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(17)保守のための精霊

 アマテラス号は、大きく二つのセキュリティによって守られている。

 一つは船自体が持っているもので、艦橋でシゲルが登録をすることによって入ることができるようになる。

 もう一つは、エアリアルの部下か縁者の精霊である。

 その精霊は一体だけではなく、交代制で送り込まれているようだ。

 そのため、船を守っている精霊も、基本的にはシゲルの許可さえあれば船に乗り込むことができる。

 ただし、前者のセキュリティには、精霊が引っかかることはない。

 アマテラス号への精霊の侵入は、エアリアルが送っている精霊によって守られているのだ。

 

 大聖堂に出現した精霊は、きちんとシゲルの許可を得ているので、トラブルもなく船長室まで入って来ることができていた。

 勿論、普通の人とは違って、あっさりと壁を乗り越えて来ていた。

 シゲルは、ラグたちもよく扉や窓を使わずに外に出て行ったりするところを見ているので、いきなり壁から現れた精霊を見ても驚くことはなかった。

 もっとも、傍にいたラグがそろそろ来ると教えてくれたので、醜態をさらさずに済んだという面もあるのだが。

 

 それはともかく、目の前に現れた精霊を見て、シゲルは内心で首を傾げていた。

 大聖堂に現れた精霊から感じる力は、どうひいき目に見ても上級精霊くらいのもので、長い間遺跡を保守できるだけの力があるとは思えなかったのだ。

 ちなみに、人型をしている精霊の属性は一目見てわかるようなものではないので、目の前の精霊がどの属性を持っているかは分かっていない。

 ただし、これまで見てきた精霊とはどことなく違った雰囲気を持っているように、シゲルは感じていた。

 

 目の前にいる精霊が、大事な情報源であることには違いないので、まずシゲルは軽く頭を下げた。

「わざわざ来ていただきありがとうございます」

「いいえ。必要なことだと分かっておりますから。それから、私などに丁寧な言葉を使われる必要はございません」

 首を振りながらそう言ってきた精霊を見て、シゲルはどう答えたものかと悩んだ。

 シゲルは別に、精霊のランクによって言葉を使い分けているわけではないが、目の前の精霊の言葉には別の意味が含まれている気がしたのだ。

 

 そんなシゲルの考えを読んだのか、精霊はシゲルの返答を待たずに続けて言った。

「私はあくまでも、ある方の指示を受けてあの遺跡を修復しているだけです。貴方がお知りになりたいであろう答えは持っておりません」

 シゲルとしては、目の前の精霊以外に別の意図を持った存在がいると分かっただけでも十分だった。

 それに、これはシゲルの想像でしかないが、もしかしたらメリヤージュのような大精霊がいるのだろうと考えることはできる。

 目の前の精霊は、その存在について言葉をぼかしているので、具体的な答えは得られないかもしれないが、それはそれで構わないのだ。

 シゲルたちは、あくまでもヨーデリア遺跡が超古代文明の名残であることを証明したいだけであって、これまで保守をしてきた存在が誰かを暴きたいわけではないのだ。

 

 そんなシゲルの考えが分かっているのかいないのか、精霊は気にした様子を見せることなく言葉を続けた。

「――実は、貴方の精霊が大聖堂にいることは知った上で、私はあの場に現れました。それもまた、あの方の指示だったからです」

「うん? どういうこと?」

 聞き逃せない言葉を精霊から聞いたシゲルは、ここでようやく疑問を口にした。

 監視の精霊がいることがばれているのは予想の範疇だったが、最初から接触する目的で出てきたように思えたためだ。

 

 そのシゲルの予想に違わずに、精霊は一度だけ頷いた。

「あの方は、貴方様と直接話をすることを希望しております。ただ、この場に直接姿を見せるわけにはいかないので、貴方様にご足労願いたいということです」

 その説明を聞いたシゲルは、なるほどと頷いた。

 最初からメッセンジャーとしての役目で目の前にいる精霊が現れたのであれば、これまでスムーズに事が進んだ理由もわかる。

「ご足労、ね」

 まさかそんな丁寧な言葉を精霊の口から聞くことになるとは考えていなかったシゲルは、軽く苦笑しながらそう呟いた。

 とはいえ、その申し出はシゲルにとっても有難いことである。

 騎士と神官の目があるこの場所で、下手に大物の精霊に姿を見せられると、余計な騒ぎになることは目に見えている。

 

 シゲルの顔と言葉に不安を覚えたのか、精霊は少しだけ眉尻を下げた。

「あの、ご都合が悪ければ、今すぐでなくとも構わないということですが……」

「ああ、いや、ごめん。そういうことじゃないんだ」

 先ほどの言葉が誤解をさせてしまったとすぐに理解したシゲルは、慌てて手を振ってそう言った。

 ちなみに、そのせいで言葉が崩れてしまっているが、シゲルはすでに気にしなくなっている。

 

