(5)久しぶりの契約
ラグと話をした時点では、ほぼ契約精霊を増やす決断をしていたシゲルだったが、数日待ってもらったのには訳がある。
といってもそこまで大した理由ではなく、精霊が増えることによって今いる契約精霊と触れ合える時間が目減りしてしまうので、そのための時間を設けたのだ。
新しい契約精霊を増やすまでに、必ず護衛をするようにしたのである。
そのシゲルの気遣い(?)が分かっているのか、契約精霊たちは嬉しそうに護衛についていた。
ちなみに、初期精霊三体に関しては必ず順番に着くようにしているので、今後もシゲルの護衛の時間が目減りすることはないはずである。
その初期精霊のうちの一体であるリグが護衛に着いた時、いきなりこんなことを言い出してきた。
「そういえば、シゲル」
「なに?」
「光と闇の精霊も候補に来ているみたいだけれど、契約精霊として取る気はある?」
リグのその言葉を聞いて、シゲルは目をパチクリとさせた。
「あれ? 光と闇は単独で存在しているのは珍しいんじゃ……なくて、まだ取るって言っていないんだけれど?」
シゲルがラグに言ったのは「前向きに検討する」ということだけで、正式に取ると言ったわけではない。
シゲルの言葉にわずかに責める口調が混じっていることに気付いたリグが、右手をパタパタと振りながら答えた。
「そうじゃないわよ。ラグから聞いたのでしょう? 前から問い合わせが多かったって。その中に光と闇もいるってこと」
「ああ、なるほど。そういうことね」
ラグたちが先んじで募集をかけたわけではないと知って、シゲルは納得した顔で頷いた。
そして、改めて先ほどの問いを繰り返した。
「リグたちみたいに他の属性に混じっているんじゃなくて、単独で光と闇の属性でいるのは珍しいって聞いたんだけれど?」
光の大精霊から聞いた話では、いないわけではないが稀有な存在だと言っていた。
それを考えれば、わざわざ自ら契約精霊として縛られに来ることはないのではとシゲルは考えていた。
「確かに珍しいかも知れないけれど、まったくいないわけじゃないわよ。それだけ、シゲルの名前が精霊たちの間に広まっているということね」
リグは、誇らしそうな表情でそう言った。
一方、リグの言葉を聞いたシゲルは、少しだけ驚いたような顔になった。
「え、ちょっと待って。この世界の精霊に、そんなに名前が広まっているの?」
「今更なにを言っているのよ。六体の大精霊に会っただけじゃなくて、そのうちの五体に名づけもしているのよ? 広まらないわけがないじゃない」
「そ、そう……」
精霊だけに限らず、世間での自分の名前の認知度についてまったく興味がないシゲルとしては、そう返すことしかできなかった。
リグの様子を見る限りでは、悪い意味で広がっているわけではないと分かるが、それでも素直に喜ぶことはできない。
これから先、悪い意味で広がったときに、その反動が凄いことになりそうなためだ。
もっとも、精霊たちにとって、悪い意味で広がるような真似をしなければいいだけなのだが。
リグはシゲルがそんなことをするはずがないと考えているのか、以前の小さかったころの面影を残す無邪気な顔になっていた。
「シゲルが光の大精霊様と会ったから増えたと思うのだけれど……って、どうかした?」
顔を引きつらせているシゲルに今更ながらに気付いたリグが、不思議そうな顔になって聞いてきた。
「い、いや、なんでもないよ」
「そう? それならいいけれど……あ、それで、どうする?」
ここでようやく最初の質問に戻って、リグがそう聞き返してきた。
どうにか動揺を落ち着かせたシゲルは、少し考えてから答えた。
「そうだね。自分から望んでくるのであれば、わざわざ断ることはないよ。取るかどうかはその時になってみないと分からないけれど」
「それはそうよね。わかったわ。そう伝えておく」
そう言って頷くリグを見ながら、シゲルは頭の中でこれは候補として光と闇の精霊が来るんだろうなと考えていた。
そうでなければ、わざわざリグが話題に出してくるはずがない。
それが分かっているシゲルは、リグの言葉に「お願いね」と言って頷くのであった。
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦
