(19)ミカエラの不運
学園祭三日目は完全にオフなので、シゲルは嫁さんズと一緒に祭りを見て回っていた。
ただし、その中にミカエラの姿はなかった。
シゲルはきちんとミカエラの確認をしたのだが、彼女自身が右手を軽く振りながら断ってきたのだ。
「せっかくのお祭りなんだから、夫婦で楽しめばいいでしょう」
というのが、ミカエラが断ってきた時の言葉だった。
そして、シゲルたちも無理強いをするつもりはなかったので、ミカエラを除いた四人で纏まって行動していたというわけだ。
既に周囲からの(主に男の)視線にも慣れてしまっているシゲルは、その時たまたま隣を歩いていたマリーナに言った。
「今頃ミカエラはなにをしているかな?」
「あら、心配?」
「いや、心配とかじゃなくてなんとなく申し訳なく思っただけ」
そんなことを言ったシゲルを見て、マリーナは一度優し気な表情を浮かべた。
今の言葉に、シゲルの優しさが出ていると感じたのだ。
ただ、マリーナはすぐに首を左右に振って、少しだけ真顔になって返した。
「それは、ミカエラには直接言わないことね。あの子ももう子供じゃないのだから、一人でもこの祭りを十分に楽しんでいるでしょう」
一応朝出て来るときにミカエラに予定を確認したときには、一人で祭りを楽しむと言っていた。
マリーナの言葉で容易にプリプリと怒り出すミカエラが想像できたシゲルは、苦笑しながら答えた。
「いや、そういうつもりは無かったんだけれどね。まあ、でも同じようなものか」
申し訳ないと思っている時点で、ミカエラを子どものように扱っているというのは否定できない。
少し考え無し過ぎだったかと、シゲルは反省をした。
そんなシゲルに、後ろからフィロメナが笑いながら声をかけてきた。
「そこまで落ち込むようなことではないだろう。ミカエラも気にかけてくれると分かっただけで、嬉しいんじゃないか?」
フィロメナからは顔は見えていないはずなのに、シゲルが気落ちしたことは分かったらしい。
それはフィロメナだけではなくその隣を歩いているラウラも同じで、同意するように何度か頷いていた。
「そうね。とにかく、私たちは私たちでこのお祭りを楽しみましょう」
フィロメナの言葉に、少し言いすぎだったかと反省していたマリーナは、そんなことを言いながらシゲルの腕を取るのであった。
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シゲルたちが自分の話をしているなんてことはつゆ知らず、ミカエラはフィロメナとマリーナの予想通りに、のんびりと祭り会場を楽しんでいた。
そもそも一人で歩いていて寂しいなどと感じるのであれば、最初からシゲルの申し出を断ったりはしない。
ミカエラとしては、一人でも十分に楽しめると考えたからこそ、すぐに断ったのだ。
勿論、新婚夫婦たちに気を使ったということもあるのだが。
アークサンドの学園祭は、「いかに稼ぐか」ということが重点に置かれているだけあって、食べ物を扱っている屋台以外にも様々な趣向を凝らした出し物が出されている。
そんな出し物のなかの一つである模擬戦闘を見ていたミカエラは、二戦ほど見終わってから会場を出た。
「やっぱり学生レベルってところかしらね」
模擬戦を行っている学生は、学園でも上位に来る者たちが行っているのだが、やはりミカエラの目からすればその程度のものにしか見えなかった。
勿論、軍に入ったばかりの新兵と比べれば、はるかに学生たちのほうが技量があるのだが、純粋培養で育てられた存在でしかないのだ。
以前フィロメナの話を聞いた時に推測はできていたので落胆はしていなかったが、ミカエラの目には模擬戦闘は「お遊び」にしか見えかなったのである。
とはいえ、ミカエラもそんなことを馬鹿正直に周りに聞こえるようにするほど考えなしではない。
付け加えると、自分が注目をされているという自覚もあったので、きちんと周りには聞こえないように言葉にしていた。
