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(16)遺跡の状態

「――――というわけで、あの大聖堂には精霊が出ていることは間違いないけれど、その目的まではまだはっきりとは分からない、という感じかな?」

 シゲルがそう言うと、ミカエラも頷きながら同意した。

 そして、シゲルが説明をする間、黙って話を聞いていたフィロメナが納得の顔になっていた。

「なるほど。そういうことか。精霊が大聖堂の維持をしているかどうかまでは分からなかったのだな?」

「まあ、ほぼ間違いないだろうけれど、決定的な証拠はないわね」

 シゲルが応じるよりも先に、ミカエラが首を振りながらそう答えた。

「そうか」

 フィロメナは、そう言ってから腕を組んで頷いた。

 

 しばらくそうしていたフィロメナは、やがてマリーナとラウラを見た。

「……どう思う?」

「どう思うもなにも、フィーの中では答えが出ているのよね?」

「まあ、そうなんだが……それはマリーナやラウラも同じだろう?」

「「そう(です)ね」」

 フィロメナの問いかけに、マリーナとラウラは同時に頷いた。

 

 そのやり取りを見ていたシゲルが、首を傾げながら聞いた。

「なにかあった?」

「なにかというか……この遺跡、いくら人の手が入って保守されているとはいえ、少し綺麗すぎる気がするのよ」

「まるで、手の回らない外側を切り捨てて、残りの部分は守っているかのように見えました」

 マリーナの答えに続いて、ラウラがさらにそう付け加えた。

 

 ヨーデリア遺跡は、大部分が風化をしてしまって、残りの部分を教会と国が手を組んで保守に努めている。

 ただし、そのノウハウを得たのはここ数十年の間のことで、それまでは保守に関しては放置されていたも同然だったのだ。

 そう考えれば、大聖堂の天井画を含めて、今まで残っていた部分が綺麗すぎるというのが、遺跡を見回ってきたフィロメナたちの疑問だった。

 

 シゲルは、一部納得しつつ、ある疑問が沸いてきてそれを聞くことにした。

「この遺跡の建物も特殊な素材で造られているんだよね? そのことを考えてもおかしい?」

「勿論だ。特殊素材が長持ちするとはいっても、やはり限度はあるからな」

 シゲルの疑問に、フィロメナがそう答えて、ラウラがそれに続いた。

「それに、この遺跡は、今まで風化してきた分もあるので、それと比べてもおかしい気がします」

「あ、そうか」

 すっかり忘れていたことを指摘されて、シゲルは少し恥ずかしそうな顔になった。

 同じ時期に打ち捨てられた町なのだから、当然風化するタイミングも同じでなくてはならないはずだというのがラウラの言いたいことなのだ。

 

 ここでミカエラが、頷きながら考えるような顔になって言った。

「確かに聞けば聞くほどおかしく思えて来るわね。ひとつの可能性を除けば」

「そうだな」

 ミカエラの言葉に、フィロメナがそう言って頷いた。

 反応したのはフィロメナだけだったが、ほかの面々も顔を見れば同じことを考えていることがわかる。

 

 これまで超古代遺跡を見てきたシゲルたちとしては、やはり遺跡の維持に精霊が関わっていると考えるのは当たり前のことだ。

「とりあえず、精霊に関しては、可能性の一つとして考えておこうか。今はそれ以外の可能性について考えたほうがいいと思うよ」

 一つの考え方に囚われてしまっては、別にあった可能性を閉ざしてしまうことになる。

 今のところ精霊が遺跡の維持に関わっているという確たる証拠がない以上、安易に結論を出しては駄目だ。

 シゲルが大聖堂で感じた精霊の気配は、あくまでも精霊がいたという証拠であり、遺跡の維持をしていたかどうかまでは分かっていないのだ。

 

 そう考えてのシゲルの発言に、フィロメナが大きく深呼吸をしてから頷いた。

「確かにそうだな。これまでがこれまでなので先走ってしまうが、結論付けるには早すぎる」

「その通りですね」

 フィロメナに続いて、ラウラが頷きながらそう答えた。

 今の段階では、どんな可能性もあると考えて調査をした方がいいと考えるのは、当然のことである。

 

 

 皆の雰囲気が結論は先延ばしということになったところで、いつものように黙って話を聞いていたラグがシゲルに話しかけてきた。

「シゲル様、いいですか?」

「え、なに?」

 こういう場面では滅多に口を挟んでくることがないラグだけに、シゲルは少しだけ驚いてそちらを見た。

「例の大聖堂ですが、やはり現れたようです」

 ラグがそう言うと、シゲルとミカエラが少し緊張した様子になった。

 事情を知らないフィロメナ、マリーナ、ラウラの三人は、不思議そうな顔になって二人を見る。

 

