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(16)拡張の条件?

 アドルフ王への写本のお願いと闘技場での用事を終えたシゲルたちは、いつものようにフィロメナの家へと戻った。

 ふたつの国に写本をお願いしているということもあって、しばらくの間遠出する予定はない。

 そもそも、それぞれの遺跡での調査をしたこともあって、皆がいろいろと研究を抱えているのが現状なのだ。

 当分は遺跡で見つけた資料の整理など、自分たちの仕事に追われることが確定している。

 シゲル自身は遺跡に調査はさほど関わってはいないが、それでも考えるべきことはある。

 

 その考えることがなにかといえば、勿論『精霊の宿屋』のことだ。

「リグたちがほかの精霊を使えるようになって運営が楽になったのは確かだけれど、今度は別の理由で訪問数が伸びなくなっているんだよなあ……」

 悩ましい顔でそう言ったシゲルだが、理由はきちんとわかっている。

「広さが変わらないと、いくら細かく環境を変えてもたくさん増えるということはないわね」

 シゲルの言葉に続いて、リグがきちんとした分析を返してきた。

 それは、どちらかといえば、数字の上での分析というよりも、精霊としての感覚での答えだったが、それはそれでシゲルにとっては貴重な意見だ。

 シゲルには分からない精霊の感覚を知ることができるというのは、なによりも貴重な言葉なのだ。

 

 リグの言葉を聞いたシゲルは、腕を組みながら首を傾げた。

「やっぱりいくら環境を変えても駄目かな?」

「駄目ってことはないと思うけれど、増えても少しずつだけだと思うわよ?」

 現状『精霊の宿屋』は、少なくとも契約精霊たちにとっては過ごしやすい環境になっているそうだ。

 そのため、下手にいじればそれが逆効果になりかねない。

 それに、環境そのものを大きく変えたとしてもそれが良い結果になるとは、誰にも分らないのである。

 

 精霊にも当然ながら「大きさ」という概念はある。

 それであれば、当然のように過ごしやすいスペースや環境というのがあるので、数が頭打ちになるのは致し方のないことではある。

 シゲルが考えるような精霊数の大幅な増加を狙うのであれば、やはり『精霊の宿屋』自体を大きくする必要があるのだ。

 シゲルの本音で言えば、単純に広さを大きくするだけではなく、色々と中身をいじった上で訪問数を増やしたいところだが、そう上手くはいかないのが現実だった。

 

 ちなみに、いかに精霊の訪問数を増やすことができるかと考えているシゲルだが、あまりそこにこだわっているわけではない。

 ではなぜ頭を悩ませているかといえば、理由は簡単である。

「でも、やっぱり来てくれる精霊が増えると嬉しいわよね~。今となっては、従ってくれる精霊が増えるということにもつながるし」

 ――というわけである。

 リグのそのセリフを聞いたシゲルは、どうするべきかと悩みつつ「そうだね」と返した。

 

 リグたちが特級精霊になる前からそうだったが、契約精霊にとっては、やはり『精霊の宿屋』に来る精霊が増えるというのはうれしいことなのだ。

 その精霊たちの顔を見るのが楽しいので、シゲルも色々と工夫を重ねながら『精霊の宿屋』への精霊の訪問数を増やそうとしているのである。

 そもそも今のシゲルは、精霊石の換金に頼らなくても幾つかの収入ルートがある。

 それは闘技場での戦いもそうだし、以前に作った調味料(味噌、醤油)もそうだ。

 調味料に関してはまだまだ研究段階ということもあって、入ってくる金銭は微々たるものだが、贅沢さえしなければ普通に生活できるくらいの収入はある。

 もっとも、精霊石に関しては、フィロメナたちが欲しがっているということもあって、未だに換金は続けているのだが。

 

 そんなわけで、今はほとんど契約精霊たちの為に『精霊の宿屋』を大きくしようとしているというのが実際のところだった。

 勿論、シゲル自身もゲーム感覚で楽しんでやっているので、文句など出るはずがないのだが。

「となると、やっぱり拡張するのが一番だと思うんだけれど……これがまた意味が分からないんだよなあ」

 意味が分からないというよりも、手の出しようがないという方が正しいかも知れない。

 なにしろ、最初の頃と違って、今の『精霊の宿屋』ではご丁寧に拡張条件を示してくれるなんていう状態ではない。

 これまでも、どうにか条件表示がされないかと頑張ってみたが、そこまで甘くはないのである。

 

