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(11)遺跡?

 フィロメナたちの連携は流石と言える……どころか、シゲルにはほとんどわからないようなレベルでのやり取りが行われていた。

 といっても、実際に戦闘が始まってしまえば、言葉が交わされることはまずない。

 大方が無言のうちに、戦闘終了まで終わってしまう。

 シゲルがどうにか戦闘に混ざろうとしても、その前にフィロメナの剣かミカエラの魔法で倒されてしまうことがほとんどだった。

 シゲルは偶にあるおこぼれを狙って、とどめを刺して回るのが精一杯である。

 もっとも、上位の魔物はきっちりとどめを刺さないと、何をしてくるのか分からないので、それも重要な仕事ではあるのだが。

 

 実際、ミカエラやマリーナは、自分たちが取りこぼした魔物のとどめを刺して回っているシゲルを感心して見ていた。

 こういった場面でしっかりととどめを刺す、刺せるというのはとても大事なことで、躊躇してしまう者も少なくない。

 いくら戦闘力が高くても、魔物を相手に止めを刺せないと、なんの意味もないのだ。

 付け加えると、いくら弱っているといっても、最後の馬鹿力的な攻撃をしてくる魔物もいるので、とどめを刺せるというのは意外に能力が無いと出来ないことなのだ。

 そのため、ミカエラとマリーナのシゲルに対する評価は、この時点でも上がっていた。

 フィロメナは言わずもがなである。

 

 

 そんな感じで三時間ほど、魔物と戦いつつ、進み続けた結果、シゲルたちは目的地に着いた。

 遺跡自体はさほど大きくはなく、中央にある大き目な建物を中心にして、十軒程度の小さめの建物が建っていた。

 よくこの程度の規模の遺跡を遠くから見つけることができたなとシゲルは感心していたが、なんのことはない、中央にある建物が塔のように高くなっているので、それが目立って見ていただけである。


 それはともかく、遺跡(?)を一目見たシゲルは、思わずといった様子で呟いた。

「――――ここ、本当に遺跡?」

「……人の気配はまったく感じないが、な」

 一応反論しつつも、フィロメナも同じようなことを考えていたのか、その言葉は歯切れが悪かった。

 見ればミカエラとマリーナも不思議そうな顔をしている。

 

 なぜシゲルたちがそんな反応をしているのかといえば、遺跡だと思われていた建物が、どれもこれも綺麗すぎるのだ。

 普通、遺跡といえば、木造であっても石造りであっても、風化が起こってボロボロになっているはずである。

 それが、どういうわけかそこまで目立った損傷は起こっておらず、まるでつい数か月前まで人が住んでいたかのように、壁が崩れ落ちたりしているところが無いのだ。

「まさか、古代文明の超技術のお陰で、建物が風化しないなんてことは……?」

 シゲルは冗談のつもりでそう聞いたのだが、何故かフィロメナたちは、難しい顔になって黙り込んだ。


「えっ? まさか、そういうこともあり得るの?」

 シゲルが驚いてそう聞くと、フィロメナが首を左右に振った。

「いや、どうだろうな。少なくとも私は見たことも聞いたこともない」

「私もよ」

「そうね。ただ、もとから遺跡だとわかっていて、ずっと管理し続けられているところなら話は別よ?」

 この世界にも、古代文明の遺跡を巡る観光というものは存在しているので、人が出入りする遺跡は当然のように管理の手が入っている。

 そうした遺跡が風化せずに残っているのは、当たり前といえば当たり前だ。

 

 目の前にある不思議に、シゲルはしばし目を奪われていたが、その間にもう一つの不思議に気がついた。

「そういえば、ここに来るまであれほど魔物が出てきていたのに、まったく出てこないね?」

 シゲルがそう言うと、フィロメナたちも今気づいたと言わんばかりの表情で顔を見合わせた。

「……結界に守られている?」

「そんな。その力はどこから?」

「いくら範囲が狭いといっても、それなりの広さはあるぞ?」

 ミカエラ、マリーナ、フィロメナの順にそれぞれ感想を漏らしたが、どれを聞いても答えになるようなものはなかった。

 そもそもシゲルが気付くまで結界の存在にも気付いていなかったのだから、いきなり答えが出るはずもない。

 シゲルたちは、お互いに顔を見合わせながら、あまりにも不思議な遺跡(?)について詳しく調査することにした。

 

 

