(3)久しぶりの大調整(前)
ヨーデリア遺跡での調査は、当事者にとっては大きな発見ではあったが、それ以外の者たちにとってはそれほどのことでもなかった。
確かに、前史文明の遺跡だと思われていたヨーデリア遺跡が、実は超古代文明の名残だったというのは、インパクトが大きい事実ではある。
ただし、その遺跡を調査しようとしたり見に行こうとしても、国とフツ教によって管理されているのではどうしようもない。
遺跡の管理という観点から考えれば、入場制限を設けるのは一つの手ではあるが、それが逆に熱気を冷めさせる原因ともなる。
もっとも、王国もフツ教も初めからそれを狙っていたのか、入場制限の規則を変えることはなかった。
一方で、その騒ぎの原因を作り出した原因ともいえるシゲルたちは、魔の森の家でまったりとした時間を過ごしていた。
調査完了の報告をした時点で、ヨーデリア王国内でなにが起こっているかは一切関係ないので、自分たちの趣味の時間に没頭しているのである。
そんな中でシゲルがなにをしているかといえば、当然ながら『精霊の宿屋』の調整だった。
ここしばらくは、ほとんど微調整をするだけでまともに触れていなかったので、ちょうどいいタイミングだったと言える。
そんな状態だったので、精霊石もどんどん貯まっていて、広大な広さがある『精霊の宿屋』であっても十分に好きなことができるくらいの精霊力がある。
今回の調整は『精霊の宿屋』に大きな変化が起こるために、事前に契約精霊たちから様々な意見を聞いておいた。
それらの意見をまとめていたのが、現在シゲルの横から画面を見ているラグだ。
ちなみに、この場には護衛役としてスイとアグニも傍についている。
「――よし。それじゃあ始めようか」
「はい」
久しぶりの大調整に気合を入れるシゲルに、ラグが微笑みを浮かべながら頷いた。
ラグ以外のほかの二体の精霊もどことなくそわそわとしているので、『精霊の宿屋』が新しくなることを楽しみにしているということがわかる。
精霊の様子を視界の隅に入れつつ、シゲルはまず『精霊の宿屋』の中央に画面を合わせた。
「とりあえず中央から……と、行きたいところなんだけれど、ほとんど調整するところはないんだよね?」
「はい。私もサクラも今の環境を大きく変える必要はないと思っていますから」
シゲルの確認に、ラグは頷き返した。
『精霊の宿屋』の中央部分は、桜の木を中心とした公園があり、それを覆うように森が広がっている。
さらにその公園には川も流れていて、シゲルとしても満足のいく出来となっている。
とはいえ、やはり全く変更なしというのは寂しいので、シゲルは少し考えてから言った。
「よし。それじゃあ、公園内に小さめの池でも置こうか」
「池……ですか?」
「まあ、完全に自分の趣味なんだけれどね。大き目の公園には池があるイメージがあるから」
シゲルはそう言いながらラグを見た。
「水場があって木の精霊にとって邪魔だというのであれば、作らないけれど?」
現在『精霊の宿屋』は、契約精霊の属性に合わせて、大まかに五つの区域に分けられている。
中央部分は、木の精霊の範囲内なのだ。
シゲルの問いに、ラグはすぐに首を振った。
「いいえ。むしろ水場は相性がいいのですが……いいのですか?」
ラグは全体の調整を行っているので、今後大工事(?)が控えていることを知っている。
そのため、使われる精霊力のことも大体把握しているのだ。
「いいのいいの。元から通っている川を少しだけ拡張するだけだからね。そんなに精霊力も使わないよ」
ゼロから水場を作るとなるとそれなりに精霊力を消費してしまうが、川などが元からある場合にはさほどではない。
一応使われる精霊力の試算もしてあって、池を作るくらいであれば十分余裕がある。
シゲルの答えを聞いて、ラグは少しだけ口元をほころばせた。
「そうですか。それでしたら是非お願いします」
「了解。それじゃあ、設置するよ」
シゲルはそう言いながら、準備をしていた池を川に合わせて置いた。
これで、中央の公園部分に池ができた。
シゲルのイメージとしては、周辺にある森からくる鳥たちの憩いの場である。
その池の周辺には遊歩道も作っているが、その部分を歩くのは基本的に精霊たちか野生動物くらいしかいない。
