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(2)魔の森の遺跡での成果

 ミカエラが「大丈夫」と言ったのは、嘘や誤魔化しではなく本当だったようで、話し合いは冷静に行われた。

 その結果、やはりエルフであるミカエラからの公表は影響が大きくなりすぎるので、シゲルからの発信ということに決まった。

 ただし、公表するとはいっても、シゲルはミカエラ以外に精霊使いの知り合いがいるわけではない。

 そのため、論文のようなものを作って、各所に送ることになる。

 

 幸いにして、シゲルが精霊育成師であるということは広まっていて、研究機関をはじめとした各組織が繋がりを求めて手紙を送ってきている。

 それらの組織に送れば、あとは勝手に評価を下してくれるはずである。

 ここでポイントなのは、各所であって一カ所ではないということだ。

 一つの場所に送ってしまえば、シゲルがその組織の所属になりかねない。

 それを防ぐためにも、バランスをとって複数個所に送るのである。

 

 それらの話し合いを終えた後、シゲルはさっそく論文作成に取り掛かった。

 論文自体は作り慣れているので、書式などに戸惑うことはない。

 それよりも問題だったのは、この世界にはコピーなどという便利なものはないので、複写したものを自分の手で用意しなければならなかったことだ。

 せっせと論文を作っていたシゲルは、文明の利器は偉大だと痛感することになるのであった。

 

 

 シゲルが論文を作っている間、フィロメナたちは予定通りに魔の森で証拠探しに精を出していた。

 今回の目的は、ヨーデリア遺跡にある大聖堂と似たような構図の絵画があるかどうかを探すことなので、片っ端からそれらしい本を探していた。

 そして、証拠探しを開始してから三日後に、ついにそれといえるものを見つけ出すことができた。

 その書籍を見つけたのは、やはりというべきか、各神殿にある書籍に当たっていたマリーナだった。

「あー、残念。そっちの方が早かったか」

 未だに論文の複写を続けていたシゲルがそう感想を漏らすと、マリーナは小さく笑った。

 論文そのものは一日もかからずに書き終えていたのだが、やはり同じものを自分の手で書き直すというのは時間がかかるのだ。

「十以上も作らなければならないのでしょう? 焦って作っても仕方ないわよ」

「そうなんだけれどね」

 別に競争をしていたわけではないので、シゲルもあっさりと頷いた。

 

「それで? そっちの成果はどうだったんだ?」

 フィロメナがそう聞くと、マリーナが頷きつつ答えた。

「まず間違いないわね。これがその証拠」

 マリーナはそう言いながら一冊の本をとあるページを見せながら差し出した。

 そこには確かに、あの大聖堂の天井画とほとんど同じ構図のものが描かれていた。

 

 その絵を確認したラウラが、少し考えるような顔になって言った。

「問題は、この絵が超古代文明のものだと、どう証明するかということでしょうか」

 紙の年代測定法などあるわけではないこの世界で、それは極めて難しいことと言える。

 大精霊メリヤージュが守っている遺跡にあった書籍だからということもできなくはないが、それも今マリーナが手にしている本を表に出さなくてはならない。

 文書だけの書籍であれば写本という手段で増やすこともできるが、絵も一緒となるとなかなか難しいのだ。

 勿論、絵を複写する技術もあるのだが、やはり文字だけとは違って、かなり時間がかかるのは間違いない。

 

 そう考えてのラウラの発現に、マリーナが首を振りながら答えた。

「それは私も考えたのだけれどね。難しく考えなくてもいいと思ったわ」

「ほう。どういうことだ?」

 ラウラと同じことを考えていたのか、フィロメナがマリーナを興味深く見ながらそう問い返した。

「この本自体を見せないといけないでしょうけれど、一度見せて担当者に確認させれば、あとは勝手に向こうがやってくれると思うわ。世紀の大発見と言っていいもの」

 マリーナが行っている「向こう」というのは、フツ教のことだ。

 そもそも遺跡の調査自体をフツ教から頼まれているので、証拠が見つかったとなれば、喜んで動いてくれるはずである。

 

