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(4)久しぶりの大調整(後)

 ラグが連絡を取ったのを確認したシゲルは、再び『精霊の宿屋』の調整を始めた。

 続いて取り掛かったのは、湖のある北東側だ。

 こちらもやることは簡単で、既存の湖を拡大するだけである。

 ただし、その大きさは、北東側の三分の一を占めるくらいになった。

 上空から俯瞰して見た場合は、北西側の山と同じように、かなり目立つ存在になっている。

 

 それ以外に川や沼地も大きくなっているが、これは以前からちょこちょこと変化を加えてきたものの続きになる。

 シゲルの持っている知識では、どこをどう変えればいいのか全く分からないので、この辺りは完全に水の契約精霊たちの助言のままに変更した。

「――よし。北東側はこんなもんかな?」

「……そうですね。これで大丈夫だそうです」

 シゲルの言葉に、ラグが少しだけ間を空けてからそう答えた。

 通信を使って、箱庭内にいる水の精霊に確認を取ったのだ。

 

 

 ラグの返答を聞いたシゲルは、続いて南西側に画面の視点を合わせた。

 風の精霊を招くようになっている南西側は、今回の変更で中央部分に次いでなにもしないことになっている。

 理由は単純で、風を招くという意味においては、なにもない方がいいそうなのだ。

 その理屈には分からないが、精霊がそう言うのであればそうなのだと思うことにした。

 気圧がうんたらとか、経度緯度の関係がどうたらとか、思いつくようなことはあるが、それを『精霊の宿屋』で求めても仕方ないと考えているということもある。

 

 それはともかく、南西側の変更点は、ちょっとした吹きおろしの風が楽しめるようにと小さめの丘を置いたくらいである。

 あとは、大草原が広がっていて、ところどころで特徴のある花畑などが広がっていたりする。

「――あの丘に立ってみれば、広い草原が見えるんだろうなあ」

「そうですね」

 丘を置いたシゲルがそう感想を漏らすと、ラグは少しだけ寂しそうにしながら頷いた。

 シゲルは『精霊の宿屋』の中に入ることはできないのだが、一緒に同じ光景を見たいと考えたのだ。

 

 そんなラグのちょっとした願いに気付いてはいたが、シゲルとしてもこればかりはどうしようもない。

 正直なところ、シゲルも『精霊の宿屋』の中に入って今まで作った光景を自らの目で見てみたいという願望はある。

 とはいえ、今のところ、そんなことができるようになる兆しはまったくないのである。

 

 

 微妙な気持ちになりながら南西側の光景を画面越しに見ていたシゲルは、最後に南東側へ視点を向けた。

 今回の変更で、使われる精霊力の多さは北西側が一番上だが、手間がかかるという意味においては南東側が一番になる。

 これまで建てた建物と同様にその数を増やすということもあるのだが、それに加えて、それぞれの建物の前にかがり火のようなものを置くことになったのだ。

 シゲルとしては、そんなに細かい変更ではなく、溶岩だまりのようなものを置いてはどうかと思ったのだが、それは火の契約精霊から固辞された。

 どういう基準なのかは分からないが、溶岩だまり一つ置くよりは、かがり火を焚いていた方が火の精霊にとってはいいそうである。

 勿論、溶岩だまりが火の精霊にとっては集まりやすい環境であることには違いないのだが、多くのかがり火を用意しても効果は変わらないそうだ。

 精霊力という観点から見れば、かがり火を用意する方が安上がりに済むので、今回はそちらを置くことになったのである。

 

 というわけで、シゲルは『精霊の宿屋』を操作しながらちまちまとかがり火を置いて行った。

 ちなみに、かがり火程度であれば、中にいる火の精霊が独自に用意はできる。

 ただし、なにかが違うのか、やはり『精霊の宿屋』を使って用意したかがり火の方が効果が大きいと言われていた。

「自分からすれば同じ火にしか見えないんだけれど、やっぱり精霊にとっては違うんだね」

 『精霊の宿屋』を操作しながらそう言ったシゲルに、ラグは当然だという顔で頷いた。

「そうですね。火に限らず、自ら作ったものとシゲル様が用意されたものでは、全然効果が違っています」

「ふーん」

 シゲルに言わせれば、自分が用意しているのではなく『精霊の宿屋』のシステムを使っているだけということになるのだが、それをラグに言っても反論されるだけなので、ここでは言わなかった。

 

