(9)異常事態?
翌日、シゲルたちは予定の時間より少し前にメリヤージュのいる公園に向かった。
普通は結界に守られて入ることはできないのだが、シゲル――というよりもラグがいるので、今は問題なく進むことができた。
そして、慣れているシゲルに従って公園の中央に向かうと、そこではすでにメリヤージュが出現して準備を整えていた。
今回は、いつもと違って、どこから用意したのか全員が座れる椅子とテーブルまできちんと用意されている。
「皆さま、ご苦労様です。きちんとアイテムは使っているようですね」
シゲルを除いた他の面々を見回したメリヤージュが、確認するようにそう言ってきた。
「わざわざ醜態をさらすわけにはいきませんので」
フィロメナが代表してそう答えると、メリヤージュは「そうですか」と言って頷いていた。
アイテムを用意した方もされた方も、なにも対策せずに光の大精霊の前に出た場合にどうなるかは、簡単に想像ができている。
だからこそわざわざアイテムを用意したのだし、きっちりと使用したのである。
今のやり取りは、どちらかといえば確認のようなものだった。
「それで、自分たちはどういう風に座ればいい?」
用意された円形のテーブルと椅子を見ながらシゲルがそう聞いた。
精霊が上座とかを気にするとは思えなかったが、それでもなにかの習慣とかがあると困るので、先に聞いておいたのだ。
他の面々が勝手に座ろうとせずに動いていないのには、そういう理由もある。
シゲルの問いの意味をしっかりと理解しているのか、メリヤージュは首を左右に振りながら答えた。
「特にどこにということはありませんよ。ただ、一つだけは空けておいてください。そちらにあの方が座りますから」
「うん? ということは、メリヤージュは?」
シゲルがそう聞いたのは、自分たちともう一つ分しか椅子が用意されていなかった為だ。
「私は立っているので、気にしなくても大丈夫ですよ」
あっさりとメリヤージュがそう答えると、ほかの面々は動揺したような表情になった。
その雰囲気を感じ取ったシゲルは、言いづらそうな顔になりながらメリヤージュに聞いた。
「ええと、要するに、メリヤージュを差し置いて、自分たちは座って話をしろということ?」
「そうなります。それに立っているのは私だけでは…………おや。もう来られるようですね」
なにやら聞き捨てならないことを言い出そうとしたが、シゲルがそのことについて突っ込むよりも先に、メリヤージュがなにかに気付いたかのようにそう言った。
シゲルには分からなかったが、傍にいたラグにもそれが分かったのか、上空を仰ぎ見ている。
もっとも、シゲルたちには光の大精霊がどうやって来たのかは最後まで分からなかった。
シゲルが以前会ったときと同じように、光の大精霊はいきなり目の前に現れていた。
それと同時に、シゲルの横に立っていたフィロメナから、うめき声のような音が漏れてきた。
「――――なるほど、これは凄まじいな」
「……大丈夫?」
光の大精霊がいるのに、シゲルは挨拶するよりも先に、そちらに注目してしまった。
見れば、フィロメナだけではなく、ほかの面々も苦しそうな表情を浮かべている。
そんなシゲルの心情を分かっているのか、光の大精霊は特に気にした様子もなく、少しだけ困惑した表情になって言った。
「申し訳ございません。これでも前回よりは気を使って出てきたつもりなのですが……」
光の大精霊が言ったとおりに、シゲルにとっては前回よりも感じている威圧はましになっている。
それでもやはりフィロメナたちにとっては、凄まじい威圧として感じてしまうものだった。
これでメリヤージュが用意したアイテムがなければ、確実に全員が気を失っていただろう。
シゲルと光の大精霊がどうするべきかという表情を浮かべると、助け舟を出すかのようにメリヤージュが言った。
「このままでは話が進みませんから、まずは座られてはいかがでしょうか? それで、幾分かはよくなるかと思います」
「そうですね。そうしましょう」
メリヤージュの提案に乗るように、光の大精霊がそう言って頷いた。
