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(6)シゲルの復活

 調査を終えて大精霊と会った部屋に戻ったフィロメナは、そこでシゲルが倒れているのを見て、慌てて駆け寄った。

 最初はシゲルがふざけているのかと思ったのだが、傍にいる精霊たちが妙に慌てているように見えたので、そうではないことに気付いたのだ。

「おい、シゲル! 大丈夫か!?」

 むやみに体を揺らしたら駄目だと経験則でわかっているフィロメナは、まず声だけを掛けた。

 だが、反応がまったくないことに焦りつつ、シゲルの右肩に触れてそっと揺らした。

「おい! シゲル!」

「う、ウーン……」

 その甲斐があったのか、わずかにシゲルからの反応が返って来た。

 

 息があることは初めのうちに確認していたので、即座に命の影響があるわけではないとわかっていても、反応があったことにフィロメナはホッと安堵のため息をついた。

 それでもなぜシゲルがこうなっているのかはわからない。

 周りにいる精霊たちがシゲルにのみ注目していることから、魔物が出たわけではないということはわかっている。

 だが、なぜシゲルがこんな状態になったのかは、皆目見当がつかない。

 

 フィロメナが倒れているシゲルを見つけてから数分が経った頃になって、ようやく状況に変化が現れた。

 最初にシゲルの周りにいた精霊たちが落ち着きを取り戻して、そこから数秒も経たないうちに目を開けたのだ。

 そして、フィロメナが目を開けたシゲルに呼びかけようとする前に、身を起こしたシゲルだったが、再びぱたりとその場に倒れた。

「あっ、駄目だこれ」

「だ、大丈夫か? シゲルっ!?」

「あー、心配かけてごめん。命に別状はない……と思うから、もう少しこのままで」

 シゲルはそう言いながら、右手をこめかみに当てた。

 

 その様子を見て、会話をする分には大丈夫そうだと判断したフィロメナは、そっとシゲルに問いかけた。

「何があったんだ?」

「いや、メリヤージュから貰った枝を『精霊の宿屋』に取り込んだらこうなった」

「……は?」

「何か、取り込んだ瞬間、頭の中にものすごい情報量が入って来た感じだったから、容量不足で倒れたんじゃないかな?」

 自分で(頭の)容量不足というのもあれだが、ここで変なごまかしをしても仕方ないので、シゲルは正直にそう言った。

 

 シゲルの説明を聞いて、フィロメナは腕を組みながら少しだけ首を傾げた。

「つまり、あれか? 精霊樹の欠片を取り込んだら、その力が大きすぎて、安全に取り込むために気絶していたと?」

「身もふたもない言い方だけれど、多分それが正解だろうねえ」

 他人事のように返してきたシゲルに、フィロメナは不機嫌な顔を見せた。

「…………あまり心配させるな」

「あー、いや、その…………ごめんなさい」

 まさか木の枝を取り込むだけでこんなことになるとは思わなかったとか、他にもいろいろと言いたかったシゲルだったが、フィロメナの顔を見て言い訳めいたことを言うのは止めた。

 フィロメナに心配をかけたのは紛れもない事実なので、ここでそんなことを言っても仕方ないと思ったのだ。

 それに、素直に心配してくれて嬉しかったというのもある。

 

 ついにやけ顔をしてしまったシゲルを見て、フィロメナが不機嫌な顔のまま睨んできた。

「…………なにをにやけているんだ?」

「あ~、うん。その、心配してくれてありがとう」

「なっ!? そ、それはっ! な、仲間なんだから心配するのは当然だろう!?」

 真っ赤になってそう抗議をしてきたフィロメナを見て、シゲルはますます笑みを深くした。

 ここで下手につついても、逆効果になりかねないと思ったので、シゲルの側から何かを言う事はしない。

 

 赤くなった顔が少し収まったところで、気持ちが落ち着いてきたのか、フィロメナがシゲルに問いかけた。

「それで、少しはよくなってきているのか?」

「ああ、うん。それは大丈夫。もう少ししたらいつも通りに戻ると思うよ?」

 これはフィロメナを安心させるための台詞ではなく、実際に立ちくらみのような症状が軽くなってきていると実感しているからの返答だ。

 先ほどまであった気持ち悪さも、既にまったく無くなっている。

 

