(15)再び大聖堂
マリーナは、ラウラとフィロメナが戻ってきた翌日には、再び話し合いに向かった。
ただし、今回マリーナに同行したのはラウラで、ミカエラはアマテラス号に残っていた。
ラウラが城での交渉にいたからというのもあるが、もう二度とあんなくだらない話し合いはしたくないというのが本音だ。
まあ、気持ちが分からなくはないので、皆が苦笑をするだけで済んでいたのだが。
それはとにかく、話し合いに向かったマリーナとラウラは、その日のうちに戻ってきた。
結果は、当初の予定通りに、監視の完全撤退。
マリーナ曰く、「手のひら返しが凄かったわ」ということだったが、結果は結果である。
教会と国の裏でどんなやり取りがされたのかは分からないが、それはシゲルたちには関係のないことである。
というわけで、シゲルたちは再びヨーデリア遺跡へと向かった。
遺跡に入る際、入り口にいた騎士の一部から苦い顔をされたが、シゲルたちは気にすることはなかった。
そして、シゲルたちはすぐに大聖堂に向か――わずに、あちこちの建物を見て回ることにした。
とりあえず、大聖堂と同じように精霊が関与していると思われる場所が、ほかにないかどうかを確認することにしたのだ。
ヨーデリア遺跡はさほど広い遺跡ではないので、すべての建物を見て回るのに一日もかからずに終わった。
その後、シゲルたちは当然のようにアマテラス号へと戻ったのである。
「――それで、どうだった?」
アマテラス号に入るなり、フィロメナがシゲルを見ながらそう聞いてきた。
「いや。残念ながら特別な気配は感じなかったよ」
「やはりそうか」
フィロメナは、最初からシゲルがそう答えるだろうと予想はしていた。
ただ、敢えて言葉にして聞いたのは、きちんと確証を得るためと全員の認識を一致させるためだ。
何度か頷いたフィロメナは、皆の顔を見回しながら続けて言った。
「では、明日は個別に確認をするということで構わないか?」
これは、事前に話し合いで決めていたことである。
大聖堂でシゲルが気付いた精霊の気配は、全員で押しかけても姿を見せない可能性もある。
それは、騎士や神官たちが来た時になんの反応を見せなかったことからも推測できる。
それであれば、最初からシゲルだけで向かったほうが良いだろうと、話し合いで決めていたのだ。
ただし、ミカエラだけは一緒についていくことになっている。
フィロメナの確認に、全員が頷いた。
前もっていくつかのパターンは考えていたのだが、一番ありそうな可能性だったので、よく話し合っていたのだ。
ちなみに、フィロメナたちは当初の目的通りに、超古代文明の名残であるかどうかを確認するために、大聖堂以外のところを確認することになっている。
これまで見つけてきた書籍などから当時町があったある程度の場所は特定できるので、それと一致させればいいのだ。
勿論それだけで断言することはできないが、それでも有力な証拠になり得るはずである。
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翌日、シゲルは予定通りにミカエラと一緒に大聖堂へと向かった。
シゲルの後ろからは、当然のようにラグが着いて来ている。
「うーん。やっぱり何回見ても立派な建物だなあ……」
シゲルがそう呟くと、ミカエラが不思議そうな顔になった。
「あら。シゲルにとっては珍しくないんじゃないの?」」
ミカエラは、シゲルが別世界――しかも、技術的に高度に発達した文明から来たということを知っている。
そのため、目の前にあるような大聖堂のような建物は、珍しくないと誤解をしているのだ。
その誤解を解くために、シゲルは首を振りながらミカエラを見た。
「いや。こういう系統の建物がなかったわけではないけれど、少なくとも自分がいた国では珍しい部類だったからね」
「へー、そうなんだ」
「うん。だから、実際に目の当たりにすると、感動するんだよ」
シゲルがそう答えると、ミカエラは納得したのかしていないのか、曖昧な状態で頷いた。
実際、シゲルがいた日本では、大聖堂なんていう歴史的な建物は存在していなかった。
そもそも、宗教の系統が違っていたのだから当然である。
その辺りの感覚は、もとから三大宗教が混在しているミカエラには分かりづらいことなのだ。
ついでにいえば、この世界の三大宗教は、信仰が違うからといってその建物が大きく違っているというわけではない。
地球と比較して、宗教の起こり自体が違っているのだからある意味当然なのだが、やはりシゲルには違和感を覚える事実ではある。
超古代文明からある宗教が、どうやって発展していったかも分からない状況では、どうしてそういうことになっているのかも調べるのは難しい。
そのため、今のところシゲルは、その辺りのことを深く突っ込んで調べようとは考えていない。
そんな会話をしながらシゲルとミカエラは、大聖堂の中へと入った。
「――どう?」
建物の中に入るなり周囲をキョロキョロと見始めたシゲルに、ミカエラがそう聞いてきた。
「うーん。どうかな? やっぱり精霊の気配らしきものは感じるけれど……」
シゲルは首を傾げながらそう答えて、天井のある一点を見詰めた。
そこが一番精霊の気配を強く感じたのだ。
だが、いくらシゲルが見詰めてもなんの変化も起こらない。
そのためシゲルは、確認するようにラグを見た。
「どうかな?」
「はい。あちらによく出ていたことは、間違いないようです。それから、今はいないことも」
「あー、やっぱりか」
納得して頷くシゲルに続けるように、ミカエラがラグを見ながら聞いた。
「どれくらい前にいたかはわかる?」
「昨日の夜には一度出ていたようです」
ラグのその答えを聞いたミカエラは、驚きで目をパチクリさせた。
ミカエラは、例えば一週間とかそれ以上前に精霊が出ていたと考えていたのだ。
「そうなの? どの属性の精霊かはわかる?」
「さすがに、そこまでは……」
「ああ、ごめんなさい。分からなくても怒ったりはしないわよ。むしろ、昨夜来ていたと分かっただけでも、十分な収穫よ?」
ミカエラは、そう答えながらなにかを考える様子になった。
そのミカエラの姿を見たシゲルは、首を傾げながら聞いた。
「なにかあった?」
「いえ。人がいないときに出て来るのは良いとして、その目的ってなにかしらと思ってね。――――ねえ。前回来た時に感じたのは、今回と同じ場所?」
ミカエラにそう問われたシゲルは、一週だけ考えて首を左右に振った。
「いや、全然違う場所…………って、そういうことか」
シゲルは、ミカエラが言いたいことに気付いて、納得した顔で頷いた。
どんな精霊かは分からないが、シゲルが感じた限りでは場所を変えて出現している。
今のところ二カ所でしかないが、それはどちらも天井画のある場所である。
となれば、天井画の修復か維持のために出ていると考えるのは自然なことだ。
それであれば、精霊がなんのためにこの場所に出現しているのかという理由づけにもなるはずだった。
そう考えたシゲルは、少しだけ間を空けてから言った。
「確証を得るために、また何日か空けてから来たほうがいいかな?」
「どうかしら? まだシゲルがいないところで出て来ると限ったわけじゃないし……まあ、とりあえずは様子見でしょうね」
シゲルの考えに同意しつつ、ミカエラは別の可能性も考えてそう答えた。
とにかく、今回の観察で、大聖堂に精霊が居着いているというのは間違いなさそうだということはわかった。
あとは、その目的を知ることと、出来るならコミュニケーションを取りたいと考えるシゲルなのであった。
次はフィロメナたちの成果からになります。




