(21)二度目の個人屋台
更新再開です。
章は変わらず、学園祭の続きになります。
学園祭四日目開園前。
シゲルは、個人屋台の出店があるためフィロメナ、シンディーと共に準備に追われていた。
問題となっていたトマトの量は、おかみさんが頑張ってくれたにも関わらず、劇的に改善するというほどにはならなかった。
シゲルとしても多少残念ではあったが、いきなり作物の量を増やせるはずもないと分かっていたので、特に残念に思うことはない。
それでも、シゲルの隣で同じように準備をしていたシンディーがため息をつきながら言った。
「できれば、倍くらいには増やしたかったわね」
「やはり其方もそう思うか」
シンディーに同意して、フィロメナが頷きながらそう応じた。
その二人に、シゲルは苦笑を返した。
「まあ、材料が用意できない以上はしかたないよ」
ちなみに二人が残念がっているのは、それぞれ理由が違っている。
シンディーの場合は売れば儲けが出ることが分かっているからで、フィロメナの場合はトマトパスタを広めたいからだ。
どちらも重要なことなので、シゲルとしてはそれ以上を言うことはなかった。
学園の入り口からシゲルの屋台まではそれなりの距離があるため、開園してすぐにお客が来るということはない。
ただ、二日目の時と比べると今回のお客の入りは非常に早かった。
――というよりも、開園と同時に屋台までめがけてやってきたであろうお客で、あっという間にいっぱいになってしまった。
しかも、来ているお客は学生ではなく、アークサンドにいるおばさま軍団となっている。
「うーむ。井戸端会議の情報網をなめすぎていたか」
「そうらしいな」
シゲルの唸るような感想に、フィロメナが半笑いになって頷いた。
その二人に向かって、シンディーが少しばかり慌てた様子になって言った。
「なにのんびり感想を言っているのよ! お客様に怒られるわよ!」
少しでも早くお客様をさばこうとしているシンディーは、多少余裕がなくなってきているようだ。
「うむ。確かにのんびりしている暇はなさそうだな」
今回は売り子役のフィロメナが、シンディーにそう返しながら再びお客様の対応へと戻った。
そして、それを見ていたシゲルは、再びパスタにトマトソースを乗せる作業に戻るのであった。
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一日目よりも多くの人が来ているシゲルの個人屋台だったが、おかみさんの協力の下で多めにトマトが仕入れられたことができたお陰で、昼前に売り切れになるという事態は避けることができた。
とはいえ、昼食の時間が終わって、そろそろ(三時の)おやつを求める時間になるころには在庫の限界が見えていた。
「あと十人に配れば終わりかなあ……」
「む。もうそんなになくなったのか。頑張ってラウラと多く作っていたと思うが……」
「多少工夫して水増ししたところで、焼け石に水だったってところかな」
トマト自体の仕入れに限界があるのであればほかでどうにか量のかさ上げができないかと工夫はしてみたが、人の波には勝てなかったようである。
それでも一日目と比べれば、倍以上のお客をさばいたという感触は掴んでいた。
それは、残っているパスタの量からも推測することができる。
残りの数が見えたところで、売り子役であるシンディーが並んでいたお客に声をかけ始めた。
勿論、ある程度数は区切っていたのだが、具体的にどれくらいまで渡せるか分からないと断ったうえで残りたい者は残っていいとお客には伝えていた。
今シゲルの屋台の前に並んでいるお客は、それでもかまわないと了承した上で残っている者たちである。
そして、具体的に十人までとシンディーが区切り始めたところで、ギリギリのところにいたお客はガクリと肩を落としていた。
そのお客は二人組の男で、ガタイの良さからも冒険者だということが分かった。
それでも騒ぎを起こすようなことはなく、シンディーが頭を下げると二人組は軽く手を振ってその場からいなくなった。
十人分の皿の上にパスタを用意してきっちりと最後までソースをかけたシゲルは、近くから大きな声が聞こえてきて頭を上げた。
「俺たちの分が無いとは、どういうことだ!?」
そんな声が聞こえてきたところにシゲルが視線を向けると、フィロメナが数人の男たちに詰め寄られていた。
