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(10)光の大精霊からの依頼

 話を始めた光の大精霊は、シゲルだけを見て話している。

 これは別にフィロメナたちを蔑ろにしているわけではなく、敢えて視線を向けないようにしているのだ。

 そうしなければ、下手をすればフィロメナたちが意識を失ってしまうかもしれない。

 メリヤージュから貰ったアイテムを付けてなお、強大な威圧を感じている今の状態では、そうなってしまう確率のほうが高いのだ。

 光の大精霊は、敢えてそのことを言葉にしていないが、皆が分かっていることである。

 

「手紙にも少し触れましたが、今回来ていただいたのは、私からシゲルへと依頼――いえ、お願いがあるからです」

 わざわざ「お願い」と言い直した光の大精霊に内心で疑問に思いつつ、シゲルは頷いてから応じた。

「調べて欲しいことがあるということでしたが?」

「ええ。単純な名目としては調査依頼ということになるのでしょうか。ただ、場所が場所ですので、依頼というよりもお願いと言い直しました」

 その言い回しに、シゲルははっきりと首を傾げた。

「場所が問題なのですか?」

「そういうことですね」

 シゲルの問いに、光の大精霊は頷きながらそう答えた。

 

 今回の光の大精霊からの呼び出しは、特級精霊が三体もいる自分シゲル自身もそうだが、わざわざフィロメナたちを指名をしている。

 少なくとも人の中では最強のパーティといってもいい自分たちに、わざわざ場所が問題だという理由が、シゲルにはよくわからなかった。

 さらに、そもそも光の大精霊が自ら動かずに、シゲルたちに話を持ってきた理由もわからない。

 大精霊は、ほかの精霊を配下の精霊を従えているのだから、それらを使えばいいのではないかとシゲルが考えるのは当然のことだろう。

 

 そんなシゲルの疑問が顔に出ていることに気付いたのか、光の大精霊はシゲルがなにかを言うよりも先に言葉を続けて言った。

「そこは、私たちではなかなか進むことができない場所になります。ああ、あなたの契約精霊であれば問題はありません。宿り木でもある『精霊の宿屋』が一緒に着いていきますから」

 大精霊がいけない場所にラグたちが行けるのかと不思議に思ったシゲルが問いかけるよりも先に、光の大精霊が先手を打ってきた。

 ただし、大丈夫だということは分かっても、その理由はよくわからない。

 宿り木という表現は以前にも他の大精霊から聞いた記憶はあるが、シゲルはそれがどういう意味を持つかまでは知らないのだ。

 

 一瞬聞くかどうかを悩んだシゲルだったが、この機会を逃せばまたいつ聞けるか分からないと考えて聞くことにした。

「その宿り木という意味が分からないのですが……?」

「それはそうでしょうね」

 あっさりとそう言いながら頷いた光の大精霊に、シゲルは思わず内心で「おい」と突っ込んでいた。

 勿論、きちんと自制をして実際に口に出すことはしなかったが。

 

 だが、そんなシゲルの思いはしっかりと見抜いたのか、光の大精霊はくすくすと笑いながら続けて言った。

「申し訳ございません。少し揶揄ってみたくなりました」

 光の大精霊は、そう言いながら最初に会ったときとはまったく違って悪戯を仕掛けたような表情を浮かべた。

「そうですね。この場合の宿り木とは、いつでも帰ることができる場所という意味がありますが、本来はいくつもの意味があるのですよ」

「……というと?」

「それこそ口では説明できないほどです。休憩場所だったり、寄り道する場所だったり、寝床だったり……本当に一言では説明できるものではありません。その時々によって変わるものですから」

 別に、一つの意味として「宿り木」という表現を使っているわけではないというわけだ。

 光の大精霊の説明で、そのことをようやく理解したシゲルは、なるほどと頷いた。

 

 納得した表情を浮かべているシゲルを見て、光の大精霊はさらに続けて言った。

「――話が逸れてしまいましたね。それで、あなたたちに確認して欲しい場所ですが、とある封印がされているさらに奥の場所になります」

「封印……?」

 そう光の大精霊に問いかけたのは、これまで威圧で話すことができていなかったフィロメナだった。

 今までの時間で、どうにか一言くらいは口を開けるようになったのだ。

 ちなみに、ほかの面々は未だに話を聞いているだけで精一杯という表情をしている。

 

 フィロメナが疑問を投げかけたことに、シゲルだけではなく光の大精霊も驚きの表情を向けた。

「これは驚きました。流石、勇者というべきなのでしょうか。――いえ、それは今は良いですね。その通りです。私たちでは通り抜けることができないようになっている封印です」

