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(11)遺物の調査

 改めて遺物の全体を見てみれば、前面と思われる側に、ボタンやら摘まみがあって左右にひねることができるものが付いていることがわかる。

 どれだけ長い間保管をしていたのか分からないが、それがしっかりと動くだけでも王家の遺物に対する思いは理解できる。

 使い方が分からない物を埃が貯まったりしないように保管しておくだけでも、それなりの手間がかかるものだ。

 それはそれとして、シゲルはその遺物を前にして首をひねっていた。

「見ただけでもだいぶ古い物だというのは分かるけれど、これがどうして魔道具だと思われていないのかな?」

 シゲルからすれば、なにかの道具として使っていたことはすぐにわかる。

 勿論、なんのために使っていたのかまでは分かっていないが。

 

 とにかく、シゲルらしいその意見に、フィロメナが苦笑をしながら解説をした。

「見た目だけならそう考えるかもしれないな。ただ、これには、魔道具とするには致命的な欠陥があるはずだ」

「致命的な欠陥?」

 見ただけではそれがなにか分からずに、シゲルは首を傾げた。

 

 そのシゲルを見て一度頷いたフィロメナは、以前見た文献を思い出すような顔になった。

「確か、なにをしようが、それこそきちんと魔力を補充して動かそうが、なんのために動いているのかさっぱり分からないそうだ」

「そうね。もっといえば、魔力の補充をしても勝手に抜け落ちてしまうことからも、神に魔力を捧げていたのではと言われていたはずよ」

 フィロメナの説明を捕捉するように、マリーナが続けてそう言った。

「へー、魔力の補充が神様への捧げものになるんだ」

「そういう考え方は、いまでも残っているわよ」

 マリーナがそう答えると、シゲルは「なるほど」と頷いた。

 

 道具は人の生活に役立てるために作る物だという認識は、この世界でも変わらない。

 それであれば、なにに使うのか全く分からない物を魔道具だと思わないのは、ある意味当然のことなのかも知れない。

 フィロメナとマリーナの説明を聞いたシゲルは、目の前にある遺物を見ながら全く別のことを考えていた。

 やはりシゲルの目には、祈りの対象としてではなく、なにかのための道具にしか見えないのだ。

 

 できるだけ摩耗しないようにつまみをひねったりしていたシゲルは、ふとなにかを思いついたような顔になった。

「――――いや、まさか……でも、そうとしか。だとしたら、対象は……?」

 そうぶつぶつと呟き始めたシゲルを見て、フィロメナたちは同時に顔を見合わせた。

 その様子を見れば、シゲルがなにかを思いついたのは確かだが、集中しているようなので声をかけるのは躊躇われた。

 

 そんな中、最初に声をかけたのは、やはりというべきかフィロメナだった。

「シゲル、なにか分かったのか?」

「うーん……。分かったと言っていいのか……。――ちょっと聞くけれど、これと同じような物は見つかっていないんだよね?」

 シゲルの問いに、フィロメナはすぐに頷いた。

「ああ。見つかっていない、はずだ」

 最後にほんの少しだけ間を空けて答えたのは、どこかの国や組織で秘匿している可能性を考えたからだ。

 それでも最後に言い切ったのは、秘匿されている物のことを考えても仕方ないからである。

 

 シゲルにとってはそこは非常に重要なことなのだが、すぐに国が隠しているという可能性を考えて納得した。

 そんな大きな組織を相手に、個人で公開しろと迫っても意味がない。

 それがたとえ勇者であるフィロメナや、最近になって注目されているシゲルであってもだ。

 それに、シゲルもフィロメナも、そんなことでごり押しをするつもりはまったくない。

 

