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(7)大精霊からの使者

 それは、シゲルが自室のベッドの上に寝転がりながら『精霊の宿屋』の微調整をしていた時にやってきた。

 護衛についていたシロが、画面に集中していたシゲルの肩をちょいちょいと右前足でつついてきた。

 最初は構って欲しいのかと適当に対応していたのだが、いつもと雰囲気が違ったので、画面から視線を離してシロを見た。

 すると、そのことに気付いたシロは、部屋の窓に向かって視線を向けた。

 その視線を追ったシゲルは、そこに見たことがない精霊がいることに気付いた。

 『精霊の宿屋』に向かう精霊であればわざわざ姿を見せることがないので、シゲルに用事があるということはすぐにわかった。

「あれ? どうしたの?」

 シゲルがそう問いかけると、その精霊はすいと右手を差し出してきた。

 

 その右手を見ると、なにか手紙のようなものが握られていることが分かる。

「それを読めばいいの?」

 精霊がコクリと頷くのを確認したシゲルは、手紙を受け取って読み始めた。

「――とりあえず、分かったって伝えておいて」

 シゲルがそう言うと、その精霊はコクリと頷いて姿を消した。

 

 それを見送ったシゲルは、もう一度手紙の内容に目を通してから小さくため息をついた。

「うーん。トラブルの予感……かな?」

 そう呟いたシゲルに向かって、シロがぐいと頭を持ち上げながら小首を傾けるのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 シゲルが手紙をもってリビングに出ると、そこではミカエラとラウラがなにかの会話をしていた。

 といっても真面目な話ではなく雑談だったのか、ラウラがすぐにシゲルに気付いて視線を向けてきた。

「シゲルさん。なにかありましたか? 夕食まではまだ時間がありますが……?」

「ああ……いや、うん。光の大精霊からなんか知らせが来た」

 シゲルが微妙な顔になってそう言うと、ミカエラががたりと音を立てて立ち上がった。

「ひ、光の……って!?」

「割と大事なはなしっぽいよ?」

 シゲルが、貰った手紙をひらひらさせながら見せると、ミカエラが素早い動きでそれを取った。

 最初から渡すつもりで見せたので、シゲルは苦笑しながらそれを見ている。

 

 ただし、その手紙を見たミカエラの答えは、シゲルにとって予想外のものだった。

「……読めないわ」

「え?」

「だから、私が見ても真っ白でなにも書かれていないの」

 ミカエラがそう言うと、すっとラウラにその手紙を差し出した。

 

 首を傾げつつそれを受け取ったラウラは、手紙の裏表を確認してから頷いた。

「確かに、なにも書かれていませんね」

「あ、あれ……? ……書かれているんだけれど?」

 慌ててシゲルがラウラから手紙を受け取って中身を確認すると、丁寧に書かれた文字がしっかりと目に入ってきた。

 

 シゲルの言葉に、ラウラが少し考えるような表情になってミカエラを見た。

「シゲルさんにしか見せないようになっているのでしょうか?」

「恐らくそうでしょうね。どうやっているのかは分からないけれど」

 魔法を使えばできるのではと思いがちだが、少なくともミカエラもラウラもそんな魔法があることは知らない。

 魔法は、色々とできるようで、実際にはできないことも多々あるのだ。

 単に、この世界での魔法のバランスが、シゲルの知っているそれとは違っているというこどもあるのだが。

 

 とにかく、光の大精霊から来た手紙が、シゲルだけに読めるように書かれていることだけは間違いようのない事実である。

「それで? なんて書かれているの?」

「うん。なんか、調べて欲しいことがあるからメリヤージュのところに来て欲しいって。皆も名指しで書かれているよ」

「すぐに行きましょう!」

 シゲルの言葉に、ミカエラは慌てた様子で立ち上がりながらそう言った。


 そうなるであろうことを予想していたシゲルは、落ち着くように右手を上下させながら言った。

「まあまあ。まだ時間はあるから。きちんと指定されているし」

「……へ? そうなの?」

「うん。明後日の昼頃どうですかって」

 遺跡に行くだけならアマテラス号を使ってすぐに行けるので、そんなに慌てる必要はない。

 大精霊と話をしに行くだけならば、明後日の朝に出発すれば十分である。

 もっともシゲルは、どうせ遺跡に行くなら調査も含めて余裕をもって行こうと(フィロメナ辺りが)言い出すことも予想している。

 