「貴方のような存在がいけない場所となると、私たちでも無理なのでは?」

 そう聞いたのはフィロメナだけではなく、シゲルだった。

 

 そのシゲルの問いに、光の大精霊は首を左右に振ってから答える。

「その封印は、どちらかといえば私たちのような精霊を通さないようになっているのです。だからこそ、『精霊の宿屋』を持っているあなたとあなたの契約精霊が必要なのです」

「なるほど。そういうことですか」

 ようやく光の大精霊が言いたいことが分かって、シゲルはそう答えながら頷いた。

 

 シゲルたちは入れても、精霊たちが入れないような封印があるということはわかった。

 ただし、そんな特殊な封印の先に、なにが封じられているのかという話はまだ聞いていない。

 そもそも、なぜ精霊が入れないようになっているのかという疑問も解けていない。

 

 シゲルがその疑問を口にするよりも先に、光の大精霊が続けて言った。

「その先になにがあるかはここでは言えません。それを口にしてしまえば、折角の封印が緩んでしまう可能性がありますから」

 先手を打ってそう言ってきた光の大精霊に、シゲルはため息をついた。

「一応確認しますが、危険なところなのですね?」

「正直なことを言えば、安全であるとは言い難い所です。そのために、わざわざ皆様に集まって貰ったのですから」

 隠すつもりはないという顔で、光の大精霊はあっさりとそう答えた。

 

 危険性があることを事前に教えて貰えることはありがたいが、シゲルには一つ疑問が浮かんだ。

「それを聞いて、自分たちが話を断るとは考えなかったのですか?」

「勿論、それもあり得ると理解した上で話をしています。ここで『お願い』を断られたとしても、今すぐにどうこうなるわけではありませんから。その封印になにか起こるとしても、何百年も先のことですよ」

 さすがに大精霊ともなると時間の感覚が自分たちとは違うと一瞬考えたシゲルは、光の大精霊を見ながら未だに感激した表情を浮かべているミカエラを見て、すぐにその考えを改めた。

 長寿であるエルフであれば、何百年と言われれば身近な……とは言わないまでも、近しい未来と考えてもおかしくはない。

 

 それはともかくとして、今の光の大精霊の話で、その封印が今すぐになにか悪いことを起こすというわけではないということは分かった。

「それでは私たちが行く理由は?」

「あくまでも、封印の中がどうなっているのかの確認だけです。私たちでは確認ができないので」

 封印の中を見てきて帰ってくればいいと主張する光の大精霊に、シゲルは首を傾げて見せた。

 そもそもなにが封印されているのか分からない状況で、さらになにを確認するのかがわからないのだ。

 

 そのシゲルの戸惑いがわかったのか、ここで黙って話を聞いていたメリヤージュ口を開いた。

「シゲル、貴方たちはその封印の先になにがあったのか。それを確認してくるだけでいいのです。事前にこちらから情報を伝えてしまえば、その情報のお陰で違って見える可能性もあるのです」

 要するに、見たままを伝えてくれればいいのかと理解したシゲルは、ここで視線をフィロメナたちに向けた。

 いくらなんでも光の大精霊から安全ではない場合もあり得ると断言する場所に行くのに、自分一人で決断していいわけがない。

 だが、今のフィロメナたちの状態は、正常に判断できるようには見えなかった。

 

 そのシゲルの考えが伝わったのか、光の大精霊は一度頷いてから言った。

「とりあえず、私たちからの『お願い』はこれですべてです。あとは、あなたたちが判断してくだされば、よろしいです。結果に関しては、また明日聞くということでいかがでしょうか?」

「そうですね。それでお願いいたします」

 光の大精霊から返事は明日でいいと言ってきたので、シゲルはこれ幸いとその提案に乗ることにした。

 いずれにしても、正常な状態のフィロメナたちと話をする必要がある。

 

 シゲルの答えを聞いた光の大精霊は、「それでは、今回はこれで」とだけ言って姿を消してしまった。

 そして、それを見送ってからフィロメナたちを確認したシゲルは、彼女たちが大きく安堵の溜息をつくのをしっかりと目撃するのであった。

ほかの四体の大精霊はまだ残っているぞー。

――というシゲルの突っ込みも、この後きちんとされています。

というか、次話はその残りの大精霊たちとの話の続きです。(ちょっとだけ)


※明日の更新はお休みさせていただきます。

次話は3月27日更新になります。

m(__)m

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