 ちなみに、シゲルの認識は正しくもあり、間違いでもある。

 以前の光の精霊との会話で、『精霊の宿屋』はシゲル自身の能力だという話を聞いていた。

 それを考えれば、『精霊の宿屋』で用意されているものは、すべてシゲル自身の能力によるものだといえる。

 ただし、現実にそれを出せといわれても用意することなどできない。

 あくまでもシゲルの能力は、『精霊の宿屋』内に限ったことなのである。

 

 自分の持っている能力については相変わらず認識が低いシゲルは、南東側を見ていてふとなにかに気付いたような顔になった。

「……随分と精霊が喜んでいるように見えるけれど、やっぱりあれは火の精霊?」

「おそらくそうでしょう」

 画面越しでは判別がつかないのは、精霊であるラグにとっても同じである。

 ただし、かがり火を増やしたことで予想できることはある。

「シゲル様の契約精霊で、火の精霊が一番遅かったこともあってか、やはり対応は遅かったですから。……すみません。別に、シゲル様のせいというわけではありません」

 ラグは慌ててそう付け加えるのを聞いて、シゲルは思わず苦笑を漏らした。

 

 シゲルは、別に火の精霊に隔意を置いていたわけではない。

 もともと火の精霊が集まりづらかったことに加えて、ラグたちが候補の精霊を連れてきたときにいなかったので選びようがなかったのだ。

 そういう意味ではラグたちのせいとも言えなくはないが、そもそも火の精霊が集まりづらい環境にしていたのはシゲルである。

 出会った大精霊の順番のせいともいえるが、そこを責めてもどうしようもない。

 

 そのことを十分に理解しているので、シゲルはラグに向かって軽く手を振った。

「いや、そんなこと考えていないから、いちいち謝らなくていいよ。――よしっと。これで終わり」

 予定していた範囲にかがり火を置いたシゲルは、わざとらしくそう言いながら作業を終えた。

 今の話題を引きずっていては、ラグがいつまでも気を使いそうだと考えたのだ。

 

 そのことに気付いたラグがなにかを言うよりも先に、シゲルが続けて指示を出した。

「一応、それぞれの精霊に、これで大丈夫か確認するように言っておいて。もし駄目なところがあれば、修正くらいはできるから」

「分かりました」

 ラグは、シゲルの言葉に頷いてすぐに別の精霊に指示を飛ばした。

 ラグ自身はシゲルの護衛で離れられないが、配下の精霊を使って直接のやり取りができるので、こういうときには便利なのである。

 

 

 『精霊の宿屋』に配下の精霊を送り出したラグは、ふと思い出したような表情になって聞いた。

「そういえば、シゲル様は契約精霊を増やさないのでしょうか?」

「ああ~、その問題もあったね。そういえば」

 現在、シゲルは十体の精霊と『精霊の宿屋』を通した契約をしている。

 どういう基準なのかはシゲルもいまいちわかっていないが、五大の大精霊たちはこれには含まれていない。

 おそらく契約をする際の双方の認識の違いだとは考えているが、明確な答えはわかっていない。

 

 それはともかく、現状の『精霊の宿屋』は特級精霊となったラグたち初期精霊がいるお陰でどうにか回すことができている。

 ただし、これ以上に『精霊の宿屋』が広がることがあれば、それが限界を迎えることになるのは考えなくてもわかる。

 さすがに、今以上の広さを初期精霊に押し付けるのは無理がある。

 となれば、やはり契約精霊の数を増やしたほうがいいということになるのだが、それも問題がある。

 契約精霊の数を増やしたところで、シゲルの目が届きにくくなって、逆に『精霊の宿屋』の管理が疎かになりかねないということだ。

 

 それは、以前からシゲルの悩みの種だったのだが、敢えてラグがこの段階で話をしたのは、やはり今回大きな調整を行ったためである。

「私たちの管理の問題もあるのですが、実はそれ以上の問題がありまして……」

 珍しく言いよどんだラグに、シゲルは首を傾げた。

「それ以上? なにかあった?」

「いえ、えーと……訪問してくる精霊からの問い合わせが多くて…………」

 言いずらそうにそう報告してくるラグを見て、シゲルはアチャアと額に手を当てた。

 ラグがわざわざ口に出して言うということは、それなりの数になってきているということだ。

 さすがに『精霊の宿屋』の管理に支障をきたすほどではないと思いたいが、いずれはそれも越えてくるかもしれない。

 

 困った顔をしているラグを見て、シゲルは頷きながら答えた。

「わかった。今すぐに結論は出せないけれど、二、三日中には答えを出すから。……前向きな方向で」

「そうですか。分かりました」

 シゲルの答えを聞いて、ラグはそう言いながら明るい表情になって頷くのであった。

大調整はこれで終わりです。

次回は契約精霊の増員……かな?

(増員するかどうかはまだ不明)

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