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(8)前準備

 光の大精霊から手紙を受け取った翌日、シゲルたちは予定通りに魔の森の遺跡へと向かった。

 アマテラス号を遺跡のすぐそばに停める許可はメリヤージュから貰っているので、最初の頃と違って戦闘は行わずに済んでいる。

 そして、遺跡の中に入ったシゲルたちは、いつもの拠点に落ち着いていた。

「――それで? このあとはどうするのだ?」

「いや、どうすると言われてもね。手紙に書かれているのは明後日なんだから、それまでは自由でいいんじゃない?」

 シゲルが首を傾げながらそう答えると、そのほかの全員から同意する声が上がった。

 最初に口を開いたフィロメナも元からそのつもりだったのか、特に反対する様子はなかった。

 

 今回は調査目的で来ていないので、特にこれといった探し物があるわけではない。

 とはいえ、特にフィロメナにとってはお宝が多い場所なので、森の遺跡は時間を潰すのにはもってこいの場所だ。

 ということで、一度は拠点に入ったシゲルたちだったが、すぐにその場で一度解散となった。

 そして、それぞれが思い思いの場所へと向かった。

 

 そんな中でシゲルがなにをしていたのかといえば、メリヤージュの許可を貰って町の中央にある公園部分を観察していた。

 『精霊の宿屋』の中にも同じように公園を設けているシゲルにとっては、参考にするべきところが多々あるのだ。

 ましてや、この公園を管理しているのは木の大精霊であるメリヤージュなので、精霊たちにとっては過ごしやすい環境になっている。

 そのため、『精霊の宿屋』で使えそうな技法(?)は、いくらでも見つけることができる。

 

 そんな公園の中を護衛であるラグやスイと一緒にあーだこーだ言いながら歩いていたシゲルは、ふと気配を感じて後ろを振り返った。

 その相手がわざと気配を感じさせたということは、振り返る前からすぐにわかった。

「メリヤージュ、なにかあった?」

「いえ。本来であれば、皆が集まっているところでもと考えていたのですが、お二人が面白そうな会話をしていたので、つい出てきてしまいました」

 シゲルたちは、ただ単に感心しっぱなしで公園内を歩いていたわけではない。

 時にはここはどうなんだろうとか、こうしたらどうだろうとか、場合によっては批判的にとられかねないことを話していたのだ。

 

 公園の主であるメリヤージュのおひざ元でそんな話をしていたと改めて思い出したシゲルは、少しだけ慌てながら頭を下げた。

「す、すみません。文句を言うつもりはなかったのですが……」

 シゲルがそう言うと、メリヤージュは一瞬キョトンとした表情になってからすぐにクスリと笑いながら右手を軽く振った。

「別に嫌味というわけではないのですよ。本心からそう思っていたのです。特に、その子の意見はなかなか参考になります。私ではどうしても属性に寄った見方になってしまいますから」

 メリヤージュは、その子と言いつつスイを見た。

 

 今いる公園にも水場――というか小川が通っている。

 その小川について、スイはあれこれと意見をしていた。

 メリヤージュは大精霊とはいえ、あくまでも木の精霊なので、水の精霊の視点からの意見は非常に参考になるのだ。

 メリヤージュが続けてそう言うと、スイは恐縮したように身を縮めていた。

「せっかく褒めてくれているんだから、もっと堂々と……するのは無理としても、そんなに縮こまらくてもいいと思うよ?」

「その通りです」

 シゲルが苦笑しながらそう言うと、メリヤージュがすぐに頷きながらそう言ってきた。

 

 スイは、メリヤージュの言葉で多少の緊張は取れたのか、縮こまった体はいつも通りに伸びていたが、それでもやはり緊張はしているのかラグに寄り添って袖をつかんでいる。

 それを見つけたシゲルは、苦笑をしつつも気になったことがあってメリヤージュを見た。

「皆が集まったところでなにを話すつもりだったの? 今、自分がそれを聞いてもいいのかな?」

「勿論構いません。絶対に、全員がいるところで話さなければならないというわけでもありませんから。――――まずは、これを」

 メリヤージュはそう言いながら、なぜか右手をラグへと差し出した。

 

 それを見て、ラグは戸惑ったような表情をしてからシゲルを見た。

 メリヤージュがなにかを渡して来ようとしているのは分かるが、それを受け取っていいのかを確認したのだ。

 そのラグに向かって頷きつつ、シゲルはメリヤージュに聞いた。

「それは?」

「明日は皆さまが揃っていますが、あの方が出てきた時点で倒れられても困ったことになりますから」

「ああ、なるほど」

 メリヤージュの説明に、シゲルは納得した表情で頷いた。

 シゲルでも光の大精霊に会ったときには、かなりの威圧を受けていた。

 メリヤージュたちに会ったときでさえ、下手をすれば倒れ込みそうになっていたフィロメナたちにとって、必要なアイテムということだろう。

 