 実はシゲルは、複数の精霊を従えているラグにお願いしをして、大聖堂に監視の精霊を置いておくことにしたのだ。

 それであれば、ラグ本人(本精?)はシゲルの護衛を続けていても、別の場所の見張りなどはすることができる。

 この方法は、別に今になって思いついたことではなく、以前から使っていた方法だ。

 今回それが見事にはまったということになる。

 ただし、シゲルたちが今いる場所はアマテラス号なので、多少のタイムラグができてしまっているが、それは仕方のないことだ。

 

 報告で事情が分かったシゲルは、ラグを見ながら聞いた。

「それで、監視の精霊は?」

「以前に決めておいた通りにしています」

 大聖堂に現れている精霊が、人前に出ていないだけなのか、それとも精霊の前にも姿を見せないようにしているのか、今のところ判断がついていない。

 そのためシゲルは、もし大聖堂に精霊が現れた場合は、すぐに隠れるように言っておいたのだ。

 ただし、それには問題もあって、もし大聖堂に現れている精霊が格上の場合は、いくら隠れてもすぐ見つかってしまうことになる。

 

 次の指示はどうしようかと一瞬迷ったシゲルだったが、その前にラグが少しだけ困ったような顔になった。

「シゲル様、申し訳ありません。見つかってしまったようです」

「あら」

 真面目に悩んでいたシゲルが、少し拍子抜けした声でそう言った。

 ついでに、傍でシゲルとラグのやり取りを見ていたフィロメナたちも同時に顔を見合わせている。

「……ですが、向こうも隠れる意図は……あら、これは……」

 珍しく独り言を言うような顔になったラグを見て、シゲルはそのまま黙って答えを待つことにした。

 なにかが起こっていることは間違いないのだが、司令塔であるラグの邪魔をすれば、それが悪い結果を招くことになると分かっているためだ。

 

 その配慮が功を奏したのか、少ししてからラグはシゲルを見ながら言った。

「どうやら向こうから接触を求めて来ているようです」

 その言葉を聞いたシゲルは、一瞬あっけにとられて、すぐにフィロメナたちを見た。

 そのフィロメナたちも、皆が驚いた顔をしている。

「あー……そういうことみたいだけれど、どうする?」

「どうすると言われてもな。拒否するほうがおかしいだろう?」

 フィロメナがそう答えると、マリーナも頷きながら続けた。

「そうね。それよりも、こっちに呼ぶことはできないのかしら? 今から私たちが遺跡に行くのは、不自然すぎるわよ?」

 遺跡には明かりがないので、月明りしかない場所で調べ物というのは、いかにもなにかがあると宣伝しているようなものだ。

 

 確かにその通りだと考えたシゲルは、ラグを見ながら聞いた。

「会うのは構わないんだけれど、こっちに来ることはできるかって聞ける?」

「少々お待ちください」

 シゲルの言葉に、ラグはそう言いながら目に見えていないほかの精霊になにかを伝え始めた。

 言葉にはなっていないのだが、すでにシゲルたちにとっては何度も見ている光景なので、言われなくてもなにをしているかはわかる。

 

 何度かやり取りがあったのか、次にラグが反応するまで数分の間があった。

 その間シゲルたちは、ただ黙って答えを待っていた。

「――――こちらに来ることは問題ないようです。ただし、シゲル様とだけ会いたいようです」

 その条件を聞いたシゲルは、すぐに頷いた。

「それで構わないよ。この船の船長室に一人でいるから、そこに入って来ることはできるよね?」

 アマテラス号は許可を得ていない者が触れたりすることはできないようになっているが、精霊であれば話は別だ。

 ラグたち契約精霊を通して、精霊同士でやり取りをしているので、許可さえあれば入ってくることはできる。

 

 シゲルの問いに、ラグもその答えを予想していたのかすぐに頷いた。

「それで問題ないようです」

「じゃあ、いつでもきていいと伝えて」

「かしこまりました」

 シゲルの言葉に、ラグは丁寧に頭を下げながらそう答えた。

 

 そしてシゲルは、フィロメナたちを見ながら言った。

「ごめん。勝手に決めてしまったけれど……」

「いや、この場合はそうするのが当然だろう。まずは相手のことを確認することが先だ」

「そうね。それに、答えが得られるとは限らないのだし」

 フィロメナの言葉に続いて、ミカエラも頷きながらそう言った。

 そしてシゲルたちは、件の精霊が来る前に、質問を考えるために軽く打ち合わせをするのであった。

いよいよ次話、遺跡の精霊と接触します。

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