中央部分の調整は、公園内に池を置く以外に周辺にある森に苔を置くなどの微調整を行った。
ただしこれは全体的に行ったというわけではなく、以前からこまごまと行ってきた調整の続きである。
それを終えたシゲルは、続いて北西部分へと画面を移動させた。
『精霊の宿屋』の北西部分は、土属性の精霊の領域となっている。
そして、今回の『精霊の宿屋』の調整において、一番の目玉となる場所でもあった。
その理由は単純で、見た目がダイナミックに変わるのである。
当然、それに合わせて使われる精霊力も、今までで一番の量が使われることになる。
諸々の準備を整えたシゲルは、ラグを見て言った。
「こっちの準備はできたから向こうにも伝えて」
「畏まりました」
シゲルの言葉に、ラグは一度頷いてから口を閉じた。
『精霊の宿屋』にも通じる通信方法を使って、中にいる契約精霊と連絡を取っているのだ。
今回の調整で、北西側は大変化を迎えることになるので、一応用心を取って周辺域にはいないように連絡をしているのだ。
もともと今回調整することは伝えていたので、今は北西域に入り込んでいる精霊がいないかを確認するだけだ。
ただ、中には物見遊山のようにわざと居残り続ける精霊もいるので、それは自己責任という形で考えないことにする。
一瞬精霊たちがいなくなって無防備になってしまうが、こればかりは仕方ないと割り切った。
そして、ラグから準備ができたと連絡を受けたシゲルは、画面内に出ていた了承を促すボタンをタップした。
シゲルが画面をタップすると、一分ほどの時間をかけて北西域にとあるものが出現していた。
そのあるものというのは、標高七百メートルほどの山である。
さすがにそれほどの山ができるとなれば、今までと違って一瞬でできるというわけにはいかなかったらしい。
ちなみに、その山は全体が北西域に入っているわけではなく、一部は『精霊の宿屋』の領域外に出ている。
画面内で出来上がった山を見て、シゲルは少しだけ感嘆したように呟いた。
「なんというか……今までもすごいと思っていたけれど、ここまで大きく変わるとそれを通り越してしまうな」
「そうですね」
シゲルの言葉に、ラグも苦笑をしながら返した。
精霊であるラグにとっても、たったこれだけの時間で山が一つできるとなると、不思議以外のなにものでもないのだろう。
普通、山なんてものは気の遠くなるような時間をかけてできるものなのだから。
その辺りのことを突っ込み始めると『精霊の宿屋』の存在そのものが怪しくなってくるので、シゲルもラグもそれ以上のことは言わなかった。
その代わりに、シゲルが満足げに頷きながらさらに続けて言った。
「まあ、それはともかく、これでシロたちも満足してくれるかな?」
「それは間違いありません」
シゲルの言葉に、ラグも太鼓判を押すように返してきた。
そもそも今回の大調整は、以前から土の精霊から言われていたことを実行することを目的としていた。
それが、今行った山の作成だった。
土の精霊は、山がなくてはならないというわけではないのだが、やはりあったほうが訪問数が上がるのは間違いない。
それに、山ができることによって、もう一つ期待できることがある。
それがなにかといえば――、
「さて、あとはなにかの鉱脈ができているといいけれど、どうかな?」
「シロたちの報告次第でしょうね」
というわけだった。
『精霊の宿屋』では、鉱石を指定して山を作ることもできるが、やはりそれをすると消費する精霊力が多くなりすぎる。
そのため今回は、鉱脈がランダムで出現するように山を設置してみた。
ランダムということは、やはり鉱脈が全くないということもあり得るので、そこは運に賭けるしかない。
ちなみに、鉱脈が全くなしという指定もできるが、今回は選ばなかった。
「とりあえず北西側はこれで大丈夫かな。あ、もう出来上がっているみたいだから、精霊たちには北西側に行ってもいいと言っておいて」
「畏まりました」
シゲルの言葉に頷いたラグは、すぐに『精霊の宿屋』へと連絡を取るのであった。
タイトル通り久しぶりの大工事です。
結局、この話では中央と北西の二カ所しかできませんでしたw
残りは次話に続きます。