 マリーナの答えを聞いて納得したのか、フィロメナが頷きながらさらに重ねて聞いた。

「なるほどな。だが、王国はどうするんだ?」

 遺跡調査の依頼は、国とフツ教の両方から来ている。

 その片方だけを持ち上げるような真似をしていいのかというのが、フィロメナの質問だ。

 

 フィロメナのその問いに答えたのは、マリーナではなく本を細かく確認していたラウラだった。

「恐らくですが、ヨーデリア王国は成果があったというだけで満足するでしょうね」

「え? なぜ?」

 不思議そうな顔になってそう聞いたのは、フィロメナではなくミカエラだった。

 ミカエラも王国をたてるような配慮は必要だと考えていたのだ。

「マリーナが見つけてきたこの本、宗教関係のものですから。いくらフツ教と密接な関係とはいっても、あまり近づきすぎることもないと思います」

「あー、なるほど」

 ラウラの説明に、ミカエラが納得した顔になって頷いた。

 不思議に考えていたシゲルも、同じような顔になっている。

 

 別にこの世界には、政教分離の原則はほとんどないといっていい。

 そのため、宗教と国家は密接に結びついているといってもいいのだが、完全にぴったりとくっついているわけではない。

 国家はそのバランスを常に考えながら動いているといってもいいだろう。

 それを考えれば、マリーナとラウラの考えに皆が同意するのは当然といえる。

 

 さらにいえば、シゲルたちから見れば、別の考え方もできる。

「そもそも。私たちが国とフツ教の争いに関わる必要は、ないわよ」

 マリーナがそう言い切ると、シゲルたちの間にそれもそうかという空気が流れた。

 シゲルたちがヨーデリア王国とフツ教から依頼をされているのは、遺跡の調査であってそれぞれに手柄を差し出すために動ているわけではない。

 これまで通りに、政争などの動きには関わらないというスタンスを貫けばいいだけだ。

 勿論、そのためには今回見つけた本の説明はしなければならないだろうが、王国の場合は「証拠となり得るものを見つけた」という事実だけがあればいいと考えるのは不自然ではない。

 ラウラも国とそうした話ができると考えたからこそ、先ほどのようなことを言ったのだ。

 

 王国とフツ教が実際にどういう対応をしてくるのかは、話し合いの場につかなければ分からない。

 ただし、シゲルたちが今後どういう方針でいくのかということだけは決めておかなければならない。

 その方針をこの話し合いで決めたフィロメナたちは、マリーナが見つけた本と同じようなものがないかを探し始めた。

 そして、シゲルは残りの複写の作業を開始するのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 一度目的に沿うものを見つければ、同じようなものを探すのはさほど難しいことではない。

 勿論、同じものが全くないということも考えられるのだが、今回はその心配は杞憂に終わった。

 そもそもマリーナが見つけた本は、シゲルが知る世界での聖書と同じようなもので、熱心な信者であれば常備しているものだった。

 そのため、個人宅でそうしたものが置かれているような場所を探し始めたところ、無事に見つけることができたというわけだ。

 

 見つけた二冊の本について遺跡外に持ち出す許可をメリヤージュから貰ったシゲルたちは、再びヨーデリア王国の王都へと戻った。

 そして、以前と同じように二手に分かれて、それぞれに成果を報告した。

 今回以前と違っていたのは、マリーナに付いて行ったのがフィロメナで、ラウラにはミカエラとシゲルが着いて行ったことである。

 シゲルが付いて行ったのは、遺跡調査の副産物として、光と闇の精霊についての論文も渡したためである。

 

 ラウラと対応した担当者は、精霊は担当外ということで、精霊に関係する担当者に渡しておくということで話が付いた。

 シゲルもなにがなんでも自説を認めて欲しいと考えているわけではないので、それを了承した。

 むしろ、今回の論文が定説として根付いてしまうと困ったことになりかねないので、適当に担当部署で検証してみてくださいと言っておくことだけは忘れないのであった。

あとは、次話で結果報告だけをしてヨーデリア王国での活動は終わります。

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