 シゲルの答えを聞いて安堵したように座り込むミカエラを見て、その後シゲルに視線を向けてきたラウラが、少しだけ首を傾げた。

「明後日ですか。急ぎの用事ではないのですね」

「だろうね。もし急ぎだったら通信でも使ってくるだろうし」

 精霊同士は、魔法の通信を使って遠方でもやり取りができる。

 遠距離になるほど精霊のランクが高くないと駄目だが、シゲルの傍には常に特級精霊が付いているので問題ない。

 

 

 シゲルたちがそんな会話をしていると、ちょうど作業の区切りがついたのか、フィロメナが作業部屋から出てきた。

「うん? なにかあったのか?」

 三人が微妙に難しい顔をしていることに気が付いたのか、フィロメナが首を傾げながらそう聞いてきた。

「いや、実は――――」

 そう前置きをして、シゲルは光の大精霊から手紙を貰ったことを話した。

 勿論、期日についても先に伝えてある。

 

 シゲルから話を聞き終えたフィロメナは、顎に手をやりながら何度か頷いた。

「なるほどな。だからミカエラがこんなことになっているのか」

 こんなことといいながら、フィロメナはやる気を出しているミカエラを指してそう言った。

「まあ、そういうことだね」

 シゲルとしても、苦笑しながらそう答えることしかできない。

 大精霊が絡むとミカエラがやる気を出すのはいつものことなのだ。

 

 フィロメナは、シゲルの答えに頷きつつ、腕を組みながら言った。

「まあ、森の遺跡に行くのは大前提として、いつ行く?」

「あ、やっぱりそうなるんだ」

「それはそうだろう。マリーナも断らないと思うぞ?」

「私がなんだって?」

 フィロメナの言葉に応答するかのように、今までいなかったはずのマリーナの声がリビングの端っこから聞こえてきた。

 そちらにはマリーナの部屋がある二階に上るための階段室への出入り口があるのだ。

 

 聞けばマリーナは、リビングから自分を除いた全員の声が聞こえてきて、なにやら雑談とは違った話をしてそうだったので、わざわざ読書を中断して出てきたそうだ。

「少しうるさかったかな?」

 ごめんと続けて謝ったシゲルに、マリーナは右手をひらひらと振った。

「いいのよ。それよりも、なにがあったの?」

 マリーナがそう聞いてきたので、シゲルはもう一度大精霊からの手紙について話をした。

 

 シゲルの話を聞き終えて、マリーナがミカエラを見ながら一言。

「ああ、それでミカエラがこんななのね」

「ちょっと……!?」

 フィロメナとまったく同じ反応を示したマリーナに、さすがにミカエラが抗議の声を上げた。

「なにか?」

「いえ、なんでもありません」

 もっともその抗議は、マリーナから静かにそう聞き返されて、あっさりと萎んでしまっていたが。

 

 マリーナは、そのミカエラを見てクスリと笑ってから、今度はシゲルを見た。

「それで、フィーが言った意味も分かったわ。確かに、私も断らないわね」

「そうだろうな。それで? 問題はいつ行くかだが」

 光の大精霊からの要請なので、断ることは端から考えていない。

 ただ、微妙に時間があることも確かなのだ。

 

 今から遺跡に行って調査をしても良いし、ギリギリ明後日の午前中に向かっても十分に間に合う。

 シゲルがそう話すと、ミカエラが勢いよく言った。

「それは駄目よ! どんなに遅くても明日の夕方には着くように行くのよ!」

「――だ、そうです」

 シゲルが少しだけ苦笑しながらそう言うと、ミカエラを除いた他の面々も似たような顔で頷いていた。

 

 結局その後の話し合いで、今すぐに遺跡で調べなければならないこともないということで、森の遺跡に向かうのは翌日の昼からということに決まったのである。

連絡にきっちりと手紙を使う律義な光の大精霊でした。


※「精霊育成師」が日間ランキング12位まで浮上しました。

ブックマーク、評価をしてくださる皆様のお陰です。

ありがとうございます。

m(__)m

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