 最初に向かったのは、一番目立っている中央にある神殿だ。

 その建物が神殿であると判断したのは、現在も町にある神殿に似通っている造りをしているからだ。

 ただし、祠から見えていた塔のようなものがくっついていて、現在の神殿とは違っているところもある。

 まずは、その建物が本当に神殿であるのかを確認するため、シゲルたちは建物の中に入った。

 

 すると、最初に声を上げたのは、当たり前と言うべきか、マリーナだった。

「やはり、ここは神殿で間違いないようね」

「そうね」

 そう答えながら頷いたミカエラは、建物に入ってすぐの礼拝堂らしき部屋の奥に置かれている像に注目していた。


 そして、その像を見たシゲルはといえば、

「あれ? あの像って……ムグッ!?」

 突然フィロメナに口を塞がれた。

 だが、そのお陰で、ミカエラとマリーナには、メリヤージュの事を話していなかったことを思い出せた。

 

 ただし、当然ながらミカエラとマリーナは、シゲルの口を塞ぐというフィロメナの突然の行動に不思議そうな顔を向けて来た。

「うーん。怪しいなあ。何か隠していること、あるでしょう?」

「あらあら、ミカエラ。無理に聞いては駄目よ。でも、気になるのは確かだけれどね?」

 意味ありげな視線を向けてくるマリーナに、フィロメナとシゲルは同時に視線を逸らした。

 どう考えても何かあると言っている態度になっているが、今更それ以上の誤魔化しようがない。

 

 分が悪いと感じたフィロメナが、申し訳なさそうな顔になった。

「すまない。それ以上の追及は止めてくれ」

 フィロメナがそう言うと、ミカエラとマリーナは顔を見合わせて肩をすくめた。

「そういう事なら仕方ないわよね」

「そうねえ。残念だけれども」

 そう言ってあっさりと引いたミカエラとマリーナを見て、シゲルは三人には間違いなく信頼関係があるのだと感じていた。

 

 ミカエラとマリーナがあっさり引いたからではないが、フィロメナが別の情報を出した。

「ただ、この辺りの建物が風化されていない理由は、予想ができたぞ?」

「ああ、それは自分も何となくわかった」

「へえ? どういうこと?」

 興味深そうな顔になって聞いて来たミカエラに、フィロメナが続けた。

「それこそ、ミカエラならわかるのではないか?」

 フィロメナはそう言って、目の前にある像を示した。

 

 フィロメナにつられるようにして像を見たミカエラは、少しだけ不思議そうにしてから、すぐに驚きの表情になった。

「ま、まさか、そういう事!?」

 そう言って、自分と像を交互に見てきたミカエラに、フィロメナは無言のまま頷いた。

「で、でも、なぜ大精霊が遺跡を守るようなことを?」

「さて、流石にそれは私にもわからないな。なにか、深い理由があるのかもしれないし、単に気紛れかもしれない」

 フィロメナの答えを聞いたミカエラは、改めて深く観察するようにメリヤージュの像を見始めた。

 もし、像を中心にして結界が張られているのであれば、何か分かるのではないかと考えているのだ。

 

 

 一方で、マリーナもミカエラにまかせっきりにするのではなく、神殿自体を調べ始めていた。

 こうした神殿は、時代によって色々と造りが変わったりするので、そこから分かることも多くあるのだ。

 マリーナは、こうした古代文明の建築物の専門家だったりする。

 ちなみに、マリーナだけではなく、フィロメナとミカエラも古代文明に関してそれぞれの専門知識を持っている。

 魔王討伐に向けての旅をしているときに、世界中にある遺跡を巡って来たからこそついた知識だ。

 

 マリーナが神殿内をうろちょろしている間に、ミカエラは結論が出たのか、首を振りながらシゲルとフィロメナの所に近寄って来た。

「駄目ね。少なくとも私じゃ、あの像に仕掛けがあるかとかはわからなかったわ」

「ふむ。その言い方だと、結界の方はわかったことがありそうだな?」

「その通りよ。といっても、改めてこの辺りを確認したら、確かに大精霊の結界らしきものがあることが分かったわよ」

「そうか。予想通りとはいえ、それが確認できただけでも大きいな」

 大精霊の結界に守られているとわかれば、余裕を持ってこの場所の調査をすることができる。

 調べる必要がある建物は神殿だけではないのだ。

 

 ミカエラの分析結果を聞いたフィロメナは、ここはふたりに任せたと言って、シゲルを連れて他の建物を調べに向かった。

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