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精霊育成師の世界旅行 作者:早秋

第2章 きっかけ

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(4)メリヤージュ

 フィロメナは、シゲルと大精霊の会話を驚きながら聞いてた。
 大精霊は、この世界では最も神に近い存在として語られている。
 まず人前に姿を見せることがほとんどなく、あったとしても普通は大精霊に圧倒されて会話するどころか、まともに姿を見ることすらままならないとされている。
 現に、魔王を倒した勇者であるフィロメナでさえ、大精霊の姿に気おされている。
 この世界では、精霊の持つ力は絶対とされ、それは魔族や魔王にとっても同じことである。

 そもそも、自然そのものとされる精霊は人や魔族を区別しない。
 そのため、魔王が出たとしても、大精霊や精霊たちが討伐に動くことはない。
 精霊たちにとっては、世界のすべてを破滅させるという意思が確認されない限りは、同じ世界に生まれた生物という認識しかないと考えられているのだ。
 ちなみに、大精霊の上にはさらに精霊神と呼ばれる存在が、七体いるとされている。
 そこまで行けば神の領域に入るので、「神に近い存在」としては大精霊が一番上になる。
 そんな存在を相手に、シゲルがなんの影響も受けていないように、普通通りに話をしていることが、フィロメナにとっては信じられないことなのだ。

 これも渡り人としての能力のひとつなのだろうか、などとフィロメナが考えていると、そのシゲルが不思議そうな顔をして見て来た。
「フィロメナ、どうしたの?」
 どうしたのじゃないと返したかったが、大精霊を前にそんなことを言っていいのかわからずに、言葉に詰まってしまった。
 それを見たシゲルが、ますます意味が分からないという顔になった。

 そして、その直後に鈴の音のような笑い声が部屋の中に響いた。
「導師、私のような者を前にすれば、普通はそのようになるのですよ。むしろ、しっかりと立っているだけでも、さすが勇者と言えるでしょう」
「はあ、そうなんですか」
 まったく実感がわかないシゲルは、首を傾げた。
「貴方は、その特異な能力があるお陰で、私たちの力の影響はほとんど受けません。いえ、その力がなかったとしても、それは変わらなかったでしょう」
「それは、自分が渡り人だから?」
「そういうわけではありませんよ。貴方自身の持つ力です」
 自分自身の力と言われても、シゲルにはピンとこない。

 首を傾げているシゲルに、大精霊は笑みを浮かべながら言った。
「実感が持てないかもしれませんが、今はそういうものだと理解していればいいと思います」
「はあ」
 大精霊の言葉に、シゲルは微妙な顔になって頷いた。
 説明する気がないのか、あるいは説明されても理解できないからしなかったのか、よくわからなかったのだ。

 それよりも、シゲルは先ほどから気になることがあったので、それを聞いてみることにした。
「そういえば、貴方は大精霊らしいですが、名前はないのでしょうか?」
 大精霊は、大きな力を持っている精霊という意味で、目の前にいる精霊だけを指している言葉ではない。
 それならば、折角会えたのだから名前を知っておきたいと思ったのだ。
「名前、ですか。勿論、あるにはありますが、私たちにとってはあまり他者に教えるべきものではないのですよ」
「えっ? ……ああ、そういうことですか。それはすみませんでした」
 シゲルも、魔法がある世界では、名前を知られるだけで不利になるという話は、いくらでも読んだことがある。
 フィロメナからそう言った話を聞いたわけではないが、そういうことなのだろうとシゲルは勝手に理解した。

 それなら聞かなくてもいいかと納得しかけたシゲルに、大精霊は続けて言ってきた。
「そういうわけですから、折角なので、貴方が名前を付けてみませんか?」
「はい?」
「ただの大精霊と呼ばれるのも寂しいですからね。さあさあ」
 そう促すように言ってきた大精霊を見て、シゲルは困ったような顔になった。
 いきなり名前を付けろと言われても、そんなすぐに思い浮かぶようなものではない。

 この時のシゲルは気付いていなかったが、すぐ横で話を聞いていたフィロメナは、驚愕の表情になっていた。
 それもそのはずで、シゲルは知らないが、精霊のような存在に名前を与えるということは、それだけで栄誉なことなのだ。
 力のある精霊は、どの時代、どの場所においても、その在りようを変えることなく存在し続ける。
 当然、それに付随して名前もずっと人々の間で語られるということになる。
 名付け親として人の歴史に刻まれることになるかは場合によって変わって来るが、少なくとも精霊側にとって忘れられない存在になるのは間違いない。
 だからこそ、大精霊に名前を付けられるというのは、最高の栄誉のひとつとして考えられているのである。
 その名付け親としてシゲルが選ばれたのだから、驚かないはずがなかった。