 というわけで、隠されている可能性のことは考えずに、シゲルは「なるほど」とだけ頷いた。

 そしてシゲルは、再び思考をする顔になっていたが、今回はすぐに動き始めた。

 さらに、その遺物の『スイッチ』らしきところに手を伸ばしたシゲルは、下がっているそのつまみを上へと上げた。

 すると、一度だけその遺物が「ヴォン」という鈍い音を立てて、動き始めたことがわかった。

 

 迷わずその遺物を起動させたシゲルを見て、女性陣や周りにいた見張りの者たちが驚きで目を見張っていた。

 もっとも、フィロメナたちは、シゲルがやることとすぐに理解をしてその表情も収まっていた。

「なにをしたんだ?」

「いや、普通に起動するようにスイッチを入れただけ」

 フィロメナの問いに、シゲルはどうということもないという顔で答えた。

 実際、シゲルにとっては大したことではなかった。

 ちなみに、普段アマテラス号に乗っているフィロメナたちがスイッチに気付いていなかったのは、似たようなものが付いていないからである。

 

 シゲルが特に表情を変えていなかったのは、このくらいのことは他の調査員もできていたと予想しているためだ。

 つまみのスイッチを上にあげることくらいは、だれでもやってみることの一つだろう。

 そんなことは百も承知なので、シゲルは淡々と起動した遺物をさらに調べ始めた。

「――――うーん。……やっぱりこれって、もしかしたらもしかするのかな?」

 前面についているつまみをひねったり、スピーカ(・・・・)らしきところから雑音・・が聞こえてきたりするのを確認したシゲルは、もしかしてという考えが浮かんでいた。

 

 その疑念を確証に変えるために、シゲルはフィロメナたちを見ながら言った。

「ちょっとアマテラス号に戻りたいんだけれど、いいかな? それで、何人かはこっちに残っていてほしいんだ」

「それは構わないんだが……」

 唐突にそんなことを言い出したシゲルに、さすがにフィロメナは戸惑いながら頷いた。

 見れば、他の面々も同じような顔になっている。

 

 それに気づきながらシゲルはさらに続けて言った。

「あ、それからラグもこっちに残っていてね」

「私も、ですか?」

「うん。もしかしたら『通話』が必要になるかも知れないから」

 ここで言う通話というのは、精霊同士が行える距離を無視した会話のことだ。

 以前、メリヤージュが教えてくれた会話方式がそれにあたる。

 ちなみに、正式は名前はついていないようなので、シゲルが便宜上そう呼び始めていた。

 

 ラグは、シゲルの言葉にすぐに頷いていた。

 シゲルの側には、ほかにも通話が使える精霊はいるので、問題にはならない。

「というわけで、さっそく移動したいんだけれど、誰が残って誰が着いて来る?」

 別に、今のシゲルであれば一人で移動しても構わないのだが、誰かが着いて来たがるだろうと考えてそう聞いた。

 すると、当然とばかりにフィロメナが右手を上げながら言った。

「私は一緒に行くぞ」

「そう? それじゃあ私はこっちに残るわ」

 フィロメナに続いてそう言ったのはミカエラだ。

 

 そして、残ったマリーナとラウラは、一度顔を見合わせてから続けるように言った。

「それじゃあ、私も残るわね」

「わたくしは、シゲルさんと一緒に行きます」

 きれいに二対二に分かれた結果になったが、別にわざとそうしたわけではない。

 婚約者組が、全員シゲルの傍についていくことがおかしいわけではないのだが、それでも一人くらいはこちらにいた方がいいだろうと考えてのことだ。

 ミカエラがシゲルについていくと言えば、マリーナとラウラが揃って残っていたはずだ。

 

 過程はともかくとして、移動組と残留組は決まった。

 それを見ていたシゲルたちは、早速とばかりにその場から移動し始めた。

 そして、残されたミカエラとマリーナは、その場にいたノーランド王国の役人たちからの「どういうことだ」という視線にさらされることになるのであった。

果たして遺物はなんの魔道具なのか!?

……まあ、ここまで書いていると、皆さまには丸わかりでしょうw

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