや、止めておこう。私たちの目的は、あくまでも目標の確認だ。それに、変に攻撃を仕掛けて、また姿を隠されてはたまったものではないからな」

「了解でさ」

 隊長の言葉に、問いかけた隊員はあっさりと了承した。

 その隊員もイケイケで倒しに行きたかったわけではなく、一応確認をしたかっただけだったのだ。

 

 これまで全く見つけられなかった目標を発見した部隊は、ある程度の時間その場で目標の姿形や動きをじっくり一時間ほど確認してから本拠地へと戻った。

 それほどの時間留まっていたのは、目標が何らかの動きを示せばすぐにでも立ち去るつもりだったのだが、全く動く気配を感じなかったので、これ幸いと観察を継続することにしたのである。

 そして、一時間が経っても全く動く様子がないことを確認した後、隊長の判断で戻ることになった。

 部隊が本拠地に戻る最中に動く可能性もあるが、それは数人の隊員を配置しておくことで観察を続けることにした。

 結果としては、この場にいた精霊喰いが場所を移動することは無かったのだが、それはあくまでも結果論である。

 とにかく、優先目標を達成した部隊は、その情報を持って本部へと向かった。

 その情報をもとに、王都では新たな作戦へ向けて動き始めるのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 偵察部隊からもたらされた情報は、さっそく魔法によって城へと送られた。

 その情報をもとに、軍内では様々な動きが発生したが、とりあえずダヴィドの元には発見の報だけが伝えられた。

「――そうか。情報通りに見つかったか。それで? 対処の仕方は?」

「現在急いで書庫を当たって調べている最中ですが、差し当たってそこまで珍しい相手ではなさそうですな」

「ほう?」

 もう少し具体的にと促すダヴィドに、報告者が続いて言った。

「姿形を見る限りでは、過去に何度か出現例のある精霊喰いのようです。その方面に詳しい者に聞くと、すぐに答えが返って来るくらいでしたから」

「なるほど。今は、得た情報をもとに、確証を得ているということだな」

「そうなりますな」

 思い当たりのある人物の記憶をもとに動いてもよかったのだが、現地の報告とその人物の記憶にあるほとんど動くことのない精霊喰いという情報を信じて、より詳しい情報を集めることにしたのだ。

 その方が犠牲を少なくすることも可能だろうし、様々な条件の下で作戦を立てることもできる。

 イケイケだと思われがちなザナンド王国の騎士団だが、しっかりと軍としての下準備は行われているのだ。

 

 しっかりと軍として動いていることを確認したダヴィドは、さらに続けて別のことを聞いた。

「冒険者ギルドの方はどうなっている?」

「例の情報源からの忠告もありますからな。きちんと得た情報だけは伝えてあります。それでどう動くのかはあちら次第ですが」

「こちらの邪魔をしないのであれば、それで構わん」

 シゲルたちが冒険者ギルドにも情報を伝えたことは、勿論ダヴィドにも伝わっている。

 ダヴィドは、別にそれで軍が侮られたと思うようなこともなかった。

 むしろ、シゲルたちがそうするのは当然だろうと考えたくらいだ。

 

 国軍は国を優先して動くに対して、冒険者ギルドはまた違った理念で動いている。

 どちらが国民にとっていい方向に動くのか分からない以上、どちらにも情報を提供するのはある意味当然である。

 それで両者がいがみ合って最悪な結果になってしまっては元も子もないのだが、少なくとも情報提供者にそれで罪が発生するわけではない。

 ましてや、勇者という影響力がありすぎる存在がどちらか片方に肩入れするのもまずいというのは、ダヴィドにとっても理解できる考え方だ。

 

「相手が精霊喰いとはいえ、共通の敵であることには違いありません。今まで通り、高ランクの魔物を相手にするときのような対処で行こうかと考えております」

「そうだな。それでいいだろう」

 国軍とギルドは、日常的に同じ魔物を相手に戦うこともある。

 基本的に冒険者の場合は、最初に倒したパーティーが報酬の権利を得るのだが、そこに軍の力が加わっている場合はややこしいことになる。

 時と場合によって条件は変わって来るのだが、とにかく今回もそれらの例を元に作戦が立てられるはずだ。

 理想を言えば、先に発見した軍の力だけで倒してしまえば問題ないのだが、場合によっては長引く可能性もある。

 そうして先のことを考えておくのは、為政者として当然のことだとダヴィドは考えている。

 

 そんなことを考えていたダヴィドが、ふと思い出したように言った。

「そういえば、勇者殿にはどう対処するのか決めたのか?」

「それが、実はまだでして……我々の手に負えないと判断した場合には出撃願うつもりではあります」

「こちらとしては、そうなるであろうな。だが、ギルドのほうは分からない、か」

 ダヴィドの呟きに、報告者も苦い顔をしながら頷いた。

 

 ギルドがフィロメナの力を使って精霊喰いを討伐してしまえば、倒した手柄はギルドのものとなる。

 勿論、フィロメナには相応の謝礼が支払われることになるだろうが、ギルドにとっては得られる名誉のほうが欲しいはずだ。

「――そこはこちらが心配しても仕方ない、か。勇者殿によって倒されるのであれば、それで良し。そうでなくとも、こちらはこちらの理屈で動けばいい」

 ダヴィドが最終的にそう結論を出すと、報告者も同意するように頷くのであった。

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