リグとの話をしてから数日後、シゲルはラグたちが集めてきた候補の精霊を前にして苦笑をしていた。
「いや、前振りだろうなとはわかっていたけれど、ここまでする?」
「単純に能力で選んだだけなのですが……駄目でしたでしょうか?」
不安そうな表情になってそう聞いていたラグに、シゲルはゆっくりと首を左右に振った。
「そういうわけじゃないよ」
そう答えたシゲルは、改めて候補の精霊たちを見回した。
今回ラグが連れてきた契約精霊の候補は、全部で十体だった。
一応事前に選ぶのは二体だけと伝えていたのだが、集まった多くの精霊からラグたちが苦心してそれだけの数の絞ったのである。
シゲルが苦笑をしたのは、その十体のうちの実に六体が光か闇の精霊だったからだ。
珍しいはずの光と闇の精霊が、この場に六体もいていいのかとシゲルが考えるのも無理はない。
その当人(当精?)たちは、自分が選ばれるようにと期待するような視線をシゲルに向けていた。
喜んでいいのやら呆れていいのやら複雑な気持ちになったシゲルは、改めて候補の精霊を見回した。
ラグたちが厳選に厳選を重ねただけあって、その能力はそれぞれが高くなっている。
もっとも、まだ『精霊の宿屋』に登録されているわけではないので、シゲルが直接その能力を知る術はないのだが、そこはラグの報告で判断している。
そこには、こんなことでラグが嘘を付くはずがないという信頼もある。
候補の精霊たちを見ていたシゲルは、ふと思い出したようになってラグに聞いた。
「そういえば、『精霊の宿屋』に光と闇の精霊が増えたのって、光の大精霊に会ってから?」
「はい。そうです」
シゲルの問いに、ラグは簡単にそれだけを答えた。
光の大精霊と会う前から光と闇の精霊は来ていたのだが、その数は少なかった。
それが急増したのは、やはりシゲルが光の大精霊と会った時からである。
やっぱりあれがフラグになっていたかとどうでもいいことを考えたシゲルは、そのルートに進むことを決断した。
「それじゃあ、選ぶよ」
そう前置きをしたシゲルは、十体の候補の中から二体の光と闇の精霊をそれぞれ選んだ。
その二体を選んだのは、ラグから聞いていた能力が突出して高かったからである。
「――選ばれなかった皆はごめんなさい。次があるかどうかは分からないけれど、またなにかあったらよろしく」
落選して悲しそうな顔になっている精霊たちに、シゲルはそう言いながら頭を下げた。
それを見た落選組が慌てていたのだが、視線が床に向いていたシゲルはそれには気付かなかった。
しっかりとそのことに気付いていたラグは、敢えてそれには気にした様子を見せることなく言った。
「それでは、選ばれた二体だけは残って下さい。契約を行います」
そのラグの言葉に従って、選ばれなかった八体は姿を消した。
その後、彼(彼女)たちが『精霊の宿屋』に戻ったのか、それともどこかに行ってしまったのかはシゲルには分からなかった。
少しだけ気の毒の気もしたが、すべての精霊と契約するわけにもいかないので、こればかりはどうすることもできない。
精霊たちを見送った(?)シゲルは、残された光と闇の精霊と契約をそれぞれ行った。
さらに、契約を終えてから『精霊の宿屋』を確認すると、きちんとそれぞれの精霊が登録されていた。
今回契約した光と闇の精霊は、どちらも最初から上級精霊である。
そのことはラグから聞いていたのだが、その事実をしっかりと確認したシゲルは、やはり驚きを隠せなかった。
「うーん。能力が高いのは嬉しいんだけれど、本当に良いのかって気になって来るな」
シゲル自身は力が上がっているという実感がないために、そう思ってしまうのも無理はない。
「いいと思いますよ。なにしろ、『精霊の宿屋』は私たちが過ごしやすい場所になっているのですから」
ラグの説明に、シゲルは曖昧に頷いた。
要するに『精霊の宿屋』が過ごしやすい場所になっているので、上級精霊も来るようになっているとラグは言いたいのだ。
ただ、それも自分自身がなにかを努力して手に入れたという実感が少ないため、シゲルは素直に頷けないのであった。
今回は(?)きちんとフラグに乗ってみました。
※今日の昼一か夕方辺りに、活動報告で書籍化最新情報解禁します。
是非ご確認ください。
よろしくお願いいたします。
m(__)m