 メリヤージュがラグにそれを渡そうとしているのは、精霊にしか触れられないものだからだ。

 本人たちに了承を貰ってラグがそれをそれぞれに使用すれば、威圧を抑えることができるというのがメリヤージュの説明だった。

「――とはいっても、気分だけで倒れられることまでは、押さえられないですが」

 最後にそう付け加えてきたメリヤージュに、シゲルは苦笑を浮かべた。

 約一名、そうなってしまいそうな者がいるということは、一々名指しで言われなくてもわかる。

 

 光の大精霊からの手紙のことを知ってから妙に張り切っているミカエラの姿を一瞬思い出したシゲルは、首を左右に振りながら言った。

「とりあえず、本人には気をしっかり持っておくように言っておくよ。……話の内容が耳に入らないかもしれないけれど、それはこっちで後からフォローをしておきます」

「そうですか。まあ、それが一番なのでしょうね」

 シゲルの言葉に、メリヤージュはそう答えながら頷いた。

 一番もなにも、そうすることしかできないだろうというのがシゲルの本音なのだが、それを口にすることはしない。

 それに、メリヤージュであれば、わざわざ言葉にしなくてもきちんと伝わっているはずだ。

 

 これ以上ミカエラのことについて話をしていても仕方ないと考えたシゲルは、ラグの手の中にあるアイテムを見ながら聞いた。

「使い方は聞かなくても大丈夫かな?」

「はい。問題ありません」

 シゲルの問いに、ラグはすぐに頷きながらそう答えた。

 実はメリヤージュがラグに渡す際に、精霊同士の音にならない会話で使い方をきちんと聞いていたのだ。

 

 それなら問題ないかと頷くシゲルに、メリヤージュが期待するような表情になりながら言った。

「それでは、この公園についての話をもっとしましょうか」

 それに頷いたシゲルは、視界の端で未だにラグの袖をつかんだままだったスイが、少しばかり顔を強張らせたことに気付くのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 少しくらいはスイも慣れてくれればと思いつつ公園内を回ったシゲルたちだったが、結局最後まで慣れることはなかった。

 ラグたちが初めてメリヤージュと会ったときは、こんなことになっていなかったよなあと内心で首を傾げていたシゲルだったが、別にメリヤージュと話をしているからこその緊張ではなかった。

 要するに、自分の意見に大精霊であるメリヤージュから色々言われることに緊張していたのだ。

 絵面としては、世界的に名の知れている大学教授を相手に講義をしている学生の図、といったところだろう。

 

 それはともかく、拠点に戻ったシゲルは、早速メリヤージュから聞いた話をフィロメナたちにした。

「なるほど。きちんと対策はしてくれるのか」

 シゲルから話を聞いていた時点で、光の大精霊からの威圧に耐えられるか不安があったのか、フィロメナがそう言いながら頷いた。

 勿論、メリヤージュからのアイテムは、既に全員が使うようにと了承した。

 その返答を聞いて、ラグが一人一人にメリヤージュから貰ったアイテムを使っている。


「――これは、特になにも起こっていないようだけれど?」

 首を傾げながらそう聞いたマリーナに、ラグは小さく頷いた。

「はい。なにか体感できるような効果が出るわけではありませんから」

「なるほど。そういうことね」

 ラグの返答に納得して、マリーナがそう応えた。

 

 マリーナは、特に効果について疑っているわけではない。

 そもそも大精霊の威圧に耐えられなくなって困るのは、精霊側にもあるのだ。

 それが分かっていて、敢えて効果のないアイテムをわざわざ渡してくるとは思っていないのだ。

 ついでに、自分たちに害をなすような物であることは、最初から考えていない。

 

 ラグがそれぞれにアイテムを使っていくのを見ながら、シゲルは最後に首を傾げることになった。

「――あれ? 自分の分は?」

「シゲル様には必要ないだろうと、大精霊様が」

「ああ、そう」

 自分だけ省かれたと一瞬考えたシゲルだったが、メリヤージュがわざわざそんなことをするわけがないかと、すぐにそう言って頷き返すのであった。

メリヤージュからアイテムを貰ったという一文だけで済むところを、長々と書いてしまいました。

……たまにはいいですよね?

(割といつものことでは、という突っ込みは受け付けません)

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