(15)シロの活躍
なんだかんだで本格的に学園祭に参加することになったシゲルは、個人屋台の準備を進める一方で研究室の手伝いもきちんと行っていた。
ただ、手伝いとはいっても道具関係は、これまでの伝手などを使ってそろえるためシゲルだけではなくほかのメンバーもほとんどすることはない。
これが新規の研究室だったり、個人でなにかをする場合は色々と駆けずり回る場合も出て来る。
それもそのはずで、学園祭で一気に多くの道具類の貸し出しやら購入が増えるので、一時的に足りなくなることもあるのだ。
昔からの伝手がある場合は最初から用意されているので、そういった手間が省けるのである。
そのためヤコミナ研究室で一番用意するのに手間がかかるのは、やはり商品として出すための肉の確保だ。
学園祭近辺になると同じようなことを考える者たちが多く出て来るので、特に食材の確保には気を使うことになる。
「――というわけで、狩場に来たわけですが……ここが歴代の先輩たちが使ってきた狩場?」
「そういうことだな」
シゲルの問いに、少し前を歩いていたイヴァーノがそう答えながら頷いた。
シゲルたちは現在、アークサンドから馬車で二日ほど離れた森まで遠出をしている。
今回はアマテラス号を使っていないため、シゲルにとっては久しぶりの馬車での遠征だ。
別にヤコミナ研究室の面々を乗せてきてもよかったのだが、せっかくの毎年の恒例行事ということでいつも通りの方法を使うことにしたのである。
わざわざアークサンドから距離がある場所まで来ているのは、やはり近場の狩場は学園祭近辺になると混雑するためだ。
ただし、アークサンド近辺は、下手をすればろくな獲物が取れないこともある。
そのため、ヤコミナ研究室のように遠出できる場合は、敢えてアークサンドから離れた場所で狩りをすることになる。
そして、遠出できる場合とそうでない場合の差は、狩った食材の保存と運搬できる手段があるかどうかというものだ。
ヤコミナ研究室には、昔から代々受け継がれているアイテムボックスがあるために、こうして遠出をして食材を手に入れることができるというわけである。
イヴァーノの返答を聞いたシゲルは、ぐるりと周囲を見回してから最後に視界に入ったシンディーを見て言った。
「それで、狩るのは予定通りにイノシシ?」
「そうなるわね。この辺りは生息数が多いのよ」
シゲルは簡単にイノシシと言っているが、これから狩ろうとしているのはただのイノシシではなく魔物の一種だ。
今いる森では、そこそこの強さで狩ることができるイノシシ種の魔物が狩ることができるのである。
ちなみに、シゲルは今いる森ではなく、別の森でそのイノシシを狩ったことがある。
というわけで、シンディーの答えを聞いたシゲルは、足元を歩いていたシロを見て言った。
「というわけだから、お願いね。シロ」
シゲルがそう呼び掛けると、シロは「ワホ」と答えてから駆け出して行った。
特級精霊であるシロは自ら動き回る必要はないのだが、シゲルと一緒の狩りになるとこうして飛び出して行くのが常である。
そのシロの姿を見送ったシンディーは、少しだけ苦笑しながらシゲルを見て言った。
「話には聞いていたけれど、本当に突っ込んで行くのね。普段の姿からは想像できなかったわ」
「まあね」
シンディーの言葉に、シゲルも苦笑しながら頷いた。
研究室にいるときのシロは、大抵シゲルに撫でられているか、構って欲しいと主張するようにスリスリしているだけなのだ。
戦闘するところはほとんど見たことがないので、シンディーのような感想を持つのは不思議なことではない。
そんな会話をしていたシゲルの元に、シロがいなくなってから五分も経たないうちに一体の精霊が近寄ってきた。
シロとは別に護衛についているノーラが騒いでいないことからも、その精霊がシロの配下だということはすぐにわかった。
「あ、もう見つけて倒したみたいだね」
「「「「はやっ……!」」」」
シゲルの言葉に、ヤコミナ研究室の面々が揃って驚きの声を上げた。
探していたイノシシは、探すのも一苦労だが倒すこともそう簡単にできるわけではない。