 その言葉を証明するように、シゲルは一分も経たずに身を起こした。

「だ、大丈夫なのか?」

 それを見たフィロメナが、少し慌てながらそう聞いて来たシゲルは、軽く頷いた。

「うん。もう大丈夫だよ。立ち上がるのは……少しふらつくけれど、まあ、さっきよりは全然ましかな?」

「そうか。あまり無理はするなよ?」

「大丈夫、大丈夫。それに、少しくらい無理をしたほうが、回復が早そうな気がする」

 シゲルは、にこりと笑って周囲を歩き始めた。

 この時のシゲルは、自分の体調の方に気が向いていて、フィロメナがどういう顔をしていたのかをまったく見ていなかった。


 そのため、フィロメナが安堵と共に、なぜか残念そうな顔をしていたことにはまったく気付いていなかった。

 そして、そのフィロメナはというと、シゲルには気づかれないように胸中で盛大に自爆(?)していた。

(もしシゲルがよければ、膝枕をしてあげたかったなんて、何を考えているんだ、私は!!)


 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 結局、フィロメナの葛藤(?)には気づかないまま、回復したシゲルたちは家に戻ることにした。

 メリヤージュの言う通り、この先は危険すぎて進むのが難しいとフィロメナが主張したのと、遠征の準備を何もしていないので、急いで戻らなければならなかったためだ。

 その甲斐あってか、なんとか日が沈む前には家に戻ることができた。

「今日の夕飯は、手抜きになるけれど、いいよね?」

「それは構わないが、今までも、手抜きだと言われて、そう思ったことは一度もないぞ?」

 シゲルは、これまでも何度か手抜き料理をフィロメナに提供している。

 だが、シゲルにとっては手抜きでも、フィロメナにとってはそうではないようで、そんなことを返してきた。

 

 なにやら良いように操られている気がしなくもないシゲルだったが、そんなことを言われて悪い気はしない。

 適当な材料を使って、簡単に作れるものを用意した夕食の席で、シゲルとフィロメナは今後についての話を始めた。

「それで? あそこから先はどうするの?」

「うむ。大精霊の言う通り、どう考えてもメンバー不足だからな。仕方ないので、追加のメンバーを集めようと思う」

「追加のメンバー?」

 冒険者でも募集するのかと考えたシゲルは、そう言いながら首を傾げた。

 

 そのシゲルに頷きながら、フィロメナが続ける。

「うむ。まあ、心当たりはあるから、そこは私に任せておいてくれ」

「そういうことなら、構わないよ」

 自信たっぷりな顔で言ってきたフィロメナを見て、シゲルはあっさりとそう答えた。

 どのみちシゲルには、ほかに仲良くなっている冒険者などいないので、仲間に引き込むことなどできるはずがない。

 考えられるとすれば、冒険者ギルドで臨時のメンバーを集めるくらいだ。

 

 そんなことを考えていたシゲルは、ふと何かを思い出したような顔になってフィロメナを見た。

「そういえば、古代文明の遺跡って珍しいんだよね?」

 以前フィロメナから話を聞いたときにそんなことを話していた。

 今、暗くなってきている部屋を明るくしている魔道具は、その古代遺跡から見つけた物だということもだ。

「うむ。もし新しい遺跡を見つけることができれば、一攫千金も夢ではないな」

「あー、てことは、下手に広めないほうが良いってことだよね」

「まあ、そういうことだな」

 少し面倒くさそうに言ったシゲルに、フィロメナも真顔になって頷いた。


 フィロメナはともかく、もしシゲルが新しい遺跡を見つけたと言おうものなら、カモにされるのは間違いない。

 貴族が出てくるのも、確定だろう。

「それって、フィロメナが呼ぼうとしているメンバーは、大丈夫なの?」

「安心していい。そのことはきちんと考えているさ。私が頼めば、大抵のことは黙っていてくれるからな」

 フィロメナが確信した様子でそう言うのを見たシゲルは、何となく彼女が誰を呼ぼうとしているのかがわかってしまった。

 それがまた、何となくトラブルの元になるような気がしなくもなかったが、それは考えないことにした。

 

 今のところは遺跡を見つけたといっても、中が空っぽの祠二つと部屋一つだけである。

 その先に何があるかは今のところまだわかっていないが、新たな遺跡が見つかっても森の奥深くにあるのだから大したことはないだろう、と余計なフラグを建てるシゲルなのであった。

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