 精霊がホッとしたような表情になったのを見て、シゲルはさらに続けて言った。

「場所を変えるということだけれど、どこまで行けばいいのかな?」

「それでしたら魔の森はどうだろうかとおっしゃっておりました」

「魔の森? ――なるほど」

 意外な場所が出てきて、シゲルは一瞬首を傾げたが、すぐに理解したような表情になった。

 魔の森の遺跡は、人目を避けて話をする場所としては最高である。

 

 ただ、いくらアマテラス号を使うとはいえ、ぱっと行ってぱっと帰って来るというわけにはいかない。

 なによりも、アマテラス号で移動をすれば必ず人目につくので、そもそもの目的である目立たないようにするという趣旨からは外れてしまう。

 そのためにも、ヨーデリア遺跡での調査にある程度の目途をつけてから魔の森の家に帰るという流れにしたほうがいいはずだ。

 そう考えたシゲルは、そっくりそのままを精霊に話した。

 

 すると精霊は、少しだけ間を空けてから頷いた。

「それで構わないそうです。かの地の大精霊には話を通しておくので、あとはいつでも来てくださいとのことです」

「そう。それならそう言うことで。――あ、ちょっと待った」

 答えを聞くなり部屋から出て行こうとする素振りを見せた精霊に、シゲルは待ったをかけた。

「一つだけ教えて貰いたいんだけれど、この遺跡ってやっぱり超古代文明の名残かな?」

「――超古代文明というのが、どの時代のことを指すかはわかりませんが、この船が飛んでいた時代には使われていたそうです」

 それだけ答えを貰えれば、シゲルとしては十分である。

 あとは、魔の森で会ってからいろいろと質問をしようと決めて、シゲルはその精霊を送り出すのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 精霊との話し合いを終えたシゲルは、すぐに艦橋へと向かった。

 そこでは、フィロメナたちがシゲルの結果報告を待って、軽い雑談をしていた。

 そして、シゲルが戻って来るのを見るなり、フィロメナが話を打ち切って問いかけてきた。

「どうだったんだ?」

「うん。まあ、予想通りといえば予想通りだったかな?」

 そう前置きをしたシゲルは、先ほど精霊と話をした内容をフィロメナたちへ話し始めた。

 

「――――なるほどな」

 シゲルの話を聞き終えたフィロメナは、そう言いながら頷いた。

「目立ちたくないということは、遺跡の様子からもわかるが、ほかの大精霊と違っている理由はなんだろうな?」

 単に遺跡を保守していくだけであれば、メリヤージュやディーネのように、遺跡自体を秘匿してしまえばいいだけだ。

 それにも関わらず、ヨーデリア遺跡は敢えて人目にさらすような真似をしている。

 その理由が分からずに、フィロメナは首を傾げながらそう言った。

 

 そのフィロメナを見ながらミカエラが、敢えて軽い調子で応じた。

「それは、今考えても仕方ないんじゃない? 教えてくれる理由であれば、魔の森で会ったときに聞けるでしょう」

「それもそうだな」

 ミカエラの言葉に、フィロメナも考えるのを止めてすぐに頷いた。

 

 ミカエラの言う通り、今考えるべきことは別にある。

「それもそうだな。それで? ここでの調査はどうする?」

「とりあえずは、超古代文明の名残であることを証明するための証拠になるようなものを見つけなければなりませんね」

 ラウラがそう答えると、マリーナも頷きつつさらに捕捉をした。

「そうね。この遺跡からいなくなるにしても、シゲルの言ったとおりに理由を見つけなければ怪しまれるわ」

「それはそうだが……そこまで、難しく考える必要はないんじゃないか?」

 あっさりとフィロメナがそう応じると、皆の視線が集まった。

 

 それをしっかりと認識したフィロメナは、軽く肩をすくめながら続けて言った。

「あの大聖堂に書かれている絵が、当時の物だと証明できればいいではないか」

 フィロメナの言葉に、一同が納得して「ああ」と頷いた。

 絵そのものは移動したりすることはできないが、これまで見つけてきた書籍の中には似たような絵が描かれていたものがある。

 それらと見比べて、当時のものと同じであれば、超古代文明の名残であると証明することができるはずだ。

 ついでに、その絵を探すために魔の森に行くと説明すれば、いきなりヨーデリア遺跡を離れる理由づけとしても十分である。

 

 そして、あっという間に方針を決めたシゲルたちは、翌日には遺跡を離れて王都へ説明をしに向かうのであった。

今回は、ただのメッセンジャーでした。

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