その男たちの姿に見覚えがあったシゲルは、たまたま皿を下げる作業で近くにいたシンディーを思わずといった表情で見た。
シゲルの視線を受けて、シンディーは渋い表情になった。
「……来なくていい相手が向こうから来たわね」
「あー。みたいだね。……でも、今はフィロメナに任せようか」
「いいの?」
「いや、自分たちが出て行くと、余計に騒ぎ出しそうじゃない?」
シゲルがそう言うと、シンディーは一瞬顔をしかめてからコクリと頷いた。
離れた場所にいるといっても、シゲルとシンディーがいる場所とフィロメナたちがいる場所は、さほど離れているわけではない。
シゲルとシンディーがいるところでも、十分にフィロメナたちのやりときは聞こえてきた。
「お前たちが何者かは知らないが、誰であっても特別扱いするつもりはない。そもそも、どう粘ったとしても、ない物を出すことはできないぞ?」
フィロメナが多少あきれながらそう言うと、突っかかってきた男がさらにいきり立った様子になる。
「なんだと!? お前、店員のくせに客に対して何様のつもりだっ!」
男のそのセリフを聞いたシゲルは、思わずといった様子で右手でこめかみを押さえた。
ここまでテンプレな態度をとるのかと呆れたのだ。
その気持ちはフィロメナも同じだったのか、隠すことなく軽蔑したような視線を向けた。
「お前は馬鹿か? 店にも客を選ぶ権利はあるんだぞ?」
「なんだとっ!?」
男はますますいきり立ってフィロメナに詰め寄ろうとした。
だが、その男の肩を別の仲間の男――アーダムが掴んで、それを止めた。
「そろそろ止めておけ」
「なっ……!?」
「お前、周りの視線が見えていないだろう?」
アーダムがそう注意すると、その男は慌てた様子で周りを見た。
そこでようやく周りにいた者たちが揃って呆れた様子で自分を見ていることに気付いたのか、男はチッと舌打ちをしながらフィロメナから顔を逸らした。
その男を見ながらアーダムがさらに続けて言った。
「それに、どうせ食べる価値もないと分かったからな」
アーダムは、そう言いながらチラリとシゲルとシンディーに視線を向けてきた。
さすがにこの距離で気付かないはずはないかと、シゲルはそんなことを考えていた。
自分たちの料理がけなされたということに関して、シゲル自身は特にどうこう思うことはない。
アーダムであればそれくらいのことは言ってくるだろうなと、どうでもいい感想を持ったくらいだ。
だが、直接その言葉を聞くことになったフィロメナは、シゲルとは全く違った感想を持ったようだった。
「ほう。お前も中々面白いことを言うな。食べたことのない料理の味を知っているとは、千里眼か神の舌でも持っているようだな」
あからさまなフィロメナの嫌味だったが、アーダムは表情を変えることはなかった。
「ふん。毎年毎年同じものを出しているヤコミナ研究室のことだ。どうせ似たり寄ったりのものを出していたのだろう。人気があると聞いていたが、物珍しさだけで客が釣れたようだな」
アーダムはそう返したが、フィロメナがそれに対してなにかを言うことはなかった。
周りで話を聞いていた者たちのなかで、別の男たちがアーダムたちに近寄ってきてこう言ってきた。
「あんちゃん、なかなか面白いことを言うな。それは、ここの料理を気に入った俺たちに喧嘩を売っているということか?」
その台詞を言ってきたのは、先ほどギリギリのところでトマトパスタを食べ損ねていた冒険者だった。
実はこの冒険者は、初日にたまたま食べたトマトパスタを気に入って、リピーターになっていたのである。
冒険者の言葉に一瞬顔をしかめたアーダムだったが、周りを見てほかの者たちも似たような表情になっていることに気付いて小さく舌打ちをした。
これ以上ここで話をしていても、自分たちに不利だということが理解できたのだ。
そしてアーダムは、それが最後の抵抗とばかりに冒険者に向かってフンと短く鼻を鳴らして、シゲルの屋台から離れて行くのであった。
色々と考えた結果、学園祭途中で章は区切らずに続けることにしました。
学園祭が終わるまでは今の章のままで行きます。
それから、諸事情により今後の「精霊育成師」の更新は四日毎になります。
以前と違って更新がゆったりになってしましますがご了承ください。
m(__)m




