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(7)サクラ

 夕食の片づけを終えたシゲルは、自室で『精霊の宿屋』の確認を行っていた。

 遺跡を出てから夕食を終えるまで、なんだかんだ忙しくて、これまで確認する時間が無かったのだ。

 あんな目にあってまで取り込んだ精霊樹の枝が、『精霊の宿屋』にどんな変化をもたらしたのか、あるいはまったく変わっていないのか、少しワクワクしながら画面を開いた。

「えーと、どれどれ……? うーん、少なくとも箱庭自体は何も変わっていない……ってなにこれ?」

 一目見て、少なくとも外観上はなにも変わっていないと思ったシゲルだったが、そんなことはなかった。

 画面の中央に植えてある桜の木に、何やらそこを注目するようなマークがついていたのだ。

 

 そのマークをタップして見ると、画面上にメッセージが出て来た。

『精霊樹の枝を取り込みますか?』

「……なんだ、これ?」

 書いてあることは何となく推測することができるが、なぜこんなことになっているのかがわからない。

 強制イベント的なもので、一度『No』を選ぶと二度と選べないのかもと、ドキドキしながらタップしてみたが、そんなことはなかった。

 

 安心してログを確認してみると、しっかりとあのメッセージが出てきていた理由らしきものが書かれていた。

 それによれば、やはり原因はメリヤージュから貰った枝を『精霊の宿屋』に取り込んだおかげ(?)だった。

 そして、中央にある桜の木に変化が起きているのは、たまたま今の箱庭にある木が桜だけだったために選ばれていた。

 もし、別の木が複数置いてあればどうなっていたのかを確認したかったが、残念ながら今は精霊力もないので調べようがない。

 それよりも、桜の木がどう変化するのかを調べるほうが重要だと考えたシゲルは、ログ画面から戻ってイベント(?)を起こすことにした。

 

 先ほどと同じように桜の木の傍にあるマークをタップしてメッセージを出してから、今度は『Yes』をタップした。

「さて、何が起こる……って、眩し! エフェクト、眩しいから」

 誰もいないのに思わず一人突っ込みをしてしまったシゲルだが、当然ながらそれに答える者はいなかった。

 それはともかく、エフェクト自体は一瞬で終わったようで、シゲルの目の被害もすぐに回復できた。

 

 改めて桜の木を確認してみたシゲルだが、

「うーん……。何も変わった様子はない……って、そんなことないや」

 桜の木そのものには変化が起きていなかったが、メニューにある精霊の項目で点滅しているところがあった。

 そこを確認してみれば、なんと新しい契約精霊が追加されていた。

 どう考えても、精霊樹の枝を取り込んだ桜の木に宿った精霊だと思われる。

 改めてログを確認してみれば、シゲルの想像通りだった。

 

 さらにログには、中央にある桜の木が精霊樹になったことまで記されていた。

「精霊樹の枝を取り込んだおかげで、精霊が生まれて、精霊樹になったということかな? いや、逆か?」

 そのあたりは、ログを見ても明確には書かれていなかった。

 まさしく、卵が先か鶏が先かの議論である。

 

 そんな哲学的な話はどうでもいいシゲルは、早速新しく来た契約精霊に名前を付けた。

「お前は、桜の木の精霊だからサクラだな」

 何とも安直な名前だと言えなくもないが、分かり易いのでシゲルとしてはしっくりくる名前だった。

 それよりもシゲルは、サクラのステータスを確認しながら、その特殊性に頭を悩ませることになった。

 

 まず、一番肝心なランクだが、なんと最初から中級精霊としてのスタートだった。

 それはいいのだが、サクラは特殊な精霊にあたるようで、ほかの四体の精霊に比べて出来ることが少なかった。

 というのは、探索と護衛ができなくなっていたのだ。

 選ぼうと思っても、その項目がグレーアウトしていて、選ぶことができない。

 代わりに、精霊樹管理という特殊なスキルを覚えていて、精霊樹になった桜の木が管理できるようになっている。

 逆に、ほかの契約精霊たちは、桜の木の管理ができないようで、強制的にサクラが管理することになっていた。

 ちなみに、精霊樹管理のスキルは箱庭自体も管理できるようで、強制的に桜の木と箱庭の管理の二体を選ぶようにはなっていない。

 

 