それにも関わらず、こんな短時間で討伐まで済ませてしまったというのが信じられない出来事なのだ。
配下の精霊の先導で森の中を進んでいたシゲルたちは、十五分ほどで目的地に着いた。
「――これだけ離れた場所にあの短時間で移動するって、とんでもないなあ」
クリストフが感心したようにそう言うと、その隣を歩いていたヴァレリーがコクコクと頷いた。
シロは、人の足で十五分かかるところを移動してさらに魔物の討伐までしてしまったのだから、二人が感心するのも当然である。
そういえば、契約精霊が戦闘するところを見るのは初めてかとシゲルが納得していると、シロが嬉しそうに駆け寄ってきた。
そのシロを労うように撫でていたシゲルは、ほかのメンバーを見ながら聞いた。
「それで、まだ狩るの?」
「そうだな。この調子なら特定部位だけ手に入れて売ることもできそうだから、あと四、五体ほど狩っておくか」
狩りに時間がかかるようであれば一体だけ狩って、すべての部位を使って売ることも考えていたのだが、シロの狩りの様子を見る限りではその必要はなさそうである。
今回のイノシシはすべての肉が好まれているのだが、特に背中にあたる部位が珍味として知られているのだ。
その部位であればあと四、五体ほど狩れば、学園祭の二日分の食材として賄うのには十分な量になる。
「それじゃあ、次はシゲル――というか、シロは休みだな。俺たちが行く」
「わかったよ」
とりあえず最初の狩りはシロに任せて欲しいとシゲルが事前に言っていたので、今の狩りはシロが行っていた。
ただ、シロだけに済ませてしまうと折角全員で来た意味がなくなってしまうので、交互に狩りをしようということにしたのだ。
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予定通りに全部で五体のイノシシを狩ったシゲルたちは、森から出て入り口に止めておいた自分たちの馬車に乗り込んでいた。
ちなみに、今いる森は冒険者たちにとっては多くの有用な素材が手に入るので、入り口傍には馬車を泊めて置ける有料スペースが用意されている。
勿論、馬車が盗難にあったりしないように監視はしっかりとついている。
シゲルたちは、その有料スペースから馬車に乗り込んで、近くの町へと移動を始めた。
この日は、その町で一泊をする予定になっている。
「それにしても、シロのお陰で随分と早く終わったわね」
「そうだな。予定では明日も一日使うつもりだったのだがな」
シンディーが嬉しそうに言うと、イヴァーノも追随するように付け加えた。
「まあ、いいんじゃないか? その分ほかのことに時間が使えるんだから。シゲルは、個人屋台も出すんだろう?」
クリストフがそう聞いてきたので、シゲルは一度だけ頷いた。
「まあね。でも、準備といってもほとんどすることはもうないんだよね」
「そうなのか?」
「うん。シンディーが随分と動き回ってくれたからね」
材料の調達はともかく、道具の類はシンディーが用意してくれたので、シゲルがすることはほとんどなかった。
お陰でシゲルは、食材の調達を店のおかみさんたちに用意してもらう約束をするくらいで済んでいた。
シゲルの言葉に、シンディーはニンマリとした表情になった。
「ふふふ。シゲルが作るあの料理が、どれくらい売れるか楽しみよねー」
シンディーは、シゲルが出すつもりでいるパスタを既に食べていた。
その上で、絶対に流行ると確信したので、さらに張り切って道具類の用意をしていた。
ちなみに、シンディーがこれだけ張り切って事前準備を手伝ってくれているので、シゲルはきちんと報酬の約束をしていた。
始めは断っていたシンディーだったが、最終的には受け取ることを了承した。
ついでに、当日屋台の売り子として出ることになっている。
そんなわけで、ヤコミナ研究室の面々は無事に当日使う肉を手に入れて、アークサンドへと戻ることができたのであった。
シロは、成長しても相変わらず突進します。
そして、活躍というタイトルにしているにもかかわらず、そのシーンはなし!
※明日の更新はお休みいたします。
次回更新は、5月21日になります。