 先ほどと同じように首を傾げながら『精霊の宿屋』を眺めているシゲルを見て、リグが言ってきた。

「いっそのこと、五つ目の『精霊魂』でも手に入れることを目標にしてみたら?」

「セイレイコン? なに、それ?」

 初めて聞く単語に、シゲルは首を傾げた。

「あら、知らずに使っていたの? エアリアルから貰った風の凝りがそうよ?」

「あー、あれか」

 リグの説明に、シゲルは納得の声を上げた。

 それと同時にほかの三つについてもなんのことだかがすぐにわかった。

 要するに、大精霊たちから貰った謎(?)のアイテムが、精霊魂と呼ばれるものなのだ。

 

 確かにシゲルも、あれらのアイテムが拡張の条件になっているのでは無いかと考えたことがある。

 ただ、そのことを出来るだけ考えないようにしていたのは、一つの大きな問題があるためだ。

「――――残念ながら土の大精霊がどこにいるのか、全くわからないんだよなあ。それに、そもそも会えたからといって、必ず貰えるとは限らないし」

 今までは会えた全ての大精霊から精霊魂貰うことができたが、これから先もそうだとは限らない。

 そもそも、五つ目である土系統の大精霊がどこにいるかもシゲルは知らない。

 以前、フィロメナたちに聞いたことがあったが、残念ながら彼女たちも知らないようだった。

 

 悩ましい顔をしているシゲルに、リグが不思議そうな顔になって聞いてきた。

「大精霊の誰かに聞けばわかるんじゃないの?」

「あー、やっぱりそうなるか」

 神格化に近い状態にある大精霊には出来るだけ頼りたくないと考えているシゲルだったが、それは時と場合による。

 今回は、どうしても頼らざるを得ない場合に当たると考えたシゲルは、諦めてため息をついた。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 いくら大精霊に頼ると決めたからといっても、きちんと礼儀は守るつもりだ。

 契約をしているからと言って、安易に呼び出すことはせずに、きちんと自ら大精霊の普段いる場所に出向くつもりだった。

 そのため、シゲルはその旨をフィロメナたちへと伝えた。

「――というわけだから、ちょっとエアリアルのところにでも行ってくるよ」

 エアリアルと会うことに決めたのは、ついでにアマテラス号のメンテナンスも頼むつもりだからだ。

 

 シゲルの話を聞いたフィロメナは、苦笑しながら返してきた。

「風の大精霊のところに行くのは構わないが、気楽な調子なのがシゲルらしいというかなんというか……」

「そうよ! 普通はそんな簡単に言うべきことではないのよ!?」

 いつものように(?)多少興奮した様子でそう言ってきたミカエラに、シゲルは反省したような顔になった。

「いや、一応頭では理解しているんだけれど、なかなか実感するのが難しくて……」

 シゲルとしても、どうにか一般的な感覚を身に着けようとしているのだが、最初の出会いが出会いだっただけに、それを修正するのが難しいのだ。

 

 そんなシゲルに対して、マリーナが首を振りながら言った。

「いいえ。シゲルは今のままのほうが良いのかもしれないわ。無理に修正する必要はないわよ」

「どういうことよ?」

 マリーナの言葉に、ミカエラが不思議そうな顔になった。

 今までは、どうにかシゲルに普通の感覚を身に着けさせようとしていただけに、マリーナの方針転換が不思議だったのだ。

 

 そんなミカエラに、マリーナが少し考えるような顔になっていった。

「そもそもシゲルが大精霊と普通に接していられるのは、そういう感覚があるからじゃないかしら? それを変に矯正してもいいのかと、最近考えるようになったのよ」

「むっ……。確かに、そうだな」

 マリーナの説明を聞いたフィロメナが、小さく頷きながらそう返してきた。

 ミカエラもその言葉には一理あると思っているのか、黙り込んでしまった。

 

 そんな二人の様子を見て、マリーナが笑いながらさらに続けて言った。

「あまり深く考えても仕方ないわね。とりあえず、シゲルはシゲルらしくいればいいと思うわよ」

「賛成です」

 マリーナの言葉に、ラウラも同意してきた。

 

 結局この時の話し合いで、一般常識としての範囲はきちんと知った上で、シゲルはシゲルらしくいるのがいいということが決まるのであった。

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