 他の作業が出来ないのは痛いが、強力な精霊が来てくれたと喜ぶべきだとプラスの思考になったシゲルは、ついでに他の契約精霊たちのステータスも確認することにした。

 現在の契約精霊は、サクラを含めて全部で五体だ。

 初期からいる三体の精霊は、ランクは変わらず下級精霊のAランクのままだ。

 桜の精霊樹ができたことでランクアップの条件を満たしたかと甘い考えを持っていたが、残念ながらそう上手くはいかなかった。


 さらに、この三体の精霊は、管理、護衛、探索の時間を同じようになるように指示して来たが、スキル構成には差が出てきている。

 ラグは、調合を始めとした『精霊の宿屋』内での管理よりのスキル、リグは探索を中心とした索敵系のスキル、シロは護衛を中心とした戦闘系のスキルを覚えているのだ。

 この辺りは、個性といってもいいのかもしれない。

 だからといって、別系統のスキルをまったく覚えないというわけではなさそうなので、作業時間を平均化するのを止めるつもりはいまのところはない。

 

 最後に残っているスイは、ランクは下級精霊のEランクのままで、スキルも初期のままだ。

 これはまだ契約したばかりで仕方ないといったところだろう。

「うーん。精霊樹で何か変わったかと思ったけれど、サクラだけだったか」

 少し残念な気もするが、それでもサクラが来てくれたことは大きい。

 それだけでも十分、倒れた価値があったなと、シゲルは思うことにした。

 ところが、精霊樹の枝を取り込んだ効果は、それだけではなかったのである。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 シゲルがその変化に気付いたのは、翌日の朝食の用意をしていたときのことだ。

「ええ~、なにこれ……」

 『精霊の宿屋』の様子を確認していたシゲルは、一目で夜寝る前と違っていることに気がついた。

 慌てて精霊の訪問数を確認してみると、見た目通りに変化していることが分かった。

「訪問数が三倍以上になっているし……」

 昨夜寝るまでは、十体前後の訪問数だったのが、今見ると三十体以上が『精霊の宿屋』を訪ねてきている。

 

 どう考えても精霊樹ができたお陰としか思えなかった。

「うーん。嬉しいといえば嬉しいけれど、こんなに違うもんかね?」

 精霊たちにとって精霊樹がどういう役目を果たしているのかわからない以上、シゲルとしてはこの程度の感想しか持てなかった。

 勿論、精霊樹と名前がついている以上、何か特別な存在だということはわかるのだが、逆に言えば、この程度なのかと思ってしまうのも確かなのだ。

「まあ、まだ一晩しか経っていないし、しばらくは様子見か」

 そう呟いたシゲルに、背後から近寄っていたフィロメナが話しかけて来て驚くことになるのだが、それはまた別の話だ。

 

 

 

 その日の朝食の席で、シゲルは気になっていたことをフィロメナに聞くことにした。

「そういえば、探索メンバーを増やすって言っていたけれど、大丈夫なの?」

「うむ。昨夜のうちに連絡を取ってみたが、感触は良かったぞ」

 フィロメナの家には、遠方にいる相手と会話をするための通信具がある。

 勿論、古代遺跡産の貴重品だ。

 

 笑顔でそう言ってきたフィロメナに、シゲルは内心で安心しながら頷いた。

「そう。それはよかった」

 最悪、メンバーが集まらなければ、自分のせいで調査ができなくなるところだった。

 あるいは、フィロメナが一人で探索をするといったところだろうか。

 シゲルとしてはそれは避けたかったので、ホッと一安心といったところだ。

 

 そのシゲルの様子を見て、フィロメナが小さく首を傾げた。

「うん? 何か不安なことでもあったのか?」

 そう聞かれたシゲルは、一瞬誤魔化そうかとも思ったが、正直に話すことにした。

「いくらなんも、シゲルが見つけた物を、自分ひとりだけで調べるような不義理はしないぞ?」

 若干にらまれながらそう言ってきたフィロメナを見て、シゲルは慌てて手を振った。

「いや、もしかしたらもしかするかなあと、思っただけで、絶対にそうなると思っていたわけじゃないから」

 そんな言い訳になっているような、いないような、微妙な回答をしたシゲルを、フィロメナは少しの間ジッと見ていた。

 とはいえ、そんな状態は長くは続かず、すぐにいつも通りのフィロメナに戻るのであった。

桜のサクラ。

ある意味、定番の名前ですねw

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