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(4)シゲル自身の考え

 フィロメナたちが一致団結をしていたその頃、シゲルはシゲルで自室に入って先ほどの会話のことを考えていた。

 思い起こされるのは、ミカエラが言ったことだ。

 それがなにかといえば、シゲルは精霊使いではなく、別のなにかといったことだ。

 別にそれを否定したいわけではなく、むしろ全く同じ意見なのだ。

 これまでシゲルは、ミカエラから精霊使いとしての考え方や技法をいろいろと教わってきた。

 勿論それらの全てを否定するわけではないが、どこかでなにかが違っているのではないかという思いも一部であった。

 先日、ホルスタット王国で見つけた書物にもあったように、エルフとヒューマンでの違いなどにもそれは現れていた。

 それが、今回の話し合いで、さらに違いがあると分かったわけである。

 

 シゲルが普通の精霊使いではなく、精霊を育てる者としての扱いになったからといって、なにかが大きく変わるわけではない。

 これまで通りミカエラから精霊術についても教わっていくだろうし、シゲルもそのつもりで術を使っていくだろう。

 細かい変更はあるだろうが、それは別に精霊使いと精霊育成師の違いではなく、個々の能力や資質の違いで変わってくるのと大した違いはない。

 問題なのは、シゲルの気持ちの問題だ。

 

 これまでシゲルは事あるごとに、普通ではないとか常識外れなどと言われてきた。

 その自覚は勿論あったし、そもそも出身が全く違う世界なのだからそれも当然だと考えてきた。

 ただ、それだけではなく、精霊育成師としてこの世界(・・・・)でもこれまでいなかったような存在だと言われると、改めてシゲルの中で腑に落ちるものがあった。

 精霊使いと精霊育成師は、根本では大きな違いはないが、細かいところで違いがある。

 それは、同じ剣士でも流派や師匠によって動きに違いが出て来るのと似たようなものだ。

 そのことを自覚できれば、これまでとはまた違った考え方や動きができるはずだ。

 要は、先ほどの話し合いで、シゲルの中でもようやく理解と覚悟が固まったのである。

 

 

 『精霊の宿屋』を開いて、画面内で動き回っている精霊を見ながらシゲルはポツリと呟いた。

「精霊育成師……か」

 気恥ずかしさはあるものの、自分の中ですんなりと受け入れられている自分に、シゲルは多少なりとも驚いている。

 ただ、確かにシゲルの中では、精霊を使う者としてよりも精霊を育てている者としての意識のほうが強いかも知れない。

 それは、『精霊の宿屋』で動き回っている精霊を見て、猶更そう思えるのだということが実感できた。

 

 精霊育成師として生きると気持ちを固めていたシゲルに、護衛についていたリグが話しかけてきた。

「シゲル、大丈夫?」

「うん? えっ……? ああ、ごめん。心配かけたね。なにもないから安心していいよ」

 『精霊の宿屋』の画面からリグへと視線を向けたシゲルは、ここでようやく契約精霊たちの様子に気が付いた。

 話しかけてきたリグもそうだが、同じように護衛についていたサクラも心配そうな表情でシゲルを見ている。

 

 シゲルは、その顔を見て彼女たちが誤解をしていると気付いて、安心させるように笑って続けた。

「さっきの話だったら、特に変に考えていたりはしないよ。むしろ逆に、覚悟が決まった感じかな」

「覚悟?」

 そう言って首を傾げるリグに、シゲルは頷いた。

「そう。覚悟。どうも自分は、今まで異世界に来たということに戸惑ったり浮かれたりで、地に足が着いていなかったみたいだ。勿論、フィロメナたちのことは別にしてだけれどね」

 フィロメナ、マリーナ、ラウラとの婚約は、ある意味でこの世界で生きるという覚悟を決める第一段階であったかもしれない。

 だが、今回のは、シゲル自身のこの世界での立ち位置を改めて確認する意味では大きなことだった。

 精霊使いとしては首を傾げる状態だったのが、精霊育成師として生きると決めたときに、すんなりと自分の中で精霊育成師として気持ちが固まっていた。

 