常にフィロメナたちと一緒に行動していると忘れがちになるが、エルフであるミカエラは「エルフは美形である」という噂通りに整った顔立ちをしている。
そのため、あまり森を出ることをしないエルフが歩いているという珍しさも手伝って、ミカエラは会場に入る前から注目を浴びていた。
ちなみに、真っ先に手を出してきそうな冒険者が絡んでこなかったのは、既にミカエラたちのパーティがその実力と共に有名になっているためである。
模擬戦を行っている闘技場から出たミカエラは、ふと不穏な気配を感じて足を止めた。
その気配がどこから感じるのかとグルリと周囲を見たミカエラは、すぐにそのことを後悔した。
ミカエラから見て右斜め後ろにある関係者入り口辺りから、自分を目指して真っ直ぐに向かってくる複数人の男子学生がいたのだ。
彼らのその顔を見れば、目的がなんであるかは考えなくてもわかる。
できれば自意識過剰であってほしいと願うミカエラだったが、残念ながらそうは問屋が卸さなかった。
一度足を止めてしまったミカエラは、もう一度歩き出すのも不自然だと思い、そのまま彼らを待つことにした。
そして、ある程度近づいてきた彼らに、ミカエラは改めて口を開いた。
「なにか用?」
「わざわざ俺たちのことを待っていたのだから、言わなくてもわかっているだろう?」
中心にいた男子学生が笑いながらそう言うのを見て、ミカエラは内心でため息をついた。
勘違いも甚だしいのだが、それを言ったところで通じないことは男の態度を見ればわかる。
さてどう返そうかと一瞬悩んだミカエラは、一度周囲を見てからフッと笑みを浮かべた。
「そう。それじゃあ言わせてもらうけれど、私は勘違い男たちの相手をしている暇はないのよ。悪いけれど、ついてこないでくれる?」
「なっ……!?」
ミカエラが、はっきりきっぱりとお断りすると、男たちの一人が驚いたような声を上げた。
だが、ミカエラの挑発するような言葉に、中央にいた男は余裕の態度のまま言葉を返してきた。
「勘違いか。その態度がどこまで通用するかな?」
「あら。こんなところで実践でもするつもり? 確か学園祭で喧嘩沙汰は禁止されて――――」
いるはずと続けようとしたミカエラだったが、中央の男にはっきりと視線を向けたところでふと既視感を覚えた。
その既視感が、過去どこかで感じたような感覚だと分かったミカエラは、戸惑った表情で男を見た。
「――――あなた、なにを持って…………そう。そういうこと」
その既視感がなにかを確信したミカエラは、納得した表情で頷いた。
勝手に一人で納得した様子になっているミカエラに、男たちは戸惑ったような表情になっている。
ミカエラは、取り巻きたちは完全に無視をして、中央の男を見ながら言った。
「あなたが誰かは知らないけれど、それ以上近づかないことね。私は、精霊を無理やり従える人は嫌いなのよ」
ミカエラのその言葉に、男は少しだけ驚いたような表情を浮かべて、また元の落ち着いたものに戻った。
「ふん。そこまで分かるのであれば、俺がどれほどの強さなのかもわかるのだろう?」
「ええ、勿論。少なくとも、自分が対峙している相手の実力さえまともに見極められないほどの低レベルだということはわかるわね」
ミカエラがそう言い切ると、中央の男は初めてその顔をゆがませた。
「この俺が低レベルだと?」
「怒ったの? でも、事実よね。――もうこれ以上話すことも無いから私は行くわ」
ミカエラは最後にそれだけを言って、男たちに向かって右手をひらひらとさせながら踵を返した。
追いかけられると面倒なので一応待ってはいたが、自分の意思表示はできたのでもう用はない。
中央の男のことは多少気になるが、あまり関わり合いになりたくないというのも本音である。
後ろを着いて来るようであればミカエラもそれなりの対処をしたのだが、男たちが着いて来ることはなかった。
そして再び祭りを楽しみ始めていたミカエラの頭の中からは、十分もしないうちに男たちの存在は消えていたのである。
不穏な気配を感じたミカエラでした。
男が誰かの答え合わせは次話で。
一体、誰かな~。(棒