そして、自分が先に座らなければ駄目だと判断したのか、さっさと出現した場所の目の前にあった椅子に座ってしまった。
そのやり取りを見ていたシゲルは、フィロメナたちに視線を向けた。
「まずは座ってしまおうよ。……大丈夫?」
今の様子で動くことができるかを心配しての問いだったが、フィロメナはすぐに頷いた。
「正直なところ、早く座りたいというのが本音なので、ありがたい」
半分冗談のような言い方だが、光の大精霊を前にしてそれだけのことを言えるということは、まだ余裕があることがうかがえる。
それが分かったシゲルは、ほかの面々にも視線を向けたが、皆一様に頷いていた。
それを見て大丈夫だと判断したシゲルは、頷き返して自分が光の大精霊の正面に来るように座った。
それが、一番フィロメナたちの負担が少ないだろうと考えてのことだ。
もっとも、テーブルが円形なので、光の大精霊の両隣に来る者も出てくるが、多少隙間ができているのでそこは我慢してもらうしかない。
そのうちの片方には、率先してフィロメナが向かっていた。
そして、逆側には一番駄目そうなミカエラが自ら進んで座っていた。
言葉はなかったが、そこには自分が座るという気迫がシゲルにも感じられた。
それを見ていたシゲルは、一瞬大丈夫かと思ったが、変に茶々を入れるとまた話が進まなくなりそうだったので好きなようにさせることにした。
他の面々も同じ気持ちだったのか、特に突っ込むことはなく、全員が椅子に座ることになった。
全員が着席するのを確認して、立ったままのメリヤージュが光の大精霊を見ながら言った。
「準備ができたようなので、ほかの者たちもお呼びしますか?」
「そうですね。お願いします」
シゲルたちは「他の者たち?」と内心で首を傾げたが、光の大精霊は最初から分かっていたのか、すぐにそう答えた。
そのやり取りの後、メリヤージュはシゲルたちのことは構わずに、なにやら空の方を見ながら無言になった。
そして、その数秒も経たないうちに、また状況に変化が起こったのだ。
その変化に、そんなことが起こるとは予想すらしていなかったシゲルが、驚いた顔になった。
フィロメナたちは、驚きを通り越して顔を白くしている。
それはそうだろう。
なにしろ一体でも会えるのが稀だと言われている大精霊が、さらに三体も同時に現れたのだ。
逆に、フィロメナたちだからこそ、その程度で済んでいるともいえる。
シゲルは、新たに現れたディーネ、エアリアル、イグニスを見ながら代表して口を開いた。
というよりも、今この場でまともに話ができるのは、シゲルしかいない。
「最初から普通ではないと思っていましたが、一体なにがあるのですか?」
「驚かせてすみません。ですが、今回はどうしても皆が揃っているところで話がしたかったものですから」
シゲルの問いに、正面に座っている光の大精霊がそう答えてきた。
ちなみに、新たに表れた三体の大精霊たちは、当然のように立ったままだ。
それでもフィロメナたちが席を譲ろうとしないのは、五体もの大精霊が同時に揃ったという衝撃が強すぎて、まともに立つことすらできないためだ。
光の大精霊の言葉に、シゲルは首を傾げながら聞いた。
「皆がというのは、私が契約をしたという意味ですか?」
「そうですね。そうなります。ただ、土に関してはどうしても外には出てこられないようなので、諦めてもらいました」
光の大精霊がそう言うと、シゲルはすぐにグラノームの姿を思い出した。
出会ったときにはどうにか洞窟の外に出られる方法を探すと言っていたが、未だに見つけられていないようだった。
もしその方法が見つかっていればグラノームもこの場にいたのかと理解したシゲルは、真剣な表情になって光の大精霊を見た。
「さすがに、これだけ揃うと大事が起こっているということは分かるのですが、どういうことですか?」
「そうですね。では、今回わざわざ来ていただいた理由をお話ししましょう」
もう一度同じような質問を繰り返したシゲルに、光の大精霊はそう前置きをしてから話を続けるのであった。
約一名を除いて、これまで出会った大精霊大集合の図でした。