 シゲルのその言葉でようやく安心したのか、リグとサクラはここでようやくいつも通りの表情に戻った。

「そう。てっきり私たちの存在が、邪魔になったのかと思ったから……」

「ハハハ。それはないよ。むしろ、君たちがいてくれたからこそ、ここまでやって来れたんだと思うよ」

 当然ながらフィロメナたちの存在も大きいが、それはそれである。

 この世界に来てすぐに触れ合うことになった契約精霊たちには、今でも感謝してもしきれない思いがある。

 それは、シゲル自身が一番よくわかっていることだ。

 

 ゲームどころかテレビさえもないこの世界で、シゲルにとって『精霊の宿屋』はある意味ゲーム感覚で楽しめるものだ。

 勿論、精霊たちは現実に存在している者で、場合によっては生き死にすることもあり得る。

 それは十分に理解した上で、それでも『精霊の宿屋』を調整している間は、シゲルにとっての娯楽の一種であることは紛れもない事実であった。

 精霊たちの存在もさることながら、『精霊の宿屋』があったからこそ、この世界で退屈をせずに済んでいる。

 シゲルはそれをいちいち口にすることはないし、今後も言葉にすることはないだろう。

 

 そんなことを考えたシゲルは、再度リグを見ながら言った。

「とにかく、君たちはこれまで通りでいてくれればそれでいいから。それに、直してほしいことがあれば、ちゃんと言うしね。いきなり見捨てるようなことはないよ。それだけは断言できる」

「うん。わかった」

 シゲルの言葉を聞いたリグは、嬉しそうな顔になって頷いた。

 

 

 シゲルの顔を見てもう大丈夫だと考えたのか、リグはここで別の質問をしてきた。

「そういえば、エアリアル様が言っていたけれど、どうしてシゲルは大精霊をもっと便利に使おうとしないの?」

「いや、もっと便利にって」

 言いたいことは分かるのだが、あまりにも直接的すぎる表現に、シゲルは思わず苦笑してしまった。

 リグらしいといえばリグらしいが、彼女のことを知らない者が聞けば、誤解をしてしまうような表現ではある。

 

 もっともシゲルはリグのことをよく知っているので、それ以上の突っ込みはしなかった。

「彼女たちは大精霊なんだからとか、あまり慣れていないからとか、いろいろ理由はあったけれどね。それも今回のことで説明がつくかな」

 シゲルのその言葉を聞いて、リグは無言のまま首を傾げた。

 続きを促しているようにも見えるその仕草に、シゲルはさらに続けて言った。

「やっぱり自分が育てている精霊を使うのが筋なんだと思うよ。……なんて言葉にすると、取ってつけたような理由のように聞こえるかな?」

 シゲルはそう言いながら、少しだけ笑っていた。

 

 これまでシゲルは、いろいろと言いわけをしながらなるべく大精霊を呼び出さないようにしてきた。

 フィロメナたちのようなこちらの世界のように、大精霊に対する恐れのようなものがあるからではない。

 それでも、他の契約精霊と区別をしてきたわけで、結局のところ一言でいえば精霊育成師だからということに繋がる。

 この表現が正しいかどうかは別として、仲のいい他人と仲のいい家族ではやはりその対応にも差が出るというわけだ。

 大精霊たちをないがしろにするつもりは全くないが、これからもリグたちとは差をつけた対応をしていくことになるというのが、シゲルの考えだ。

 

 

 このように、精霊育成師になるということは、シゲル自身にも大きな感情の変化をもたらす結果となった。

 それが良いことなのか悪いことなんかは、今のところはまだ結論が出ていない。

 ただ、シゲル自身は、いい方向でそれを捉えて受け入れていた。

 そして、シゲルがそれを受けいれることによって、さらにはフィロメナたちの活躍もあって、精霊育成師という言葉は徐々に世間に浸透し始める。

 ――のだが、それはまだもう少し先の話なのであった。

これにて精霊育成師としての話は一区切りでしょうか。

外に広めるのは、これからちょこちょこと出て来ると思います。(タブン)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 導師って呼称、殊更、強調されてた訳ではないですが、神にも近しい存在みたいな扱いの大精霊が使ってたのに誰も覚えていないし意識もされてない結果が精霊育成師って名前だと思うと微妙な気分になり…
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