 そんなフィロメナの様子に気付かないまま、シゲルは小さく首を傾げながら緑の髪を持った大精霊を見た。
「貴方は『木』の精霊ですか?」
「ええ、そうよ。正確には、この森のどこかにある精霊樹の精霊ね」
 さらりと語られた重要な情報に、しかしシゲルはまったく気付かずにスルーしていた。
 そんなことよりも(?)、今のシゲルにとっては、名前を考えることのほうが重要である。

 大精霊の返答を聞いた瞬間、シゲルはふと先日フィロメナから魔法について聞いた話のことを思い出した。
「…………メリヤージュ」
 魔法語で、メリは緑、ヤージュは結びつけるとか結ぶという意味を持っている。
 強引に意味を繋げれば、緑を結びつける者といった感じになるだろう。
 何となく、ただの思い付きで何気なく言った名前だったが、なぜかシゲルには、目の前にいる大精霊にしっくりくる名前だと感じた。

 そのシゲルの呟きをしっかりと聞いた大精霊は、少し驚いたような顔をしてからニコリと笑った。
「メリヤージュですか。良い名前ですね」
 どうやらお許しがもらえたらしいと理解したシゲルは、ホッと安堵のため息をついた。
 安堵の気持ちのほうが勝っていたので、メリヤージュがほんの一瞬見せた驚きの表情については、既に忘れてしまっている。
「そうですか。そう言ってもらえて良かったです」
「フフ。では、折角なので、名前を付けてもらったお礼をさせてください」
 メリヤージュがそう言うと、シゲルは焦ったように手を振った。
「い、いや! そんなつもりでは!」
 流石に大精霊なんて存在から気軽にお礼なんてもらえるはずがない。
 違う世界に来たシゲルにも、それくらいのことはわかる。

 だが、そんなシゲルに向かって、メリヤージュはクスリと笑ってから首を左右に振った。
「いいのですよ。もともと渡すつもりの物でしたから」
「…………はい?」
「導師であるあなたがここに来た時点で、褒美として用意していたものです。素敵な名前を付けてもらったお礼と言うのは、どちらかと言えば口実ですよ」
 そんなことを言ってきたメリヤージュに、シゲルは少しだけ呆けたような顔を向けた。

 そんなシゲルに対してもう一度笑ったメリヤージュは、何もないはずの空中で右手をくるりと回転させた。
 すると、何もなかったはずのその手の中に、一本の小枝が握られていた。
「私にとっては必要のない物ですが、貴方にとっては必要な物ですよね?」
 その枝がなんであるか、わざわざシゲルが口にしなくてもすぐにわかった。
 先ほど当人が言っていた通り、メリヤージュの本体は精霊樹と呼ばれる特別な大樹である。
 であれば、その枝が貴重なものであることは、想像に難くない。
 ついでに、メリヤージュが言った通り、『精霊の宿屋』を持つシゲルにとっては、喉から手が出るほど欲しい物と言えるだろう。

 
 さあどうぞと、さらに差し出してきたメリヤージュに、少しだけためらいを見せたシゲルだったが、結局受け取ることにした。
 話を聞けば、後々腐り落ちるはずの枝で、本当にメリヤージュにとってはいらない物なのだ。
 それならばシゲルに役立ててほしいということまで言われては、断ることもできなかったのである。

「受け取ってもらえてよかったです。それからシゲル」
「はい?」
「出来ることなら、貴方の宿屋を私が入っても大丈夫なほどに立派にしてくださいね。そうしてもらえれば、その枝を渡した甲斐があったというものです」
「あ、はい。何とか頑張ってみます」

 そう答えたシゲルに頷いたメリヤージュは、ここに来てようやくフィロメナへと視線を向けた。
「それからフィロメナ――だったかしら」
「は、はい!?」
 まさか自分の名前が呼ばれるなんて考えていなかったフィロメナは、飛び上がるように返事をした。

 そんなフィロメナを見て一度だけ笑ったメリヤージュは、忠告するような顔になった。
「この先にも進むつもりでしょうが、奥にはAクラスがウロウロしています。今の導師を連れて行くのは難しいと思いますよ?」
 そう言ってきたメリヤージュに、フィロメナはバッと顔を向けて、さらに頭を下げた。
「ご忠告感謝いたします。今回は、無理に進むのは止めておきます」
「そうね。それがいいでしょう。では、私はそろそろ行きます」
 フィロメナに向かって頷いたメリヤージュは、最後にそう言い残して、最初の時とは全く逆にいきなりその場から姿を消した。
 そして、それを見守っていたシゲルとフィロメナは、大きなため息を吐くのであった。
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